純潔
一年を通して温暖な気候に包まれる小さな島国がある。穏やかな波に揺れ、一歩足を踏み入れた瞬間から数多の花々の香りに包まれる。暮らす人々はみな豪快でありながらとてもおおらかで柔和な者達が多い、愛と絆の王国でる。
そこは平和の国 【フォトン】
島の中央に聳える純白の城の中に、二人の王子が居る。それはまさに、世界の救世主と呼ばれるべき双子の王子だった。二人が歩けば花が咲き、指で示すその先には常に眩いばかりの栄光があるとされる。仲睦まじい二人の兄弟は、常に手を取り合い一人は戦士として、一人は占い師として、共に国を偉大なものとする架け橋だ。
故に、王子は思い悩んでいた。
漆黒。埃一つ無い黒いスーツを身に纏う黒髪の男。痩身に見えるがその身体は研ぎ澄まされ、数多の国の危険を救ってきた世界有数の実力者である。だがしかし、頭の方は少々脆い人物だった。
王城の頂き、雲一つない空を仰ぎ、腕を組んで唸り続ける。かれこれもう5時間はこんな状態だ。公務など何一つ進みもせず、口元が垂れ下がり元に戻らないかもしれないくらい、顔に苦悶の表情が張り付いている。これが意味するところは、『弟よ、はやく構って』である。
「兄さん」
見かねた弟が漸く現れた。
純白。白銀のスーツを身に纏う銀髪の男。兄と比べると病弱で脆弱だが、この世にある数多の占い師の中、トップクラスの実力を持つ人物だ。
『遅い』と言いたげな目を向けながら、だが王子としての威厳を以て振り向いた。
「何故だ。何故。エルメスは一体何を考えている」
ファルディオンと隣国関係にあるフォトンの王子である兄の方は、ファルディオン王女、エルメスとの婚約者候補に当たる。当然それは数多の存在の内の一人に過ぎないが、中でも群を抜き密な関係を築く男である。故に彼は悩んでいる。
「何故堂々と俺を指名しない。実力、指揮力、あらゆる面で俺より相応しい人間が居るとでも言うのか。納得がいかん。納得がいかんな!!」
憤っているが、弟はとても冷静だった。
「エルメス王女にも何かの考えがあってこそでしょ? むしろ、正面堂々、自分が勇者だと証明する良い機会だと思うけどね」
嘆息気味な弟の対応はいつものことだ。
「まぁ確かに。例えどんな相手が来ようとも、お前の占いの力が全てをねじ伏せる。そうだろう?」
問いかけられた彼は兄の背中を直視出来ず、俯いてしまう。難色を示す彼は、つい吐露してしまう。
「出来ない」
「そう。エルメスは俺を溺愛している。ならば堂々と王女として俺を勇者に任命……え……?」
「で き ない」
「え何の話ししてる? プロポーズ? いや流石にそれはそのそのタイミングはお前の占いが必要というかなんというか?」
唇を尖らせながら人差し指を擦り合わせるこのむさ苦しい素振りを前にすれば、大きすぎるため息が漏れてしまう。だが彼は残念な事に戯けている訳では無い。頭の方がやや弱いのだ。だから、胸に手の先を添え、大きく口を動かして伝える。
「ぼくは、兄さんを、勇者には、推薦、出来ない」
この言葉は、全くの意想外。そもそもそんな言葉が出てくるはずが無い。だからこそ、こんな単純な言語が脳の中できちんと整理し切れないまま、下顎が下に下に垂れ下がる。そんな彼に追撃を見舞う。
「理由なんて単純だ。兄さんは勇者ではない。兄さんは此処で大人しく、もう少しエルメス王女との時間をきちんと作り、国政の為に働くこと」
スカした顔をして背を向けた。その行為は著しく兄の心に傷を付けた。
『戦い』
それが彼の取り柄である。それは唯一と言っても良い。その実力は現、全冒険者の中でも指折りとされ、最強の名を挙げれば誰かが必ず彼の名を呼ぶだろう。更にはその容姿、美貌。総合的に評価すれば、彼はまさしく勇者に相応しい存在であると自他共に認める人類の希望である。
「チッ……」
舌を鳴らす音が、弟の胸を突き刺す。
「我が弟を、拘束せよ」
強く、ドスの効いた声が響くと数名の衛兵が現れ声に応じた。
「はぁ……。兄さん……。貴方がそうするなら僕にだって考えがある」
「!!!」
「!!!!」
占星術師 【ミサキ・マシロ】
勇者候補 【ミサキ・マクロ】




