表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/17

幸せな夢も、いつかは終わるものです


メッチャ短いです。


それでは、どうぞ。






 ゴーゴーと、耳元で風を切る音がする。


 景色を楽しんでいる余裕はなかった。木も草も花も、すべてを置き去りにするようにナイシュは駆けていたから、スラの目は色しか認識できなかったし、振り落とされないようにするので精一杯だった。


 では楽しくなかったのかと聞かれると、そうではない。これ以上ないほどスラは興奮していた。


 馬にすら乗ったことのないスラは、こうして動物に跨り疾走したのは初めてだった。自分で走るのとは比べ物にならないスピードに高揚し、このままどこまでも駆けていけそうな気がした。どこまでもどこまでも、主も自分も放り投げ、名前すら捨て去り、一からやり直せるような気がしてくる。


 たまに主が気分転換に馬を走らせることがあったけれど、その気持ちが少しは分かったような気がした。最も、今スラが跨っているのは伝説のオオカミだし、ナイシュとて馬と比べられるのは嫌だろうが。


 「楽しいか?」


 自分でも意識せず歓声をあげていたらしい。ナイシュに指摘されて、スラは風に負けじと叫んだ。


 「とっても、楽しいです!!」


 「ならば良かった!」


 そう一声吠えて、ナイシュは走るスピードを上げた。それに比例するように、子どもの笑い声も大きくなり、魔の森に響き渡った。






 「ここまでが、限界だ」


 そう言って、ナイシュは森の入口で立ち止まった。目の前には人が作った道があり、その先が人の住む場所だということを教えてくれた。


 スラはナイシュの上から降りると、ふさふさの毛に顔を擦り付けた。


 「何から何まで、本当にありがとうございました」


 ぎゅ、と首にまわした腕に力を入れれば、応えるようにナイシュもスラに顔を擦り付けてくる。それだけのことが、嬉しかった。涙が滲むくらいに、嬉しかった。


 でも泣くわけにはいかない、とスラは奥歯を噛みしめる。


 涙で別れると、良くないことが起きる――そんな迷信めいた言葉が頭をよぎったせいかもしれないし、いつかの悲しい記憶のせいかもしれないかった。でもとにかく、スラは泣きたくなくて、一生懸命我慢した。


 「……ジャックさんにも、ありがとうございました、と伝えて下さい」


 「……分かった。必ず伝えよう」


 ナイシュの耳に心地良い低い声をしっかりと耳刻んで、スラはナイシュから離れた。


 顔が離れてナイシュの薄紫の瞳が見えた。その瞳に映る自分の顔がなんだか悲しそうに見えて、スラはありったけの力で笑顔を作り出す。


 「お元気で」


 そっと、薄紫の瞳が閉じられた。


それを見て、スラはナイシュに背を向ける。


 お別れだ、と悟ったから。


 神様がくれたプレゼントは、もうお終い。


 もう、夢から覚める時間。



 (ありがとう、……ありがとう)


 たった半日、過ごしただけだったけれど。


 (とても、とても楽しかった。貴方達は)


 こんな、何の取り柄もない自分に。


 (美味しいご飯をくれた)


 こんな、価値のない自分に。


 (高価なネックレスをくれた)


 こんな、つまらない自分に。


 (沢山の驚きと、笑いをくれた)


 沢山、沢山、


 (優しく、してくれた)


 その中で、確かに自分は


 (幸せだった……)


 ポロリ、と頬を伝う温かな雫。


 それは、後から後から流れ出て、スラの顔を濡らしていく。でも、拭ったら泣いていることがバレてしまうので、スラは顔を顰めて涙を止めようとした。


 それなのに。




 「スラよ」




 耳に届いたのは、心を包み込んでしまいそうなほど優しく、自分を呼ぶ声。


 スラはその場で立ち止まる。振り返りはしなかった。振り返れば、そちらに駆け戻ってしまいそうだったから。




 「また、おいで」




 スラの小さな肩が大きく跳ねて。


 小さな足は道を全力で駆け出した。


 涙が止まらなくて、嗚咽が止まらなくて、スラは顔を顰めて唇を噛みしめた。腕を精一杯ふって、足を限界まで開いて、村へと一心不乱に駆けた。


 泣いてる分息があがって苦しかった。でも、この胸の苦しさは、きっと走っているせいではなかった。胸が苦しい。温かくて苦くて、今にも胸が張り裂けそうだ。


 スラは走った。いっそ、心臓が破れてしまえばいいと思う程、スラは走った。


 幸せな夢の後遺症を、振り切るように……。



 





読んでいただき、ありがとうございました!


一個前と一緒にしてもよかったかなって思ったんですが、まぁ、いいですよね!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ