死相
ミハンは言った。
『本物の占い師は、死臭を纏っている』
それは占った相手が階段となり、空に向かい星を目指しているからだという。その死臭とはどす黒く、人を寄せ付けない。人は常に、人の死の上に立っているのだ。
『残念ながら私達は、本物じゃない。だから、出会ったら、逃げろ』と。
「おぉ! 釣れる釣れる!」
海原から飛び出す大きな魚が桟橋に上がってビチビチと跳ねている。それをしゃがみ込んで突付く一人の男。全員の視線はその一点に向けられていた。そして男は重い腰を上げて立ち上がり、現れた人々を見渡した。
「で、彼らは何かな」
ユラッとした瘴気を纏い、夜明けの景色を夜のように黒く染めた。何よりも、それを強く感じ取っていたのは、リッタだった。彼女は震えていた。初めて視た。それなのにすぐに分かった。
【占星術師】だ。
そしてその中で、最も疎いのはリーダー【マーシー】だった。
「お前ら、いつから此処に居るんだ? 何か見なかったか」
それに答えたのは、影から現れたマキスだった。
「何も見てないよ。リーダー」
「あん?」
「なんでお前が此処に?」
顰める四人がマキスを取り囲んで問い詰める。マキスは肩を竦めてみせた。
「別に? ちょっと、友達と釣り」
「ハッ。お前に友達なんて居たのか。それってそのドブネズミみたいな奴?」
「……マキス?」
それを嘘だと気付けるのはリッタだけだった。そして空気を読まないのは、空だった。
「いや、俺らソイツとは知り合いですらないんだけど」
「あん? どういう事だそりゃ」
「チッ……。おい!」
「そんな事はどうでもいいよ」と高丸は一歩前に出る。
「何この汚いの」
「おいガキ。お前見ない顔だな。この町のもんじゃねぇだろ」
悪態混じりの言葉を無視して対峙するのはローブを纏う占い師【リッタ】 彼女の顔の前でジッと目を見開いた。
「…………な……なに……?」
「君、占い師?」
そんな、鏡に向かって自分に対して問う心の声を代弁するような男の言葉にリッタは更に震えて恐怖してつい「ぃえ……」、否定してしまう。だがしかしそれは事実であり、むしろ何故か、胸の内がスッとした。これで自分は、この男の敵にはなり得ないと。
「……そうなんだ」
「君。彼女が怖がってるだろ? ちょっと離れて」
マシルスはそう言って、二人の間に割って入った。すると高丸はマシルスを見上げる。
「アンタ、冒険者ってやつ?」
そんな言葉に笑うのはマーシー。
「ってやつ? ハハッ。お前冒険者も知らねぇのかよ。お前、【フランチャイルド】って知ってるか」
「フラン、チャイルド?」
「そうか。ちょっとは勉強も大事だぜ? ま所謂、冒険者のエリートさ。冒険者ギルドASL。まぁ冒険者ギルド本部から、滅んだ土地にギルドを立てる為に派遣される先駆体。それが【フランチャイルド】 これはパーティの名でもあり、俺達の姓ともなる。俺は冒険者パーティ【フランチャイルド マーシー組】 リーダー【マーシー・フランチャイルド】 俺等フランチャイルドが中心に立って、冒険者ギルドの看板を掲げて拠点にすんだ」
「【ルージュ・フランチャイルド】」
「【ダッグ・フランチャイルド】」
「そして僕は【マシルス・バーン】 まだフランチャイルドではないけど、今日からこの国の中枢で働かせてもらう事になる。同じ、フランチャイルドの所属になる」
「フランチャイルドは皆、家族と同じくらいの絆がある。擬制的血縁関係って奴だ。おいそれと軽々しく加入できない、神聖なパーティなんだよ」
「俺を切った癖に」
「苦渋の決断だったんだよ。なぁ!」
「ああ。断腸の想いは皆同じ」
「まともに戦闘も出来ない奴を戦場に連れて行く方が問題よ」
「ていうか邪魔やったしな」
「……くっ」
「何より、こちらの【公認占い師】さんが、僕達の出会いを祝福してくれた。君は元からこのパーティに相さわ」「あのさ」
言葉を遮った高丸は、マシルスを見上げた。
「どうでもいいんだけど。アンタ達、【死相】が出てるよ」
「あ? 死相?」
「死相って?」
「俺達が死ぬって」
「ハッ。何言ってんのこのガキ」
「アンタ達は、重要な命綱を失ってしまっている」




