2 - OK, perhaps I'm dreaming.
ふと気が付くとガラス越しの朝日が俺を照らしていた。
伸びをして、そして周りを見渡す。昨日と全く変わる気配のない世界、一面褐色の世界。昨日のアレは夢で、起きたら飛行場についたころ、慌てて荷物をもって電車をでる、そんな希望は一瞬で潰えてしまったわけだ。
「なんだか、なぁ……」
ぼそっと口から言葉が漏れ出る。昨日はどうやら座席に座り茫然自失している間に寝込んでしまったらしい。立ち上がり、全身を大きく伸ばす。座ったまま寝てしまったので体の節々が痛い。前屈、伸脚、腰を回したり、首を回したり。何とな体に気怠さが残っているのは良く眠れなかったからだろうか。もう一度大きく伸びをして深呼吸、これである程度は楽になっただろうか。次からは寝るときは座席に横になって寝よう。
なんだか喉が詰まったような、唾がなく乾燥している。ケフ、と1回咳をする。喉のイガイガが少し取れたような気がして、とりあえず何をしようか。
電車のドアを開け、外に出る。1日電車の中で過ごしたわけで、寝ている間に電車は全く動いていない。昨日確認した通りの光景、車輪の位置すら変わっていない。電車の周りを歩き回り、状況を整理する。
まぁ、整理したくもない結果が俺を待っていた。電車の周りは昨日と悲しいほどに変化がない。強いて言うならば昨日と少しばかり光景が違うというところか。どこが?そう、地面が、だ。
大地は褐色。周りを見れば、草木がほとんど生えていないことから不毛の大地であるとわかる。昨日見つけた小川は濁っていた。つまり土が水に溶けやすいということを示している。そして、それは大地が柔らかいということを示していて、結果風によって風化し砂がまっている。その様相が昨日と違うというだけ。これは風が強いことを示している。
そして、それ以外変化がないということは本当に生物がいないということが確実になってきてしまった。せめて何かの足跡さえあればよかった……それすらも存在せず、そして何かの糞さえもない。これでは何の生物の痕跡さえも見つけることができない。
生物がいないということは非常に厄介な事実だろう。
冷静になった頭で考えれば、それが異常な事態であることは想像にたやすい。生物が住んでいないなんてことはありえるのだろうか。ここがどこかはわからないが、地球であるならば砂漠だとしても何かしらの生物が住んでいる。蛇しかり、蜥蜴しかり、どんな環境であろうと対応した生物がすんでいるのだ。硫黄に塗れた熱湯の中でさえ住んでいる生物がいるのだ、いくら不毛の大地とはいえ何か生息していてもおかしくないだろう。
しかしながら何の痕跡さえも見えないとしたら、少なくとも目に見える生物は存在していないことになる。微生物ならばわからないが。それでは考えられる可能性は何だろうか。褐色の大地、周りに生きた木が見えず、所々に弱弱しい草が生えているのみ。これは何を意味するのか。この世界、地球ではないと仮定するならば、何か病気でも流行ったのだろうか。ただそれにしては生きた木々が生えていないことがおかしい。ならば何か巨大な天変地異が発生し、その結果こうなってしまったと考えるのはどうだろう。全ての生物が死に絶えるほどの状況、世界は火に包まれた、そんなところだろうか。
ふと腹が鳴る。そういえば、昨日の晩から何も食べてきていなかった。周りの状況を鑑みるに、食料は期待できないだろう。電車からスーツケースを取り出し、小川まで歩く。小川に座り、ハンカチとプラスチックの箱を使って飲み水を作ろうと頑張る。やる事は簡単、ハンカチを濾紙代わりに使うだけ、結果残念なことに少し茶色く濁った水になってしまったが、文句は言えない。本当ならばペットボトルでもあればもっと綺麗に濾過できたのだが、そんなものは持っていない。
塩焼き鳥の缶詰を開け、水を飲みながらゆっくりと噛みしめる。数少ない食料、節約して食べなければ。
缶に残った最後の欠片を口に入れる。甘く、そして塩辛いそれは十分な塩分と糖分の補給になるだろう。濁った水は全くもっておいしくなかったが、これを飲まずに脱水で死ぬよりかは遥かにマシだろう。
食料を確認する。1日2食で誤魔化すとして、持って30日かそこら。そこまでには何かを見つけなければならない、食料になるものなり、人の生息区域なり。それに、栄養という問題もある。ビタミンなどが圧倒的に不足しそうな食事、30日後に体がどうなっているのかは想像がつかないが、確実に良くはなっていないだろう。
缶を水で良く洗い、取っておく。蓋は切り口が鋭利なのでナイフ代わりにでも使えるだろう。缶は重しにも使えるだろうし、容器としても使える。
とりあえず、これからの方向性を決める前に穴を掘る。缶をスコップ代わりにして掘り進む。地面は少し柔らかく、十分掘り進められる。
汗がにじみ、穴が40センチほどの深さ、50センチほどの直径になったところでそこに川の水を入れる。中央にはプラスチック容器、ビニール袋を裂いて蓋代わりにし、そしてプラスチック容器の上のあたりに軽く石を置く。どこのサバイバル本にでも書いてあるような簡単なもの、これで少しばかりだろうが綺麗な水が手に入るだろう。
このまま放置しつつ水を追加していけば、明日の朝には結構集まるだろうか。
電車に戻り、方向性を決めることに。
現状、誰もいない、何も生息しているように見えないこの大地。場所はわからないし、携帯電話の電池が切れてしまったため外界との連絡も絶望的だ。ものがない為、火を起こすこともできず、水はあるが食料は数少ない。服はあるので寒さはそこまで怖くないだろう、最悪この電車の中に逃げ込めばいい。雨風はしのげるだろうし、寒さもある程度は緩和されるはずだ。
これからとしては、誰かが生存しているか、もしくは何か生物が生存しているのかを確かめる必要がある。この電車のまわりには確実にいない、ただ離れたらどうだろう。もしかしたら、ここがまだ未開の地である可能性もあるのだ。ただそれにしては生物がいないということがおかしすぎるが。まぁ希望を捨てないで置こう。
それに、草が生えているのだ、どこからか虫は移住してくるだろう。そしてそれを餌にする鳥や小動物、そしてそれらを餌にする大型肉食動物の移住、最終的にはここらにもある程度の生命が繁栄するだろう。ただそれがどれだけ先のことなのか全く想像もつかないが。
さて、色々考えたが、ここを拠点として周辺を探索することにした。どうにかして生き延びる、生き延びていれば誰かに会えるだろうから。地球であるならば誰かしらいつかは来るはずだし、例え違っても俺のようにここに来る人もいるだろうから。
本当は拠点となる電車を動かしつつ移動することが素晴らしい。金属製の電車なんてものは、素晴らしいシェルターになる。例え嵐が来ようと、吹雪が来ようと、この中にいればそれらそのものが直撃するわけではない。例え虎やライオン、羆がこようと、どんな肉食動物であろうとこの金属製の電車は破壊できないだろう。だからこれを拠点にすることは間違っていないはず。スーパーマンよろしく、力が有り余っていて電車なんてすぐ動かせるよ!なんてことであれば楽なのだが、ごく普通の一般人である俺の力ではびくともしないだろう。電車を押すなんてことはレールの上でもないのだから不可能であるし、引くにしても力が足りず紐もない。転がすか?馬鹿な話だ。
だから、探索の中で新たな住処を探す必要がある。そしてそれを足掛かりにしてどんどん先に進み、誰かが住んでいるかもしれない場所を探すのだ。まだ見ぬオアシスを目指して。