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死にたくはないのです



初めまして、夏臣と申します。


誤って短編で上げてしまったので、連載で新しく上げました。

内容はまったく同じです。


本作には暴力表現、それに伴うグロ表現がでてきます。

苦手な方はご注意ください。


稚拙な文章ですが、お付き合いいただければ幸いです。


それでは、どうぞ。








 森の匂いに、溺れてしまいそうだった。

 吸っても吐いても土と緑の匂いが肺に入って来て、最初こそ安らかな気分でいられたが、十数時間も歩き続けた肺には毒のようだった。息が上がり、肺は酸素を欲しているのに入って来るのは森の匂いばかりで、まるで喘いでいるかのような呼吸になってしまう。


 (まだ、着かないのかな。着けるのかな。見つかるのかな)


 大凡の場所しか聞かされていない目的地。そこに、スラは辿り着かなければならなかった。主にそう命令されたのだ。「見つかりませんでした」などという言い訳が通じる相手ではないことは骨身に浸みて分かっていたから、スラはひたすら足を動かしていた。お腹が減り過ぎて痛いくらいだし、喉はカラカラで今にも干からびてしまいそうだったけど、陽が完全に落ちる前には辿り着かなければならない。


 夜の森は、魔物の世界だ。


 姿形はそれぞれだけれども、少なくとも十を少し越えたばかりのスラに、魔物に対抗する術はない。陽が落ちれば、スラは魔物に食われるだろう。だが何も得ずに村に帰っても、主に嬲り殺されるだけだ。


 スラには、主の命令を守るしか生き延びる道はなかった。


 生きたいのか、と聞かれれば、スラは答えに困ってしまうだろう。生き延びたところで、幸せな未来が待っているとは思えなかった。だが逆に死にたいのか、と聞かれれば、それには即座に否と答えられる。死にたくない。それだけは、自信を持って答えられた。


 死にたくないから、スラは小さな足を一生懸命動かした。腐った落ち葉が柔らかくて何度も足を取られるけれど、それにもめげずに足を前に出し続ける。


 そして


 陽が西に沈む少し前に、遂にスラの目の前が開け、大きな屋敷が現れた。

 ずいぶん古いものなのだろう。かつては純白であっただろう壁は泥と蔦に覆われ、屋根は腐敗が進んでいるのか所々穴が空いている。正面に見えるかつては立派であっただろう扉も苔が生え全体的に緑色をしていて、沢山ある窓ガラスもほとんど割れていた。


(…………幽霊屋敷)


 それが、スラがこの屋敷に対して抱いた第一印象だ。


 別に、スラは怖いと思ったわけではない。幽霊よりは生きている人間の方が遥かに恐ろしいと、スラは思う。見た目がどんなに美しくとも、中身が救いようのないくらいに腐っている人間を、スラは何人も見てきた。だから、この屋敷に対して恐怖は抱かなかった。


 (早く、探し物をしないと)


 スラは主の命令を守る為に、屋敷へと入って行った。











読んでいただきありがとうございました。


次回より番犬たちが出てきます。

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