表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/17

臆病者の王子様


ジャックside


短めです。




 「……どう?」


 ジャックは己のベッドに横たわる、憐れな程やせ細った子どもの額に鼻を押し付けているナイシュに聞いた。


 「……大丈夫だ。気は触れてはいない。脈もしっかりしているし、精神の波長もだいぶ落ち着いた」


 その言葉に、ジャックは胸を撫で下ろした。


 「そっか、良かった……」




 木箱を開けた途端叫び出したスラは、狂ったように暴れ出した。獣のように意味を成さない音を叫び、取付かれたように腕を振り回し、逃げるように駆けまわり――縋るように、自分を傷つけようとした。


 自傷に走りそうになった時点で、ナイシュが魔法によって無理矢理スラを眠らせたのだが、強制的な眠りはかけられた者の精神を傷つけてしまう危険性があった。ただでさえスラは危うい精神状態だったので心配だったが、どうにか落ち着くことができたようだ。


 「……何だったのだろうな」


 ポツリと呟かれたナイシュの言葉は、闇に染まる部屋に解けて行った。たぶん、独り言なのだろうその言葉に、けれど、ジャックも同じことを思っていたから。


 「分からない。でも、アレのせいなんだとは思うよ」


 「『有翼人種の翼』か――」






 この世界には、翼を持った人類が存在する。


有翼人種と呼ばれる彼らは、膨大な魔力をその翼に宿していた。それによって空を飛び魔法を使う、彼らにとって、翼は命だった。しかし、人はその膨大な魔力欲しさに有翼人種を狩った。空から引きずり降ろし、翼を捥いで、様々な魔法具の燃料に当てたのだ。迫害を恐れた有翼人種は、人の手の届かない雲の上に自分達の国を作り、そこで今も生きていると言われている。






 「……確かに、魔力の強い者なら、あの翼の魔力に触発されて暴走してもおかしくはないが……スラには、魔力などほとんどない」


 それは、ジャックだって気が付いていた。最初に会った時、一人で森を抜けてきたと言われた時に、調べていた。


 「そうなんだよね。……起きた時に、聞くしかないかな」


 「果たして、正直に話してくれるかどうか……意外と頑固だぞ」


 「確かに」


 スラの為の装飾品を選んでいた時のやり取りを思い出し、番犬たちの顔に苦笑が浮かんだ。けれど、空気が緩んだのは短い時間で、すぐにまた重い沈黙が下りてくる。


 「…………」


 「…………」


 ジャックは普段自分が使っている寝台に近寄って、眠るスラの顔を覗きこむ。


 こけた頬に、不健康そうな顔色。肌は陽に焼けかさついていて、余程ジャックの肌のほうがキメが細かく艶々していた。けれど、顔立ちはそれほど悪くない。ふっくらとした唇は手入れをすれば艶めくだろうし、今は閉じられている目はまん丸で、瞳が大きいせいか、どこか小動物を彷彿とさせた。睫毛だって長いし、きっと普通の生活をしていれば、美人と人から言われていただろう。



 そう。



 普通の生活をしていれば。



 最初、貧相な体つきや、ぼさぼさの髪や、布切れのような服を見て、スラは貧しい家の子なのだろうと思った。


 「主の宝物を探しに来た」と言われた時、奉公にでも出されているのかと思った。


 でも、スラが選ばれた理由や、それを語る時のスラの様子で分かった。


 スラは、奴隷かそれに近しい身分なのだ、と。


 理由は今でも分からないが、それが分かった時、ジャックはスラを帰したくないと思った。帰らなくていいと思った。そんな場所に帰るくらいなら、ずっとここで暮らしていけばいいと思った。……でも、その為にはスラ自身の意思が必要不可欠だ。分かっているのに、ジャックはスラに聞く事ができないでいた。



 怖かったのだ。



 小さく細く、きっとジャックが少し力を入れただけで死んでしまうような、脆弱な存在に拒絶されることが、怖かったのだ。



 ジャックは化物と言われても仕方ないほど、人間からかけ離れてしまっている。


 自らの意思で、こんなに不便で不気味な身体になったわけではない。けれど、事実ジャックは不老不死の体で、そんな姿を既にスラに見られてしまっていた。スラに気絶された時、怖がられてしまったかもしれない、と一人怯えていた。


 結局、スラの態度は変わらなかったけれど、それは宝物を探す協力が欲しいからそのように振る舞っていただけかもしれなくて、そんな不安があるから、ジャックはスラに聞けなかった。




 一緒に暮らさない?と。




 「――い。おい、ジャック」


 「へ?」


 物思いに耽っていたジャックは、自分を呼ぶナイシュの声ではっと我に返った。


 「悪い、聞いてなかった。何?」


 「お前はどこで寝るのかと聞いたのだ」


 あぁ、とジャックはスラの眠るベッドへ目を向ける。この廃墟化の進んだ屋敷の中では、すぐに使えるベッドがジャックの物だけだったのだ。ナイシュの様子を見るに、スラと一緒のベッドで寝ることは許されないようで、それは少し勿体無い気がしたけれど、ジャックにはやりたいこともあったから潔く諦めることにした。


 「僕は野暮用を済ませてくるよ。多分、夜が明けるまで帰れないと思うから、寝る場所はいいや」


 「用?こんな時間に?何処へ?」


 「……なんか、思春期の子どもを持つ母親みたいな言い方だな……」


 「誰がっ」

 「しー。スラ起きちゃうよ」


 魔法で眠らせている為どんなに大きな声を出そうと起きないのだが、小さな寝息を立てるスラに遠慮したのかナイシュは怒鳴り声を飲みこんだ。


 「ちょっと森に探し物をしに行くだけだよ。安心しろ」


 その言葉で、ナイシュはジャックのやろうとしていることを悟ったのか、一瞬目を瞠る。


 「……見つかると思うのか?」


 「さぁ。最悪魔物のお腹の中だろうからねー」


 「私も行こう」


 「いや、ナイシュはスラの側にいて。その方が気にせず探せるから」


 ナイシュはそれ以上言葉を重ねることはせず、ただ静かに頷いた。

 それにジャックも頷き返して、部屋のドアへと向かう。


 何となく気になって振り返ると、ナイシュがベッドの下に寝そべっていた。きっと、ここで夜を明かす気なのだろう。


 まさに『番犬』だな、と少し笑って、ジャックはドアに手をかける。だがジャックは立ち止まり、気まぐれのようにナイシュに声をかけた。


 「良かったな、ナイシュ。名前が出来て」


 「…………お前に呼ばれても、嬉しくなどない」


 ふん、とそっぽを向くナイシュに、ジャックは「素直じゃないな」と苦笑して。


 一人夜の森へと出て行った。









読んでいただき、ありがとうございました!


えー、もうストックがありません……

頑張ります…

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ