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メビウス  作者: ののせき
冒険者ギルド
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反芻

 例えば大昔、【エルフ族】と呼ばれる民族は極めて酷い迫害を受けていた。エルフ族は悪魔と契約しその美貌を保つと噂があったからだ。発見次第囚えられ、火で炙る事で浄化するという儀式があった。


 例えば大昔、【鬼人(きじん)族】と呼ばれる、人類の中でも類の無い進化を遂げた民族が居る。それは孤島に住みながら、時折現れては略奪行為に及ぶという。発見次第囚えられ、頭を切り落として、脳を食べる事で彼らを人間ではないと位置づける為の儀式を行っていたという。食べた者達は皆、精神的な異常を来し、いずれ死に至る。罪人への罰として行われたこの儀式によって起こるこの事実が、彼らを長い間【魔物】の近縁的な種族として忌み嫌う要因となった。


 今の時代でこそ、それらは非道な行いだと衰退しているが、彼らからすればそんな反省に意味は無く、怨念は未だ潰えていない。


 この世には様々な思想に伴い、儀式がある。【占い】もその一つと言えるだろう。こんなカードを開いたところで、何も視えない。ただ『それっぽい』は大事な要素だ。それだけで人々は安心し、明日への活力となる。いずれこれも明るみに出てしまえば、自分たちも迫害を受ける可能性はある。


 それでもカードが好きだった。


 ギラギラに光り輝くドラゴンが好きだった。


 例え、目の前に居る人々がいずれ自分達を目の敵にして石ころを投げてくるとしても。


 エルフ族は赤い瞳に、ガラス細工のような美しく白い肌に包まれているという。


 鬼人族は、人間の何十倍も強度のある骨があり、剣でも銃でも簡単に死にはしない戦闘民族。


「…………」

(せめて、そんな強さ、価値があれば、私も……)


 後頭部に触れて髪を掻き上げると、小指の第一関節分くらいの膨らみがあって、そこから髪の毛は生えず滑らかな皮膚に覆われている。昔に負った傷がそうさせたのだ。痛くも痒くも無いが、未だに夢に見る。


 放り投げられた石の礫が一瞬止まって見えた。後頭部に当たって倒れても身体に降ってくる石ころを防ぐ力も無く、這いずって茂みに逃げ込み、難を凌いだ。止まらない血液をどうする事も出来ず、ただ固まるのを待って、ドングリをかじって、中に居るイモムシを貴重な食料だと感じて、味も気にせず食べ続け、漸く、この地に辿り着いた。


 理由もない。ただの人間同士の縄張り争いの敗北の末に行われた迫害であった。


「…………」


「さぁさ。いらっしゃいいらっしゃい」


 そこは【冒険者ギルド Cドライブ E】が誇る最大の商店街。国の中心にあり、一本道の両端に立ち並ぶ商店は朝から晩まで延々と金を稼ぐ為に手のひらを真赤にするまで叩いて客を呼ぶ。


「アジが入ってるよ。アジ! 由来知ってる? アジリティ! 早い! 安い! 美味いって意味ね!! 今日の晩飯にどう!!」


 適当吹いてる魚屋を営むねじり鉢巻の男は大きな魚の尾を掴んで身を叩いてみせる。


「こっちも見てってよ! ほうら大きな人参! これを食べたらあら不思議!! 夜の人参も元気いっぱい真赤に火照った人参は、彼女さんの大好物でしょ!! ほら冒険者さんいらっしゃい!!」


 八百屋を営む太った女店主は人参を胸に挟んで注目を集めていた。


 此処に居る者達も皆全員、何処かの国に生まれ、突如現れた魔物によって国を追われて流れ着いた者達だ。痛みを知る者同士、彼らはいざこざなど起こさず、互いに高め合いながらも商売という形で競い合い、いずれ自分の国に帰る事を望んでいる。その為には、金だ。金をかき集める為、大声を張り上げて、手を叩いて、道行く冒険者達が胸に仕舞う財布を狙っている。


 リッタは、胸に手を置いて財布を隠す。この中には、デタラメ吹いて手に入れた札束が入っているからだ。


「…………」

(みんな同じ……)


 例えば大昔、【エルフ族】と呼ばれる民族は極めて酷い迫害を受けていた。エルフ族は悪魔と契約しその美貌を保つと噂があったからだ。発見次第囚えられ、火で炙る事で浄化するという儀式があった。


 例えば大昔、【鬼人(きじん)族】と呼ばれる、人類の中でも類の無い進化を遂げた民族が居る。それは孤島に住みながら、時折現れては略奪行為に及ぶという。発見次第囚えられ、頭を切り落として、脳を食べる事で彼らを人間ではないと位置づける為の儀式を行っていたという。食べた者達は皆、精神的な異常を来し、いずれ死に至る。この事実が、彼らを長い間【魔物】の近縁的な種族として忌み嫌う要因となった。


 デタラメで益を被る者達はこの世の中には大勢居る。やっている事は皆同じ。


 頭の中で延々と、そんな言い訳が反芻していた。


 商店街から外れた入り組んだ路地の奥。そこにあるのは【闇市】だ。薬、武器は勿論。表に出すことが出来ない嗜好品が高値で売買される。カードも、その一種だった。


 闇市を取り仕切る通称【裏ギルド】


 カードショップ【NB シーン】 赤い屋根の小さな建物が高台にあり、リッタは階段を登って玄関を開いた。ドアベルが鳴ると、奥のカウンターから起き上がるロングケープをゆったりと身に付けた女。


 カードショップ【NB シーン】 店主【ミハン・シーン】


 ふくよかな胸をカウンターで休ませるように身を乗り出して、リッタを迎え入れる。

「いらっしゃい。リッタ」





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