神出
「あああああああぁぁぁぁあああああああぁぁぁぁぁああぁぁあぁあぁあぁあぁぁぁあ……」
「ビブラート……」
「あの時……あの時ぃ……」
「よく今まで気付かなかったよ。お前相当馬鹿だろ」
「なんで……なんでぇ……」
いつまでも馬鹿みたいに転げ回って、母親に駄々でも捏ねるみたいに転んだ先にある空の腰に頭突きをかます。少し、空の決意も揺らぎそうに成るくらいの奇行だ。
「で、俺の勝ちって事で、良いんだろ?」
「はあ!? 勝ち!? 君の!? おいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおぉ……ぃ…おぉい!」
「…………」
「君言えるか? ッこんなので勝ちとか。胸張って」
「お前こそ言えるか? じゃあ自分の勝ちって。ッこんな誰でも分かるくらいカード忍ばせられてて、こんなショボいカード自作して、ていうか、絵下手すぎ。仮にこれ公式占だったらもう最初に負けだぞ。せめてもう少し本物に成ろうとはしてほしいもんだね。因みに、俺は、言 え ま す」
「うう゛お゛ぉぉぉぉぉ……」
「グオオオォォォォォ!!!!」
「うるせぇ!!」
「俺じゃない」
「あん!? ……あ」
二人の前に一匹の熊が居る。額に赤い物体が植え付けられ、目標を目の当たりにすると、ビクンッと脈動し、まるで攻撃を合図するように熊に対し激痛を与える。熊が叫んだ。
「【妖怪 大多鬼丸】」
「は!?」
霧が吹き出したように視えた。身体から熱を奪う清らかな白い霧に包まれる。高丸は空の口を抑え、胸に抱くと、更にその上から一体の鬼が纏う菰の羽織が二人を隠す。
「!?!?」
すると、熊が目標を失ったように二人の真横を通り、鼻を小刻みに動かして、臭いを追う。高丸がもう一枚、カードを風に乗せた。
「【激似影縫藁人形】」
窓に張り付いたカードは、そこに鮮明な空と高丸の姿が見える。熊はまた目標を捕え、飛び込んだらそこは窓の外。地面に叩きつけられる。
「お前……」
「もう無いな。馬鹿女のクソカードは。……ったく。大多鬼丸ね。考えたものだよ」
「いや……いやいやいやいやいや。え、なに魔法?」
「は? 占いだろ」
「は!?」
「『敵は前にあり』ってところ? ったく。大多鬼丸なんて入ってたら、他のなにこのカード。こんなの一生出てこないよ」
「…………」
どうやらそうらしい。
「因みに藁人形は元から俺のカード。自信作だ」
「駄作と比較して区別が付くか?」
「付く」
「……あっそ。……よし。そろそろ逃げるぞ。答えはじゃあ置いといて、取り敢えず、一旦逃げて、そこでしっかり話し合う。良い?」
「逃げるって何処に」
「まずこの村を出て、海に出る。そんで、人間の領域だ」
「駄目だ」
「いい加減に」と叫ぶ前。高丸が手のひらを空の顔の前に掲げる。
「俺の本物のカードが何処かにあるはずだ。それが無いと君の望みだって叶わない」
「…………にしたって時間が無い。!?」
ガリッ
熊が壁を登ろうとしているようだ。我先に、既にそこに、七頭もの熊が集まっている。
「勝てるぞ」
「は?」
デッキから余分なカードを抜き切ったそのカードは、確かに二人が生きる道を示している。束ねたカードをシャッフルし、場に並べる。そこに立ちはだかる【妖怪 悪路王】は、まるで空を導くように刀を抜いて窓辺に立った。
「君は、コイツらに勝てる」
悪路王が宙に跳ぶと同時に空もまた、呼応するように跳ぶ。一番上の熊の額に槍を突き刺し、群れの中央に蹴り飛ばし、散らす事で大きな隙を見出した。
「右」
舞うようだった。悪路王との動きと息合わせ、熊の突進を容易く受け流し、風と共に流れる歩法と槍裁きが熊の一匹を縦半分に裂いた。熊に、動揺する意思はない。魔物とは死を厭わず特攻し、戦略も無い攻撃は、【忍者】と呼ばれる者の技の前には無と帰する。
瞬く間に、7匹の熊が地に伏した。
「…………悪くない」
「『最高』って言えない? 捻くれ王」




