【姫様が行く・城内騒動編】
【第十五話・お城への潜入はかなり厳しいです】でお城に潜入した後の出来事です。
小説本編とは、少し書き方が違っておりますので、ご承知を。
では、番外編【姫様が行く・城内騒動編】始まり始まり…
「ん…む…ここは…」
整った顔立ちの金髪が映えている目麗しい少女が目を覚ました。
何を隠そう、この少女こそ【フィジカ】第二王女キャリル・グリニャールである。
良く言えば自由気儘な性格、悪く言えば奔放な性格という、およそ女王としては相応しくなさそうな少女である。
しかし、一部の侍女勢からは【お人形にしたいランキング第1位】【妹にして愛でたいランキング第1位】【姉上と言って欲しいランキング第1位】等、およそ百もあるランキングの上位を総なめにしている、ある意味恐るべき少女である。
なお、このランキングは侍女の間でのみ代々口伝されており、漏れたことは一度もないとかどうとか…
閑話休題
確か昨日は、いつも通りお城を出て、暇潰しにリュサック家に行って、その家が騒然としていて、その原因らしき少女を追って…
「ここは…」
寝起きにいつも見ている光景。
いつの間に帰ったのだろう。
近くの机を見ると、あの少女に貰ったおかしな形の【魔具】が置いてあった。
「この【魔具】は…」
昨日の出来事を思い出す。
あの少女から【魔具】を渡されて、試しに使ってみろと言われ…
「そうじゃ!この【魔具】を使ったら、急に気が遠くなって…」
恐らく、この【魔具】を使った事による【魔力】切れだろう。
初めて【魔具】を使ったが、驚くほどの効率の悪さだ。
イーナと呼ばれていたあの少女…
見たこともない【魔具】を何処からともなく取り出し、そしてこの【魔具】を自由に扱え
るのだろう。
恐らく【アナリティカ】の出での、名の知られていない【魔具】職人だろう。
あの国は【魔具】が発展している分、機密な事柄も多いと父上も言っていた。
そして、イーナと一緒にいた、ルビアと呼ばれていた女性。
【魔法】を使わずにゴラウを地に伏し、尚且つ傷一つ負わなかった。
恐るべき実力だ。
【No.】上位に食い込んでいてもおかしくはないだろう。
【魔法】を使えばどうなることか…
それに加え、自分がいつの間か自室で寝ていた。
この城に潜入し、部屋に寝かせてくれたのだろう。
城の兵は無能なのか、それとも…
「イーナめ…今度会ったときは、文句を言ってやるのじゃ!」
次に会ったら色々と聞いてやるのじゃ!と少女が意気込んでいると…
ドバン!と、おおよそ早朝には相応しくない爆音が響き、自室のドアが吹き飛んだ。
その爆音とともに、いつも聞き慣れた声が聞こえた。
「キャリルちゃーん!いつの間に戻っていたんですかー!」
キャリルと同じ金髪であり、異母姉妹の関係であり、十人が十人とも振り向き、数日は脳裏に残る顔立ちをしている。
キャリルが可愛い系だとしたら、この少女は綺麗系だろう。
この少女こそ【城内実力派ランキング第4位】【理不尽な強さランキング第5位】【外見と実力は比例してるランキング第1位】と評される、第一王女ヴェルマ・グリニャールだ。
父親である王の意向から【No.】は取得していないが、もしも【No.】を得るとしたら一桁台は確実だろうと評されているとか。
「で、姉上。どうしたのじゃ?」
「どうしたのじゃ?じゃないよ!キャリルちゃんがお城から出るのはいつもの事だけど!変な女に連れ去らわれたって聞いて!心配してたら侍女がこの部屋で寝てるって聞いて!私が…どれだけ心配したと思っているの!」
そういうヴェルマの目元には、黒い筋が目立っていた。
恐らく、一睡もしていないのだろう。
「あ、ああ…それなら―――」
ここでキャリルは気付いた。
以上の通り、良くも悪くもこの姉は妹主義者である。
本当の事を言ったら、確実にイーナとルビアを手に掛けるだろう。
それも、国家権力を使って、国を動かして、どんな事をしてでも…
下手をすれば、この国が傾くかもしれない。
いろんな意味で…
「さあさあキャリルちゃん!何があったか説明をして!早くしないとお姉ちゃん怒っちゃうぞ!」
「う…」
やはり、気は進まないがあの手段しか…
「キャリルちゃん!ま、まさか…私には言えないことなの!?だ、だったら!無理やりにでも―――」
唐突にヴェルマの声が途切れた。
「きゃ、きゃきゃキャリルちゃん!?」
キャリルがヴェルマに抱き着いた。
「姉上…すまなかったのじゃ…心配かけて…」
「キャリルちゃん…ハッ!だ、だまされないよ!さあさあ!早く本当のことを―――」
「姉上…許して欲しいのじゃ…」
キャリルの涙目の上目使いに妹主義者であるヴェルマの鼻から愛が噴出した。
その愛は、どうにも真っ赤な物だったが…
「も、もう、どうでもいい…」
「ふ、計画通りじゃ…」
小声でこう言ったキャリルの顔は、月みたいな光みたいな顔になっていたとかいないとか。
閑話休題
気を失った姉をベッドに横たえ、昨日の出来事を思い出す。
昨日イーナを騎士に、と思ったが断られてしまった。
【魔法】の実力では姉に敵わず、信頼のおける騎士もいない。
しかし、イーナに貰った【魔具】がある。
一つの【魔具】は【魔力】をそのまま剣のようにし、一つの【魔具】は【魔力】を打ち出す。
効率も悪く、使うのは困難を極めるだろう。
しかし【魔力】が空になると、僅かながらも【魔力】は増大する。
自分が強くなれば騎士を付ける必要もない。
あの【魔具】を使い続ければ…
「やってやるのじゃ!」
「キャリルちゃーん…むふー…」
とりあえず、今は眠っている姉をどうにかしようと思ったキャリルだった。