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【王様が行く・城外買物編】

前話の続き…と言うわけではありませんが、番外編を一つ。


時間軸的には、王様が登場する第二十二話~第二十五話よりも、数年ほど前の話かな?


番外編【王様が行く・城外買物編】始まり始まり…

ここは【アプライド】のお城のある一室。


そこにいるのは、目鼻立ちがハッキリとした、百人中九割以上が美人だと答えるであろう女性である。


「ふふ…これさえあれば…」


女性の名前はフィリス・オストヴァルト。


紛れもない【アプライド】の王様である。


そんな偉い人が暗い部屋の中で薄気味悪く笑っていた。


なぜかというと…


「【エルフ】が創ったという、この【魔具】さえあれば…」


王様は叶えたい一つの【夢】があった。


それは、誰にも理解されない、孤独な【夢】だった。


その【夢】が遂に…!




―――




「王様ーお仕事の時間で…あれ?王様はどこに―――これは…王様!?おうさ―――フィリスー!」


後に片づけに来たメイドさんに聞いたところ…


「ええ、フィンチの通った後というか…はい、間違いないのです。でも、宰相があんなに怒るなんて珍しいのです。いつもなら―――!い、いえ、なんでもないのです。で、では、私はこれで―――いえ、私は死にたくはないのです」


突然態度がおかしくなってしまったが、これはこれで―――


「お前は何をしとるかー!」


いったー…


暴力には屈しない…


「お前はいつもいつも、毎度毎度…!そんな事をしてる暇があったら!フィリスを探さんか!」


えー…


面倒ですよ。


その内に王様も帰ってきますって…


「ええい!…そんなに面倒ならやる気を出してやろう。これから三カ月、給料な―――」


おっと!


急にやる気が出てきました!


ちょっと【探知魔法】使ってきます!


「うむ、分かればいい。それでは、私はフィリスの分の仕事をしているからな。見つかったら報告しろ」


はいはい、分かりましたよっと。


「お前な…その態度どうにかしないと、いつかクビされるぞ?」


別に構いませんて。


そうなったら余所の国にでも行きますから。


「はぁ…お前【No.】は上位なのに、なんでそんなにやる気がないんだ?」


さーて、なんででしょうね?


能ある鷹は爪を隠すんじゃないですか?


「お前は、爪と言うよりは剣というかなんというか…」


失礼な。


オレはただの【人間】ですよ。


「ただの【人間】が、単独で【赤竜】の撃退をしたりはせんわ」


ああ、あれはただ運がよかったんですよ。


王様も助けに来てくれましたし。


「…まあいい。それじゃ、フィリスの事を頼んだ」


はいはい、給料のために頑張りますよ。




―――




ここは【アプライド】の市場。


夕暮れが近いこの時間。


たくさんの【人間】や【亜人】が買物をしている。


ここ【アプライド】は【人間】と【亜人】が共に生活をしている珍しい国である。


力が足りない【人間】の為に【亜人】が手伝い【魔法】が得意な【人間】は、国に近づく【魔獣】を撃退する。


一種の共存関係である。




閑話休題




そんな賑やかな市場の中で、マントを羽織った一人の女性と、果物を売っている男性がいた。


「ねえおじさーん。これもうちょっとまからないの?」


「いやいや姉ちゃん。無理言っちゃいけねえよ。これでも原価ギリギリなんだ。そんなに安けりゃいいんなら、余所に行きな」


「うー…仕方ないわね。それじゃ700Sね」


「毎度ありー!それじゃアルモな。しっかし、姉ちゃんも物好きだね。こんなクソ不味い果物買うなんて。ま、そのおかげで売れたけどよ」


「ふふふ、アルモの味がわからないなんて…時代が遅れているのね」


「…あーそうだな。でも、姉ちゃんのことどっかで見たことあんだよなー」


「だ、だからおじさんとは初対面だって。あ、もう行くわ。それじゃねー!」


「あ、ああ分かった。また来いよー…って、行っちまった」


マントを羽織った女性…正体は【アンヴィーラ】の王様、フィリス・オストヴァルトである。


王様である彼女が、なぜ正体がバレずに買物をすることができたのか。


「しっかし、このマント凄いわね。あのおじさん、私の顔を見ても気付かなかったわ。後半は危なかったけど…」


そう、彼女が大枚を叩いて購入した【エルフ】が創った【魔具】である。


このマントの形をした【魔具】は、認識率を下げ記憶に残りにくくする作用がある。


簡単に言えば…


「その他大勢に見える【魔具】か…いいわね。気に入ったわ」


ただし、その効果は相手の【魔力】に反比例し、自分の【魔力】に比例するため、相手との【魔力】の差が大きいほど、効果が薄くなってしまう。


また、着用者は徐々に【魔力】が減っていく。


こればかりは【魔具】なので仕方ないのだが…


「それに、目的のものも買えたし…万々歳だわ」


彼女の手には、先ほどの店で買ったアルモである。


あらゆる国で不人気な果物であるこのアルモ。


熱烈な愛好家の熱烈な愛好家による熱烈な愛好家のためのアルモ農園が有るとか無いとか…


「んー!この味よ!この味がやみ付きになるのよ!」


そのアルモを美味しそうに口にしたこの王様。


そう、この王様の【夢】はアルモを食べることである。


それも山ほど。


人に聞かれれば、馬鹿じゃね?とか、こいつ馬鹿だ!とか言われそうな【夢】である。


しかし、王様のアルモ好きは筋金入りである。


もうよく覚えていないほどの昔、兄と共に母親から貰った果物が、アルモである。


兄は食べた瞬間に吐き出したが、母親と共に食べた彼女は、とても美味しいと感じた。


母親も美味しそうに食べていたとか…


とにかく、それ以来もう一度、もう一度と食べたいと思っていたが、いつも周りに止められるのである。


「ふう…美味しかったわ。せっかくお城の外に来たんだし、何か面白そうなことは…」


そんなとき、いきなり蹴りが―――


いったぁ…


何するんですか王様…


「誰かと思ったら、ワン君じゃないの。どうしたのよ?」


いや、前から言ってますがオレの名前はワンじゃないですよ?


「いいじゃない。前にワン君、好きに呼べって言ったじゃない」


まあ、言いましたがね。


それより早くお城に戻ってくださいよ。


宰相さんも怒ってましたよ?


「あの人も大変ねぇ…」


いやいや、王様のせいですからね?


それに、その【魔具】なんなんですか?


【探知魔法】に反応が無くって、探すの大変だったんですよ?


「ふぅん…この【魔具】って【探知魔法】も阻害するのね…」


そんなイイ笑顔を浮かべないで下さいよ。


オレの給料がかかってるんですから。


「ワン君の給料?そんなの二束三文でしょ?」


いや、そりゃ王様が見てる国家予算とかとは比べ物になりませんけど…


お金が無いと困るんですって。


「…それじゃ、私と結婚する?」


ははは、冗談はよしてくださいよ。


こんな平凡なオレが王様と結婚なんて。


「…そうね。それもそうね」


痛い痛い。


蹴らないでくださいって。


「もう、気が変わったわ。帰る」


そりゃよかったです。


給料も救われました。


「それにしても…ワン君どうしてそんななの?」


そんなって、どういうことです?


「見えないなんて。ちょっとおかしくない?」


ああ、そういうことですか。


一応オレ隠密ですから。


それに、これ【魔具】ですよ?


「へぇ…そんな【魔具】もあるのね。創った人に会ってみたいわ」


いえ、無理ですよ。


この【魔具】創ったの【エルフ】ですし、今は行方知れずですし。


「ま、仕方ないわね。でもワン君。いつ私を見つけたのよ」


ええ、王様がアルモを買っているときに。


「…ワン君。まさか…見てた?」


ははは、いえいえ、王様がアルモを買ってるとか、あんなクソ不味いアルモを美味しそうに食べてるとか、全然見てませんよ?


「わ、ワン君。そ、それはね」


それじゃ、オレはお城に戻って宰相さんに報告します。


給料さんが金質にとられてるんで。


ちゃんと戻ってきてくださいよ?


「あ!ちょっと待ちなさい!話を聞い―――はぁ、行っちゃった…」


王様はため息をついた。


想うのは、ワン君と呼んでいるあの人のこと。


「まったく、伝わらないものね」


以前【赤竜】がこの国に攻めてきた時があった。


【No.5】である私は、他国との定例会議に出ており【アプライド】にはおらず、騎士団もしばらく食い止めはしたが、全滅した。


あと数時間で【アプライド】に壊滅的な被害を齎すであろう【赤竜】


その【赤竜】の侵攻をたった一人で食い止めているあの人の姿を見た。


【魔力】も底を尽きかけ、体中が血に塗れながら。


それでも【魔法】を駆使し、孤軍奮闘で戦う姿に…


「惚れちゃったのよね…」


一人で戦う強さに、力の強さだけじゃなく、心の強さに。


「諦めないわよ…」


もう、あの人しか見えないから。

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