妖怪
闇に包まれる森の中で、二人が向き合っていた。二人は確たる未来の為に一歩、森の出口につま先を向ける、はずだった。二人は背を向け合い、空は出口に、高丸は森の深みに向かう。
「ちょい!!!」
二人の息は全く合っていなかったらしい。高丸はそんな空を無視して深みに向かって歩を進める。
「ちょいちょいちょい? 高丸くん?」
人差し指で肩を小突いてやる。すると彼はフッと鼻を高くに向けて笑った。
「良いじゃないか。もうこの村は終わるんだ。この先に何があるのかくらい知っておいて損は無い。参拝だ参拝。ご先祖様にな」
「……いやいや」
先よりは遥かにこの森の気配は弱い。だがしかし、それは今この場に居る場合のみの話でしかなくその先には更に濃縮したような悍ましい気配が漂っている。ところが、参拝とか、もう終わりとか、そんなワードが出てくると上手く拒む事が出来ないのも事実だ。ある種一つの験担ぎ。
「良いだろ?」と言われると、首は横には振れない。
「まぁ……」
心の澱は祓っておくべきだと、高丸の背中に従い、漸く二人が呼吸を合わせて先に進む。そこからまた幾つもの門があった。構造も、内容もそれほど大きな違いも無く、高丸はそれを容易く振り払う事で更に先に進む。
そこは、最奥。
そこには大きく、高い建物があった。地盤の歪みによって傾いているが、灰色の壁に覆われた堅牢な建物は凡そ8階にも上り、割れた壁の中に赤茶色の鉄筋が突き出している。
「これは……」
高丸もまた如実にそこにある気配を感じ取っていた。最上階にある気配。濃く深く、そして大きい何かを感じる。そして一歩、踏み込んだ時だった。
ヒュラッ……
入口から闇が吹き出した。
「!!!」
油のように艶があり、地面を覆えば足裏を囚え、持ち上げれば糸を引く重々しい瘴気。
「高丸……?」
それは突如、触手のようになって空に舞い、三つの渦を作り出した。闇を掻き集め、三つの球体が現れるとそれらは旋回する。風に削れ、いずれ獣の形となって吠えた。
「これは……」
高丸が独自で創り出したはずカードの一。
【むかしむかしあるところに、おじいさんとおばあさんが居ました。おじいさんは山に芝刈りに、おばあさんは川に洗濯に行きました。すると、おばあさんは川上から流れてくる小さな木箱を見つけます。それはとても上品な木箱でした。金目のものが入っていると考えたおばあさんはすぐに川に飛び込み木箱を開きます。その中には、三匹の犬が弱り果てた姿で鳴いていました】
「……良いだろう。暴いてやる。その正体。召喚」
高丸は地面に胡座を掻く。右手に掴むそのカードは、古紙で作り上げたもの。
ヒュラッ、同じ気配。全身から吹き出す重い瘴気が宙を舞い、渦巻き領域を作り出す。その中央にカードを弾き出す。
【おばあさんは怒りました。可哀想にも思いましたが、犬など飼う余裕もありません。おばあさんはまた、木箱を閉じて川に流します。すると、木箱がガタガタと音を立て、自ら開かれたのです。それは木箱の縁から顔を出し、邪悪な殺意を一点に、おばあさんに向けます。自分を捨てた人間への憎悪。家族を殺した怨念が、彼らを妖怪へと変えたのです。血肉を漁り、臭いを覚え、人間への復讐を誓った三匹の獣。その名は】
【妖怪 犬犬犬】 属性【黒】
【妖怪 犬犬犬】 属性【黒】




