進化
人間達は逃げ惑う。【魔王誕生】から人間のかつての文明は失われ、武器、弾薬、それらは減る一方。それを作り出す者達は目減りし、遺された文明を管理出来る者達も、少しずつ居なくなってゆく。すると、人々の文明レベルは著しく落ち窪んだ。まだ機械を覚えている者達は古の暮らしに慣れる事も出来ずにひっそりと命を絶ち、新しい暮らし、世界に絶望し、労働を辞め、藁を編んだだけの薄暗い建物の並ぶ路地裏でひっそりと痩せ細る。だが諦めない人間達もまた、研究を重ねる。
生物に付着する赤い物体は、凡そ5ヶ月程度で体内に入り込む。鱗を形成する前であれば、目視でもその位置を確実に掴み、ナイフ一本で殺害することが出来るだろう。体外にはみ出している状態であれば、少し鋭利な石ころをスリングショットで弾くだけでも殺す事が出来るのだ。
この赤い物体をいずれ【ハミダシ】と呼ぶようになり、スリングショットは最も簡単で安価な武器として親しまれていた。
人間達は知らなければならない。
【魔王】を殺せば終わるのか。それとも全ての【魔物】をも殺さなければ、この地獄が終わらないのか。廃れた文明、絶滅寸前にまで追いやられる人類は、戦力を一つの地域に集め発足する。魔物の侵攻をいち早く察知し、適した場所に、適した人材を送り込み、更に人類の領土を広げる為に戦い、安息地を探す。
人間達は隊列を組み、武器を持ち、魔物と対峙し駆逐する。だがしかし、鱗を形成した魔物に関してはもはや生身の人間が戦えるレベルの生物では断じて無い。だがしかしこの過程でもう一つ分かった事実がある。
ハミダシは植え付けられると少しずつ体内に侵食し、心臓を目指す。この植え付けられた最初の段階を10として、心臓と完全に癒着を終えた状態を0とした。
侵食度0にまで達した魔物は、テリトリーを作るらしい。その広さは様々だが、侵食度0の魔物は決してそのテリトリー内から出る事は無い。そのテリトリーの中はもはや魔物の巣窟。人間が立ち入って良い場所ではなくなる。
戦士達はその範囲、そして中心部に居る魔物の強さを測る為、諜報部隊を設立する。それこそが、【冒険者】と呼ばれる者達であった。
【冒険者】が集う国。全ての情報が集まる場所。【冒険者ギルド】設立から凡そ100年に上る。しかし人間達の反抗は極めて厳しい戦いだ。人間は減る一方。魔物は増える一方。魔物による死をも厭わない無慈悲な戦術は人間には到底太刀打ち出来るものではなかった。
そんな、ある日の事。事件が起こった。
侵食度0に至る魔物が大国に攻め込んできた。これは魔物がテリトリーを広げる為の行為、もしくは、他の魔物からテリトリーを奪われ、もう一度テリトリーを形成する為の侵略行為のどちらかだ。
ある一人の冒険者が家族を失い怒りに燃え、たった一人、魔物に挑んだ。そして彼は、生身の身体、裸一貫、武器も持たずして勝ってしまった。
男は、遡れば日本人の血を引く男だった。名は【田中 光輝】
ところが、それほどの力を有する者がまた現れる。数多の土地で、単身で魔物と戦い、その筋力だけで打ち倒す事が出来る人間。それがいずれ人間を率いる希望となった。
彼らは【冒険者ギルド】の頂点に立つ。するとまた、人間同士の戦争が始まった。強者達は手を取り合う事は無く、力に酔いしれ自分の力を振るう快感の後に己の功績を讃え、後世に名を残す為、王になる事を望んだ。そんな中に、彼らは現れる。
かつて、誰よりも早く人類の危機を察知し、そしてこの時代に生きる人類は、彼らを頼りに生きている。
占い師である。
そんな彼らの占いの力によって、【人間の領域】は三つに分断され、【三大国】が築かれる事になる。
力の王国 【ファルディオン】
知の王国 【マッファイア】
数の王国 【フォレイモリス】
それぞれの王が和平を誓い、強者を率い魔物と戦う術を後世に伝え、更なる強者を育て上げる事を誓い、三大国で手を取り合い魔物と対峙している。
それから、100年。
人間はかつて100mを走るのに20秒近く掛かったという。だがこの時代を境に5秒を切る。
200年
直径3mはある巨大な岩を一人で持ち上げるだけの筋力を有する者が現れる。
500年
海に潜り、鮫型の魔物と戦う。その腹筋は牙にも負けず、顎を抉じ開け引き裂く。人間の肉体が、海の覇者を凌駕する。
1000年
人間は【魔王の領域】に足を踏み入れ、数多のテリトリーを踏破し、暗雲に包まれた【魔王の棲家】を確認する事に成功する。
しかしそこに乗り込み帰ってきた者は、未だ居ない。
そんな中、ある文献が発掘された。雨、風から逃れた文献は、1000年前よりも更に昔。人類は同じように、魔物との戦争があった事を記している。
どうやら魔王は、【勇者】と呼ばれる者のみが持つ特殊な力が必要だという。
人類は【勇者】を探さなければならない。そしてこの文献の続きとなる先の書物を探し出さなければならない。
人類に新たな、そして大きな希望が生まれた瞬間だった。
文献のタイトルは
【無意識無双 私が最強の勇者って本当ですか!?〜普通の女子高生の私のステータスは既にカンストしていたそうです。私の日常は一体何処に!?〜】
強者の存在を【冒険者】と呼んだ事。それらが集う場所を【冒険者ギルド】と呼んだ事。
強者達の存在。魔王、魔物。それらに抗う術を持つ【勇者】という存在。
名称という観点から明らかに酷似する内容は、それはもう、この文書が真実を物語っていると疑う余地など全く無かった。




