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首狩りジャック

すみません、13話のタイトルを変更しました。で、14話のタイトルを『首狩りジャック』にしました。こっちが新しい話です。紛らわしいことをしてしまい、申し訳ありません。


では、どうぞ。





 ナイシュに荷物のように銜えられて、スラは『金庫』へと帰って来た。こんな形で再び『金庫』を訪れることになるなんて昼には思いもしなかったし、こんなに急に自分を取り巻く環境が変わるだなんて、変わることがあるだなんて、スラは知らなかった。


 (どう、なっているんだろう?どうなってしまうんだろう?)


 全く分からなくなってしまった未来に、スラは茫然とすることしか出来なかった。


 いつまで経っても呆けたように屋敷を見上げるスラに、ナイシュは「入れ。風邪をひく」と声をかけてくれるが、スラはゆるゆると首を横に振った。


 夜の森は冷たく、スラの細腕は鳥肌が立っていたけれど、今はこの冷たさが有難かった。寒さのお陰で、冷静さを保っていられそうだから。




 「ナイシュさん」


 呼びかけた声は、自分でも驚いてしまうくらい硬質で。


 「……皆、死ぬんですね」


 続いた問いは、どこか責めるような響きを持ってしまった。


 スラの問いに、ナイシュは表情を消した。薄紫の瞳は凪いでいて、綺麗だと、場違いにもスラは見惚れた。


 「――切れたジャックを相手に、生き残れるとは思えん」


 瞳と同じく、静かな声でナイシュは答えた。


 「……そうですか」


 それに応えるスラの声も、とても静かだった。


 不思議と、スラの胸には何の感情も生まれなかった。


 沢山憎んでいたし、沢山恨んでもいた。


 それなのに、死ぬと聞いて、喜びの感情が湧かなかった。


 人類の為に死んだ方がいいとすら思っていたのに、喜べなかった。


 安堵すらも、覚えなくて……。


 ただ、茫然とした。


 あまりにも呆気なさ過ぎて、茫然としてしまう。


 毎日毎日、スラを殴り、踏みつけ、叩き、罵り抜いた、スラにとっての絶対的強者が、こんなに簡単に蹂躙されるなんて――。


 今まで耐え忍んできた日々が、何だか急に馬鹿らしくなった。


 俯き黙ってしまったスラを気遣うように、ナイシュが「スラ」と呼びかけてくる。心配そうなその声にスラが顔を上げれば、ナイシュが息を飲んだ。


 スラは泣いていた。


 笑いながら、涙を流していた。


 泣きたいのか、笑いたいのか、スラにももう分からなかった。人間とは何て不便な生き物なんだろう、とスラは思った。


 「……ジャックさんは、ジャックさんのあの力も、不老不死の力なんですか?」


 ナイシュが何か言いたそうにしていたが、恐らくそれに対し自分は上手く対処しきれないだろう、とスラは思って、別の話題を持ち出した。この話題が適切かどうかはスラにも分からなかったが、それでもナイシュは口を開いてくれた。


 「……いや、あれは、ジャックが初めから持っていた力だ。……スラよ、『首狩り』と呼ばれた王子のことは知っているか?」


 「……『首狩り』?」


 不吉な響きだと思いつつ、スラは首を横に振る。実際知らなかったし、その不吉な王子様とジャックに何の関係があるのか分からなかった。


 「そうか……いや、知らなくとも仕方あるまい。その王子が歴史の表舞台に立っていたのは、もう600年近く前の事だ。それも隣の、今は弱小国となっている国の、王子だった」


 どこか遠くを見るような目をして、ナイシュはその不吉な二つ名を持つ王子様の事を語り出した。


 「その王子は、王と寵妃の間に出来た子であった。多くの人々から祝福されたその胎児は、しかし人間では有り得ない程の魔力を腹に居る時から持っていた。――器に見合わぬ巨大な魔力は、毒となる。赤子の持つ魔力に耐え切れず、寵妃は出産と同時に死に、寵妃を失った王は、妃を奪った赤子を塔に閉じ込めたそうだ。

 与えられるのは日に一度の食事だけ。他には何も与えられる事のなかった王子は、塔にいる間は言葉も解さなかったという。勿論、そんな状態で身に宿る魔力の使い方を学ぶことなど出来るはずもなく、蓄積されるばかりの王子の魔力は、爆発を避ける為王子の身体能力を強化するようになった。

 そして、戦争が起きた。とても大きな戦争だった。それこそ世界を二分するような、大きな。敵国との境界線にあった彼の国は、あっという間に戦火に呑まれ、窮地に立たされた。形振り構っていられなくなった王は、幽閉していた王子を解き放った。巨大な魔力を持っているのだからどうにかなるだろう、とまだ十にもなっていない、言葉も解さない幼子を、戦地に放り込んだのだ。――結果は、王の望んだものとなったのだろう。王子は敵を蹂躙し、国は救われた。だが……王子にとっては、地獄の始まりであった。

 城に部屋を用意され、教師に言葉を学び、日に三度の食事を与えられるようになった。しかし、毎日人を殺す為の訓練を課せられ、実際毎日人を殺させられた。王子は人としてではなく、兵器として生かされていたのだ。それだけが、王子の存在理由だった。

 戦地へ行き、敵を殺す。また戦地へ行き、敵を殺す――その繰り返しだ。名のある敵将の首を持ち帰れば、休日が与えられ、人を殺さなくて良い日が出来た。だから王子は敵の首を狩った。大きな斧で首を狩った。人を殺さない為に、人を殺した。――そうして、その王子は『首狩り』と呼ばれるようになった」


 ナイシュは大きく息をついた。喉につかえた石を吐きだすような、そんな仕草だった。けれど、スラにはまだ分からない。ナイシュの話した内容が、どこに繋がるのか、スラにはまだ分からなかった。


 ……いや、本当は、薄々感づいている。ただ、認めることが出来ないだけだ。決定的な言葉が、欲しいだけだ。


 静かに次の言葉を待つスラに、ナイシュは視線を戻す。その瞳は、何かを見定めようとするかのように真っ直ぐにスラを射抜いた。




 「その、王子の名は――『ジャック』」




 ドクン、とスラの小さな心臓が跳ねた。




 「『首狩りジャック』と、かつて世界から恐れられた男が、あのジャックだ」









読んでいただき、ありがとうございました!


明日も更新できます。

というか、一話で書いてた分が長すぎて、二つに分解して後半にこれから書き足す、という感じなんですが……

あと2~3話くらいで完結予定です。頑張って終わらせます。




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