公認
波に揺られる事、凡そ3時間。空は船の尾に立ち櫂を振るって海を掻き、前へ進む。これが、十二歳だという。年月を経て人間は大きく進化したという噂そのものは耳にしていたが、よもやこれほどのものとは思わない。一つ跳びで建物の上に昇り、休憩も無く人一人を背負い、その後すぐに、船を漕ぎ、顔が乾くほどの強風を作り出すその体力と筋力。
『化物村の生まれ』という言葉は強ち揶揄にもならないのかもしれないと、首を後ろに逸らして空の疲労と共に訪ねてみる。
「それで、これから何処に行くんだ?」
「おう。【冒険者ギルド】だ」
疲れも全く感じないくらい、元気な返答だった。
「冒険者ギルド…? それってあれだろ? いわゆる、傭兵団みたいなものだろ?」
「元はそうらしいね」
「元は?」
「ああ。冒険者ギルドってのは、国の名前だよ。正式名称は【冒険者ギルドASL】」
三大国 【ファルディオン】 【フォレイモリス】 【マッファイア】 これら三つの国に隣接する小さな島がある。そこは【冒険者ギルド ASL】 三大国の和平の象徴であり、あらゆる情報を集約し、魔物、魔王への反攻姿勢を象徴する魔物討伐における最高機関。
冒険者ギルドの使命とは、国を護る事ではない。
国を創る事にある。
かつて魔物によって滅ぼされた国を奪還し、荒廃した土地を切り開き、集落を建て、そして魔物によって国を追われた人々の受け皿となって【冒険者ギルド】を起ち上げる。
「そこもそう。昔滅んだ集落だったけど、【魔王の領域】に入る為の航路として理想的な場所として、昔の人がかなりの犠牲を出して奪還したんだって」
「…………なるほど」
「ASLが立ち上げた冒険者ギルド。海を護る【Cドライブ】 今向かっている場所がそこ。【冒険者ギルド Cドライブ E】 あくまでも仮の名前だけど、一つの国だよ」
「E。他にあるのか」
「ああ。Cドライブは5箇所。空から魔王の領域を目指すAドライブが1箇所。陸路のBドライブが30箇所以上。魔王の領域を包囲する形で冒険者ギルドを建てるんだ」
「なるほど。俺も冒険者になるのか?」
「無理無理。冒険者ってそれなりの適性検査があるから」
「じゃ無理か。占いで頑張るよ」
「問題がそこに一件――」
そこは【冒険者ギルド Cドライブ E】
田畑の間に建つ藁葺の小さな民家。家の前の樹木の枝に丸太を吊るし、木刀を振るう少年の姿があった。
「やっ!! はあ!!」
丸太は弧を描いて揺れ、少年に襲い掛かるが少年はそれを防いで跳ね返す。
「やあ!!!」
少年は【マキス・アンゼイ】 冒険者として高みを目指す12歳の若いの戦士だった。
そんな姿を見つめる少女が居た。前髪を水平に切り揃えたおかっぱ頭の少女は軒下に座ってタロットカードを開いている。
「どうだ? リッタ」
ある日、突然この地にやって来て、アンゼイの家に拾われた少女【リッタ】 塞ぎ込んでいた彼女だったが、彼女は、自分の価値を求めていた。そんな彼女は目にする。キラキラと星のような放射状の光を放つ一枚のカードだった。
以来、彼女は占い師になった。
「全然ダメ」
その言葉がどういう意味なのか分からないくらい愛らしい笑顔で首を振る。
「そんなことねぇだろ?」
影を被せてカードを一緒に覗き込む。ギラギラな輝きを放つドラゴンが正面に居る。リッタはそれを指差すとまた周囲のカードに視線を促す。
「全然。【火竜 ラヴァヘッド】が【灼熱業炎絶体絶命破壊光線】を発動するでしょ? マキスには戦闘は向いてないの」
とかなんとか言っているが、マキスには何も分からなかった。
「…………そっか」
「うん」とさも当然であると頷いているがその実、リッタ自身もあまりよくは分かっていなかった。
そんな二人の元に女性が一人歩み寄る。彼女はマキスの母【アリーヌ】
「リッタちゃん?」
「はい。小母さん」
リッタは立ち上がり、背筋を伸ばして面と向かう。
「お客さんが来てるみたいなの。行って差し上げて?」
「分かりました。有難う御座います」
「…………」
もう、リッタを引き取って2年になる。それでもこの堅さは未だ抜けない事をアリーヌは憂慮していた。それでもマキスとはそれなりに打ち解けている事もあって、杞憂としか思っていない。そっと頭を撫でて、背中を押してやる。
「じゃあ」とマキスを一瞥して頷くと、「ああ。行って来い」とマキスもまた頷いた。
そこは、【Cドライブ E】の中にある小さな集落。そこにリッタの店はある。板を張り合わせただけの簡素な小屋だ。中にはテーブルが一台。そして壁にローブが掛かっている。リッタはローブを身に纏う。その胸には、国が許可した占い師に与えられる金色のバッジが付いている。
【公認占い師】 【リッタ】
「――公認制?」
「ああ。占い師は国々の基準に則った公認制度を設けているところがある。冒険者ギルドがその筆頭だよ」
「その公認を得ないと、俺はトーナメントに出る事が出来ない?」
「……そういう事。だから俺達は、文献を探しながら、他国を回ってお前に戸籍と、公認をだな」「よし」
「あ?」
「その制度、ぶっ壊そう」
「…………いや、俺の村に来て、俺の村の公認をだな? その、力尽くで」
「ASL、乗り込もう。力尽くでな」




