決着
そこから、高丸の猛攻が始まった。
「赤。【華舞春風瞬撃剣】 緑も使うか。【白夜皮剥狂人】 これで二回攻撃しよう」
悪路王の隣にもう一人、死装束の骸が立った。その手にはまるで人の肉を削ぎ落とす事に適した刃を両手に持ち、桜の花が吹雪く直線を掛け斬り付ける。
空が出来る事は、只管カードを使い、回復のカードを【シールド】に掛け続けることだけだった。
「緑。【夢蛍】 シールドを回復」
「赤。【獄炎】を使う。火力3000アップ。更に赤で【闇宙華】 500アップ。……じゃあ、【頭蓋大搗割】」
暗闇の中に激しく邪悪な炎が吹き上がり、赤い華が開けばそれは悪路王に大きな火力を齎した。抜いた剣を裏に返し、刀背を振り上げ天に跳ぶと、空の頭部を僅かに掠め地面を叩き割った。
「これは、防御を貫通しダメージを与える。白で【雷獣の毛皮】 400アップ。黒から【幻覚蝶】 500アップ」
ただただ逃げの一手しか打つ事が出来ない状況下にある。高丸の猛攻を耐え忍ぶ中、デッキの中にあるはずの回復効果を持つカード枚数を考える。凡そ、5枚程度だ。ただそれが使えるのも、彼がこの遊びに付き合っている間だけの話しだ。
チリッと視線の端に紫色の電流が走った。
「【熾烈雷電抜刀術】」
徹底的に視せ付けてくる。幾年厳しい修行を重ねようとも成し得ないであろう人間離れした一筋の太刀筋が雷鎚を纏い、空一人を避けて大地を焼く。テコでも動かないどころか、テコを差し込む隙すらも与えない呪詛の雪崩に耐え忍ぶのも限界が近付いている。
「………………」
(せめて……)
「もう帰りたくなってきたんじゃないか? 今ならまだ逃げられる。さっさと帰ると良い」
「まだ勝負は終わってないし」
「ならさっさと終わらせてやろう」
白くも熱い光の玉が視えた。高丸の周囲に浮き上がり、それは散り散りになりながら上部に集束する。そして、解き放たれた。
「【獄炎破壊滅光線】」
灼熱の光線が、シールドも、他の場面に配置されたカードも全てを消滅させる威力となる。だがこの時だった。女の声が聞こえた。
『いずれ来る【勇者】へ』
「は?」
『高丸を宜しく』
白い煙を上げているように視えるカードをロストゾーンに捨て、新たにカードを配置する。
「……今のカードは」
「相手の場面を全て壊す」
「そうじゃない。今、声が聞こえた」
「……あ?」
「そのカード、彼女さんが作ったのか」
「…………何故分かる」
(……なんで分かった?)
「……女の人が、高丸を宜しく、って」
嘘だと決めるにはタイミングが良すぎる。少なくとも空がこのカードに何かを感じたのは事実だとそう思った。
「……あり得ない」
初めて見せる、困惑の表情。それは間違いなく、『生きる』理由を求める表情だった。
「…………」
(俺が何か出来るはずだ……。俺が何かしてやるべきなんだ……。俺が何か……。今出来る事は……)
「【槍使いの勇者】の能力発動。仕返しだ」
それは、相手の場面の呪詛を全て山札に戻し、シャッフルの後再配置させるというものだった。不思議な感覚があった。それは全く目に視えるものではないし、ただそう宣言しただけだったのだが、目の前に居座る高丸が、薄く、意識の中にも無かった透明な膜が払われたように、妙にクリアに視える。
高丸は全てのカードを山札の中に戻して、不器用な手つきでシャッフルした。
何度も、何度も、在るはずの無い違和感を探すように何度もシャッフルを繰り返す。だが何度シャッフルしても、高丸はデッキの中に何の違和感すら感じ取る事が出来ない。だが空の言葉をただの偶然と片付ける事が出来ない。
「…………」
(偶然……?)
だが、それは突然やって来る。
「カードセット」
「…………」
(もう俺に出来るのはこれくらいしか無い)
すると、高丸の表情がビキッと割れた。
「あ゛?」
「あ?」
「…………」
それは、存在しないカードの出現だった。
【妖怪 大馬鹿丸】 属性【馬鹿】 能力【馬鹿丸出しで町を徘徊して付けまわしてくる馬鹿。いい加減鬱陶しいのでさっさと連れ出してやってください。このカードが場面に配置された時、プレーヤーの敗北が決まる】
「…………」
「…………」
二人で覗き込む。そのカードは高丸が描くものよりも遥かに上手く、鮮明に描かれていた。
【妖怪 大阿呆丸】 属性【阿呆】 能力【阿呆丸出しで古い紙を使ってカードを自作する盲目的占い師モドキ。貴重な紙を無駄にしカード作りすぎて牢屋にぶち込まれてなおカードを作り続ける馬鹿。そんなにカードが好きなら大国にでも行って阿呆みたいに占いでもやればいい。このカードが場面に配置された時点で、プレーヤーは対占相手の言う事を聞かなければならない】
【|妖怪 大捻くれ丸】 属性【ひねくれ】 能力【何を言うにも逆張り逆張り捻くれたことしか言えないクソ野郎。舌が捻くれていて、美味しいものを食べても言う言葉は全部『悪くない』 捻くれてる癖に割と素直に好き好きしてくるの怠すぎ。もう少し大国とか見て世界を勉強してください(懇願) このカードが場面に配置された時点でプレーヤーの脳みそが全世界の人間より劣っている事実が決定する】
脳みそがぐるぐると頭の中で暴れまわっている。
【妖怪 大きなお世話る】 属性【おせっかい】 能力【マジで占い以外何も出来ない癖に追っかけてきて村に連れ戻そうとしてくるゴミクズ。何処に隠れても絶対見つけてくる耳と鼻で完全に臭いを覚えられてしまっているようなので私はそろそろ村を出ますさようなら。このカードが場面に配置された時、私はきっと、大国で美味しいものを食べています】
【妖怪 大変態丸】 属性【エロガキ】 能力【運動神経ゴミすぎてよく転んで抱き着いてくる変態クソ野郎。荒れた道を歩く時は必ず手を繋いであげた方が良いでしょう。それでも転ぶ時、受け止めるのは男に任せようなんて無駄です。コイツはクソなので必ず女の胸に飛びつくでしょう。このカードが場面に配置された時点で】
「…………逃げられて当然だなお前」
【高丸。貴方は精一杯生きなければならない。また会いましょう】




