【亜人が行く・宴会乱痴気騒編】
ちなみに、この話内には飲酒の描写がされております。
お酒は二十歳になってから!
主人公は二十歳以上ですよ?
番外編【亜人が行く・宴会乱痴気騒編】始まり始まり…
頭から猫の耳を生やした【亜人】…セルナは戸惑っていた。
「セ~ル~ナ~…なんて羨ましい事を~!」
向かいに座っている赤い髪の女性…【赤竜】のルビアはそんな事を言いながら、とんでもない形相で睨んできている。
今にも血涙を流しそうだ。
「…サイテーね。軽蔑するわ。」
隣に座っている緑色の髪の女性…【緑竜】にはメリアは冷めたように突き刺さる視線を向けられ、脇腹を抓られている。
「…なにデレデレしてんのよ!この浮気者!」
メリアに頭を引っ叩かれ、痛そうに頭をさすった。
セルナは、とてつもない後悔に襲われていた。
その原因だが…
「猫さんです…」
そんな事を言いながら密着している【人間】である。
本当に【人間】かどうか分からないが、自己申告では【人間】と言っている。
いつもの無表情は鳴りをひそめ、頬を赤く染めながら蕩けた表情で、セルナに抱き着いている。
「…どうしてこうなった。」
セルナの心からの叫びは、誰の耳にも留まらなかった。
閑話休題
野菜を切る手を止めて、キョトンとした顔でイーナが答えた。
「お酒ですか?」
特にすることもない、天気の良いある昼下がり。
イーナに出された課題も終わり、家でのんびりしていた時のこと。
「ああ、お前が大会で優勝してからさ、なんのお祝いもしてないだろ?だからさ、酒でも飲んで、パーッと騒ごうぜ?」
セルナが言うように、イーナが大会に優勝してから何週間か経つが、なにもお祝いをしていない。
一国を揺るがす大事件に関わっていたので、無理もないが…
「特に祝われる事でもないですけど…別にいいですよ。あ、でも、子どもたちはダメですよ?三人とも眠ってからにしてくださいね。」
お前も十分子どもだけどな、と言いたい所だったが、なんとか直前で呑み込むことができた。
「それでは、料理は私が作りますから、お酒はセルナに任せますね?」
そう言ってセルナが台所を出ると、再び何かを切る音が聞こえてきた。
恐らく、夕飯の用意をしていたのだろう。
イーナの作る食事をセルナはいつも心待ちにしていた。
料理の完成前に呼ばれ、味見を頼まれるのを楽しみにしているほどだ。
まあ、現代の食事水準を中世程度の時代に持ち込めば、大概が美味しく感じるだろうが…
「そんじゃ買いに行くかね。とりあえずたくさん買ってくりゃいいだろ。」
近くの街まで、走っておよそ一時間程度の距離である。
馬車もあるが、一人なら走ったほうが速い。
イーナから袋も借りたので、いくら買おうが重荷になることはないだろう。
閑話休題
「それでは、乾杯しましょうか。」
「おう、乾杯!」
「乾杯です!」
「乾杯ね。」
グラス同士がぶつかった、カーンと言う音が広間に響いた。
「そんじゃ、今日は無礼講な?飲めや食えやだコノヤロー!」
セルナはグラスに注がれたお酒を一気に飲み干し、机に並べられた料理に手を伸ばした。
唐揚げや焼き鳥と言った定番の物から、それぞれのリクエストに答えた料理もある。
これらは全てイーナが作ったものだ。
「…それは構いませんが、あまり大声を出さないでください。子ども達が起きてしまいます。」
「イーナさ~ん、これがお酒ですか~?なんだか~フラフラします~」
お酒を飲み干した後、ほんのりと頬を染めたルビアは、
「ルビア、お酒は初めてでしょう?あまり飲まないほうがいいですよ。ほら、料理も食べてください。」
イーナは料理に箸を伸ばし、ルビアの口に近づけた。
「い、いいいイーナさん!こ、これは…あ~ん…美味しいです…」
赤かった頬が更に赤く染めながら口を開け、唐揚げを頬張った。
先に言っておくと、この世界【ケミスト】は【地球】の中世欧米の文化水準と酷似した世界である。
その時代のお酒と言えば、熟成酒であるウィスキーや蒸留酒であるウォッカ、それにワインなどが主である。
「それにしても、樽でこんなに買って来るとは…全部飲むつもりですか?まあ、缶なんてないから、仕方ありませんが…」
「なーにブツブツ言ってんだ。ほら、飲め飲め!」
空になっていたイーナのグラスを奪って、一杯までお酒を注いだ。
「…酔ってますね。まあ、いいです。お酒は久しぶりなんですが…」
注がれたお酒を少しづつ飲んでいると、セルナが
「おら、チビチビ飲んでんじゃねえよ!一気に飲め!」
グラスを持っているイーナの手を掴み、一気に傾けた。
ちなみに、これらのお酒は【地球】の若者に飲まれているカクテルやチューハイなどよりも、格段にアルコール度数が高い。
イーナは【地球】では、それらのお酒しか飲んでいない。
強いお酒に慣れていないイーナが、いきなりそれを、それも一気に飲んだらどうなるか…
ドシャ、と誰かが倒れた音がした。
「なんだ?もう潰れちまったのか?」
「セ~ル~ナ~…イーナさんになんて事したんですか!」
「いや、大丈夫だろ?俺も母さんにやられたし。」
「イーナさん、大丈夫ですか?…イーナさん?」
いつもと違い、切なそうな表情で潤んだ目のイーナが、セルナを見ていた。
詳しく言えば、セルナの頭に付いた猫耳を凝視していた。
「ど、どうしたんですか?イーナさん。」
「…」
イーナは手を伸ばしてセルナの猫耳を掴み、形を確かめるように触り始めた。
「い、イーナ!?」
「猫さんです…」
猫耳から手を離し、セルナの頭を撫で始めた。
「よしよし…」
閑話休題
その後も頭を撫でられ続け、イーナが満足したかと思えば背中に抱き着かれ、今に至る。
そして髪に顔を埋められながら「モフモフです…」と言われながら首元を撫でられても、なんだか振りほどく気になれなかった。
「なあ、そろそろ離れてくんねえか?ほら、酒も切れたし、料理も無くなったし。そろそろお開きに…」
「イヤです…もっとモフモフします…」
イーナは頑なとしてセルナの背中に抱き着き、離れようとしない。
「ほら、明日になったら触らせてやるから、今日はもう寝ようぜ。ルビアもメリアも運ばねえと…」
ルビアとメリアはヤケになって樽を何本も空にし、床に倒れこんでいる。
「約束ですよ…?」
「ああ、分かったから。ほら、お前は歩けんだろ?リリウム達と一緒に寝てろ。」
そう言うと、何回か振り返りながら、階段を上っていった。
「はぁ…あいつが酔うとあんなになんのか…疲れた。てか、猫ってなんだよ?」
セルナが部屋を見渡すと、空になってそこらに転がっている酒樽と、机に食べつくされた皿が乗っている。
それに加えて…
「イーナさ~ん…グスン…」
「セルナ~…覚えてなさいよ~」
うわ言を呟きながら、酒樽を抱いている美女の姿は、なかなかに滑稽である。
「はぁ、大変だな…」
セルナは片づけの事を考え、頭を抱えた。
閑話休題
「うー…頭がズキズキします…」
「あー…フラフラするわ…もう二度と飲まない…」
次の日、二日酔いに苦しむ二人の竜と、看病に勤しむ犬耳の少女と耳の長い少女の姿があったとか…