巨魁
「…………」
(一体、なにを視てしまっているんだ……)
自分は今、間違いなく【勇者決定トーナメント】という世界を賭けた戦いの中心に居ると思わざるを得ない攻防が目の前で繰り広げられている。それはこれから来るであろう数多の、それも凄惨な戦いを予言しているかのように強烈な占闘であった。
「【魔怪炎刃双煌破】!!!」
黒黒しい炎を纏う獣の尾は刃となって、他の三匹を襲っているが、それらもまた同じく赫々の炎を纏い火花を散らした。
「チッ……。【命光蛍】 そして、【妖怪 鎌鼬】!!」
蛍の光を浴びた犬犬犬は戦意を取り戻した。すると三匹だった獣に追随するまた四匹の獣が現れる。それは刃の如き体毛を纏う身体で回転させて風の刃を作り出す。更に高丸はもう一枚、カードを広げる。
「【妖怪 影鰐】」
犬犬犬の影に潜む鰐のような姿が視える。大きく口を広げる金色の瞳で睨むそれは、一切の防御も赦さない闇の中の暗殺者。
「【攻撃】」
命じる指先は、敵の三匹に向ける。敵の正体を暴く為、暗闇の中に浮かぶ影を見定める為、最大の力を以て攻撃行動を取る。だがしかし、敵の犬犬犬が突如、灼熱の炎を帯びた。火力を大幅な上昇を促す【獄炎】により邪悪な炎に包まれ、攻撃を受け切った。
「問題ない。【発光蝶超覚醒魔法】」
空から降り注ぐ幾つもの光は、魂だけではなく、領域全てに回復作用を与えた。
「……妖怪が」
それは、場面に残り続ける特性【活着】を持つ。【妖怪】の特色と言える。領域全体に作用する回復効果によって、それらは全て戦意を取り戻す。
「これでまた……。!?!?」
白く輝く光の玉が幾つも浮かび上がった。それらは空高く一転に集まり、そして、解き放たれた。灼熱の光は高丸の領域全てを包み込み、配置されていた呪詛全てを消滅させる威力となり、更には、業火に焼かれた犬犬犬は、全ての火力を失い戦意を失う。
「防御……」
防御の為の行動を取らなければならない状況だった。だが同時に、敵の領域の中に現れる。
【妖怪 鎌鼬】
【妖怪 影鰐】
敵として現れたのは模倣などではない。むしろ本物を見せつけられているかのようだった。
「コイツまさか……。初代なのか……」
暗闇の中に視えた。小柄な身なり。そして座り方まで鏡写しのように酷似する影がある。しかしその風格は遥かに大きく、成熟した巨魁である。そこから繰り出される【攻撃】は意図も容易く、犬犬犬それぞれの首を切り落とした。
「!!!!」
【妖怪 犬犬犬】 消滅。
「コイツが……初代……?」
「チッ!! 召喚」
もう一枚、手札を引く高丸だったが、その時、犬犬犬の姿が消えた。
『もういい』と、そう聞こえた。影は立ち上がり、建物の中に消えて行く。
「待て!!! まだ終わってない!!」
引き止めてもそこにはもう乾いた枯れ葉が流れるだけで、気配も何も消えてしまった。闇が風と共に消えると、夕日が差し込んだ。もうすぐ日が暮れてしまうだろう。空は天を見つめ、高丸の肩に手を置き促す。
「高丸」
「凄いな」
「え?」
「1000年もの昔の呪詛がこびり付いて、此処まで風化して尚、俺に勝るか」
「……おい。あれ」
「?」
それは建物の入口。地面に膨らみが視えた。それは微弱だが瘴気を上げている。高丸は近付いて膝を落とし、土を払うとそこには金属の箱が埋まっている。手探りに蓋を探して、開く。
「これは……」
カードだった。
【妖怪 犬犬犬】
「まさか1000年前の……」
「初代が遺したカードだってのか……。俺が考えたと思っていたものが……」
二人は確信する。
初代悪路王が、新たな王として選んだのだ。1000年掛けて、自らの実力を上回る可能性のある者に渡す為に。
「……面白い。もう一度だ」
「高丸? もう……」
「ああ。分かってる。俺は決めたぞ。この世界の頂点に立ってやる。そしてもう一度此処へ来る。此処が俺の玉座だ。俺はもう一度、この世界の、占い師の頂点になる」
「…………なんだ?」
地面が小刻みに揺れている。それは少しずつ大きくなって、近付いてきているようだ。
地面が弾ける爆発音が響き渡った。
「なんだ!?」
「…………」
吹き出した土の中に居る。一匹の熊。しかしその大きさは優に6mはあろう巨体は、胸が紫色の甲殻に覆われている。
「侵度0。魔物のボスだ……」
「此処は俺が帰って来る場所だ。だからこそこの地はやはり壊してはいけない。このカードはきっと、その為にあったんだ。俺はこの時の為に、作り上げたんだ」
「高丸……?」
「【妖怪 犬犬犬】 召喚」
古紙を振るうと、三匹の獣が熊と対峙する。それだけではない。古紙に描かれたカードの中、【妖怪】を冠する者が全て現れた。
「『此処には何も無い。立ち入るべからず』だ」
感情の無い殺戮生物。あるのは目の前にある人間への攻撃本能のみのはず。だがしかし、それは目標を見失い、喉を鳴らして恐れ慄いている。立ち上がり戦闘態勢を取っていたその前足を地面に落として、それは山を降って行った。
「…………」
空は、足が震えて動くことが出来なかった。そんな空の脇をすり抜けて、高丸は森の出口に向かってつま先を向ける。
「行こうぜ。ビビり勇者」
「……ああ。そうだな。捻くれ王。信じるぞ。お前の力」
二人の旅がこの日、幕を開ける。




