絶叫
「あああああああああああああああああああああああああああああぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぉおああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああひぃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぶぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
面白いくらい背中で床を滑りながら叫ぶその姿はもう、記されているとおりの馬鹿で阿呆の変態であることに間違いない。
「あの……」
言葉を遮るようにまた叫んだ。
「あ゛ああああああああああああああああああああああああああ!!! お゛ぉあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
「うるせぇ!!!!」と諌めた時にはその頭が床を滑った挙げ句、空の背中を頭突いた。
「当たるわけがない!!! こんな……こんなデッキで……こんなの……当たるとか……こんなカード……」
「むしろ今までよく気付かなかったよ」
額を叩いてやると、触れた目頭は涙に濡れていた。
「あの日だ……」
「……フラれた日?」
彼女はあまり、人付き合いを得意としないが、内気という訳でもない少し風変わりな少女だった。
『誰よアンタ』
物陰に隠れていた人の気配の前に立って、漠然とその気配を見つめていたら、少女は突き刺すような声でそう言う。誰も寄せ付けず、誰も目にも留まらぬよう、カードを広げる彼女の前に、高丸もまたカードを広げた。
『しよ?』
二人の出会いはそこから始まり、そして、泣かせる事から始まった。
『もうアンタとはしない!!!』
あまりに弱くて、だがそれも作戦の内なのかと思って、ただただ圧倒的な力でぶちのめしてしまった。
『アンタなんかに!! アンタみたいに!! 人の気持も理解出来ない馬鹿に!! 許嫁なんて出来るわけがないでしょ!!! ッ馬鹿。消えろ馬鹿。近づくな馬鹿!!!』
そんな泣き言から出る捨て台詞に、高丸は心を打たれた。彼女の名は【悪路王 黒蜜】 【みの群】に生まれた同い年の少女だった。
だが不思議と、彼女の話を村では聞かない。黒蜜という名の少女が居ながら、彼女は人と関わる事をあまりせず、彼女はよく人知れず、森の中に姿を消すという。
『かくれんぼが得意なんだね』
そんな彼女を見つけ出すのはいつも、高丸だった。彼女は樹木の麓。木の根と木の根が絡み合い偶然生まれた空洞の中にいつも居る。
『来ないでよ。殺すわよ』
『やってごらん』
『召喚』
ズッ……
『召喚』
ヒュラッ……
二人の瘴気が森に漂い、ぶつかり合った。この時ばかりは少しだけ手加減してやって、そして間違いなく人生の交わりを感じる瞬間だった。ねちっこく、卑劣で、屈服を求めるような責めに彼女は半泣きになりながらも、漸く負けを認める。
『アンタ……、ほんっと……キモい……』
それから幾度も続くアプローチの末、彼女との関係は着実に進展する。
足音に反応して顔を向けるようになった彼女は、高丸が現れると少し身体を捩ってスペースを広げて彼を隣に誘う。そして肩に頭を乗せて二人で寛ぐようになった。
『私が勝つまでよ』
『じゃあ一生負けない』
その日から彼女との時間を作るようになり、ある日からは彼女から家にやって来て、手を引いてまた空洞に連れ込むと一緒になって占いをした。
『アンタ、占い上手いのね。ね。明日の天気は?』
『……残念。雨だね』
『雨かぁ……』
『家から出ないようにね』
『嫌よ』
『…………』
『いひひ』
額を擦り合わせながら一緒になってカードを覗き込んでいた。そして、黒蜜は高丸の手を握る。
『ね。お父さんのこと、ぶちのめしてよ』
『…………良いの?』
その圧倒的な力の前に、みの群の長は村の底辺。【くの群】の男との婚約を認める事を余儀なくされ晴れて二人は正式に、契を結ぶ。
年月を経ても、二人は喧嘩している風でも痴話喧嘩以上のものはなく、背中を叩かれながら黒蜜に連れられいつもの場所に向かう日々だった。彼女はよく言う。
『私、いつかこの村出てやろうって思ってんの』
『はあ?』
『大国に行くのよ。きっと、もっと沢山の人が居るわ? 美味しいものも、お洒落な服も。カッコいいカードも』
『…………そっか』
『そこで、アンタは占い師をやるの。私は、なんかやってるのよ。良い家具に囲まれてのんびりね』
こんな夢を語る彼女を心底愛していて、痛いほど肩を叩いてくる度に、彼女の言葉が胸に刻まれてゆく。
『ああ。そうだね……』
そんなある日。二人の関係を疎ましく思い、彼女に想いを寄せる一人の男が居た。
他ならぬ、全ての群を牛耳る長の息子。
【悪路王 金丸】であった。




