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メビウス  作者: ののせき
冒険者ギルド
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豊漁

 肩が触れ合う距離で座る二人は藁を編んで作られた布団の中に入ってこめかみを合わせていた。高丸は軽く小突いた。

「それでさ」

「おん?」

「その、【公認制】を作った奴って、誰か知ってんのか?」

「……ああ。【ネビュラ】だ」

「ネビュラ?」と復唱する高丸の口調は恰も知っている風だった。

「知ってんの?」

「……ああ。知ってる。昔、西日本を牛耳っていた【占星術師(スターライト)】のトップだ」

「……ん? 俺の認識だと、それって悪路王の事じゃねぇの? なんかもう、悪路王って言ったらなんか、唯一無二の頂点って感じで聞いてるんだけど。それも、日本全土」

「ああ。そうだよ。間違いなく初代悪路王はこの世の占星術師の頂点だった。それこそ、ネビュラ総出で狙っても勝てないくらいにな」

「…………」

「だが、それはあくまでも強さの話だ」

「それ以上に何が必要なの」

「ネビュラは、当時確か、10000人以上の占い師を抱え込み、西日本全土に【ネビュラ】の看板を掲げていたよ」

「10000人!?」

「ああ。カードショップなんかも開いて、まさに占い業界の花形だった」

「……でも、悪路王には、勝てなかった」

「悪路王も何度も勧誘を受けていた。そして、最終的には応じた」

「応じたんだ」

「ああ。そのトップが、【みの群】の女だ」

「……【みの群】 つまり、三人の愛人の一人ってことか」

「ああ。そして東日本を牛耳っていたのが、【くの群】の女。【かの群】の女は、当時悪路王が通っていた学校に通っていた、ごく平凡な女。占いもやっていたが、何処かに所属するでもなく個人でやっていたよ」

「………………。なるほどね」

「【ネビュラ】はその西日本を5つに分けた。NR(ネビュラレッド) NB(ネビュラブルー) NBK(ネビュラブラック) NH(ネビュラホワイト) NG(ネビュラグリーン) カードショップなんかは、この5つの何処かの派閥に加盟して、看板を掲げるよ」

「この国には、その【NB(ネビュラブルー)】がある。皆エヌビーって呼んでるけど」

「まぁつまり、売上の話だな。シェア率って奴だ。知る人ぞ知る悪路王よりも、経営力のネビュラ。まぁ、こと占いに関しては悪路王の相手にはならなかったらしいがな」

「……ホントかよ」


「…………」

(一体、何の話をしてんだ……)


「ていうか……」

「?」

「腹減ってきたな」

「お、釣りでもするか」

「良いね。道具はあるのか?」

「奥に確か」

 空が腰を上げて、洞窟の奥に歩いた。


「!!!!!!!!」


 息を殺す。鼻を抓んで口を覆い隠して出来うる限り身を丸めた。顔の寸分横を腕が通り、背の当たりにある棒が抜き取られる。どうやらそれは釣り竿だったようだ。

「あったあった」

「ちゃんと釣れるのか? ここら辺」

「……なに言ってんだよ」

「自信あんの?」


「お前が占うんだよ。ポイントも」


「…………」


「…………」

(占い……?)


「しょうがない」

「景気付けに頼むよ」


 二人が表に出た。そして、高丸は鼻を天に向ける。潮の香りと、何処からか人の声も聞こえる。船を漕ぎ、夜明けと共に漁が始まるらしい。

「丁度良い。魚を探すより、釣り人を探した方が良いポイントが見つかるだろう」

「ほう」


 ヒュラ……


 瘴気が立ち昇った。油のように艶があり、ネットリとした粘り気のある邪悪な瘴気。そこに、目玉が浮かぶ。


「………………」

(なんだ……何だアレは……)


 そして高丸は砂浜に腰を降ろしてカードを開く。中央に一枚、【魂】が宿る。

「【妖怪(ようかい) 魚籠盗見(びくぬすみ)】」


【澄んだ池に住むという謎の生物の噂があった。それは夜に現れ長い手足で釣り人を跨ぎ、上空から首を降ろして魚籠を覗き込むという。盗む事も殺す事もせず、ただ魚籠を覗いて釣り人に何かを告げて去る。ある釣り人は語る。「そう言えば最近見ないな。『釣れてるかい』って覗き込んでくるあの親父」 後に聞いた。それは池に呑まれて息絶え、浅瀬に打ち上げられていたという。その名は】


 【妖怪(ようかい) 魚籠盗見(びくぬすみ)


 沼のように広がる瘴気から、長い腕が現れて、四本の手足で歩く一つ目の異形の妖怪。粘液を纏いながら砂浜を軽く歩くと次に、目にも止まらぬ早さで駆けた。


 海岸で歌いながら釣り糸を垂らす男が居た。それは突然背後から悪寒を得て、振り向いたがそこには誰も居るはずも無い。しかしまだ、背中から感じる。また振り向いても、そこには誰も居ない。

『…れ…るかい……?』

 人の声が聞こえた。確かに人の声が聞こえ、震えた。


 真剣な眼差しで海を見つめ、あるポイントに釣り針を投げる男が桟橋に居た。彼もまた、背中に生温く、臭い風を帯びてそれを、生物の息だと感じて振り向いた。だが当然、そこには誰も居ない。だが一瞬、たった一瞬、魚を入れる魚籠を覗き込む何かが視えた。

「何だ!!」


 にゃお……


「……猫?」


 茂みに黒い猫が居た。きっとそれだろうとしか思えないが、一瞬視えた質感は、まるで人のようでもあった。

「…………帰ろう。十分だ」

 悪寒が剥がれない。だから男は、この日の漁を諦めた。


『釣れてるかい?』


 一つ目の怪物の顔が嬉しそうに笑み、男の顔を覗き込んだ。


「わああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


「見つけた。あっちだ」

「らしいな」

 空も確かに理解出来る、豊漁の予感だった。


「…………」

(信じられない……。さっきの……。サウジおじさんだ。桟橋で良く釣りしてる……)

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