夜目
長い、長い、永い旅が続いた。10m、50m、休む暇も無く歩き続けた。何ヶ月、もしかするともう村を離れて一年が過ぎようとしているのかもしれない。
「はぁ……はぁ……。く……空……」
顎から滴り落ちる汗が尋常ではなく、高丸はいよいよ、体力が尽き膝を落とした。
「高丸……」
【魔王誕生】から1000年。人類は大きな進化を遂げた。裸一貫の戦士が強力な魔物の群れと対峙して打ち勝ってしまうほどの力を有する者達が居る。そうでなくとも、そんな者達から生まれた子孫もまた、強大な力を秘めている。
1000年間、そんな進化とは無縁に生きた者達もまた存在する。
「あれから……どれくらい……経った……」
空は高丸の頭を鷲掴みにして首を回した。
「まだあそこにな、初代が眠る建物が見えるんだよ」
旅はまだ、始まってもいなかったようだ。
「すぅ……。何も見えないな」
「目玉付いてるか?」
「付いてない」
「これ何本?」
試しに二本の指を立てて顔の前に置いてみる。
「8本」とかふざけた事を言うが、高丸の中に張り詰めていた緊張の糸が切れて、身体は急激に疲労を齎している。膝がガクガクと震えていて、立ち上がる事も難しそうだ。
「…………」
(まぁ確かにこの数年まともな物も食べてないんだろうしな……。これに鞭打つのは無理か……)
とはいえ、食べ物は懐にはもう無い。空でさえ、高丸に分けた事によって今朝から食事をしていない。仮に此処で魔物に追われる事になればかなり厳しい戦いになるだろう。
「占い的に、どうだ。俺的には昼くらいには海に出る予定だったんだけど。大幅な遅れだよ」
高丸はカードを開く。中央に出すカードが黒い瘴気を漂わせ、天高くに昇る。
「召喚」
カードに差す人差し指の先から浮かび上がる白い球体は、瘴気と共に昇りながら転がる。
「!!」
目玉だった。赤い血筋が走る白目の裏から、宝石のような黒い瞳が天から見下ろす。
【妖怪 颱風目】
遥か遠くまでを見渡し、黒い風はその手足となって影に潜む危険をも嗅ぎ分ける。その後、スッと瘴気が霧消する。
「夜海は危険だな。此処なら、明日の昼まで特に大きな危険は無い。が、夕方にまたあの熊がやって来るだろう。俺らを探して。逃げるなら明日の朝。海に出るならなんらかの臭いを身体に付けて、この村から離れた位置に誘導しておくべきだ」
「……なるほどな」
これが無ければただ『休みたい』と言っているようにすら聞こえる高丸にとってのみ都合の良い結果だが、カードを介せば納得せざるを得ない、占星術師による【星の導き】である。




