心得
「…………」
(コイツと一緒に居れば、コイツと一緒ならトーナメントだって勝ち抜ける。その後だって……)
「君、なんで【勇者】なんて目指してるんだ?」
つい今まで吹き出していた瘴気が僅かに陰り、高丸は呟くようにそう尋ねる。漸く、僅かに心が傾いたと確信出来た瞬間だった。
「なに? ちょっとは興味持ってくれた?」
「そうじゃない。君じゃなくても他に候補者が沢山居るんだろ。俺以外にも沢山、占い師なんて沢山居たはずだ」
「……確かにそれはそう。でも俺が悪路王を選ぼうと思ったのは、やっぱり、筋というか、義理?」
「…………」
【忍者】 それはかつて旧日本から脱却してきた者達が自らのアイデンティティを求めて作り上げた一つの部族だった。そしてそれを伝え導いたのは、悪路王だったという。
それは現在四つの里に別れている。
【心得の里】 【流儀の谷】 【風情の都】 【礼儀の滝】
この四つはいがみ合い、同時に己の流派、忍術を高め合っていたが、凡そ50年ほど昔に時代は一転した。礼儀はファルディオンに従属するようになり、風情はフォレイモリス騎士団に取り込まれた。彼らは流派を捨て、より時代に沿った裕福な道を選んだのだ。
「それが悪いとは言わないけどね。俺は、好きじゃない」
「むしろ君達の方が偏屈に感じるな」
「そうだな。俺達、心得一族は悪路王には多大な恩義がある。一番最初に俺達を安全な土地を伝え、俺達のこれからの生き方を伝えたと、そう伝わっている。だから悪路王なんだ。俺達心得と、悪路王で世界を変える」
「下らないな」
「……ああ。分かってる。こんなの言い訳だ。悪路王がどうとかじゃないんだ。ただ、俺達が信じるべきは悪路王。俺達、旧日本人ってのはさ。【魔王誕生】の土地の生まれ。大昔はその怒りの矛先は俺達日本人に向いたらしい。大きな迫害を受けたってさ。そこから身を隠し、己の力、知恵だけで生き抜いたのが俺達【忍者】 そんな大昔の意味じゃない。忍ぶ者。隠れる者。そんな意味合いだよ。だからこそ俺達だって、あまり他を信用しちゃいないんだ。昔と今で時代や考え方がいくら変わろうとね」
「結局のところ、君が一番そんな差別に踊らされているだけじゃないか。だからその、旧日本人? だけでケリを付けて、けじめを付けて、返り咲こうってことだろ?」
「そんな、大層なもんじゃないよ。俺はただ……怖いだけだ……」
「…………怖い?」
「言ったろ? みんな魔物の脅威から怖がって、震えながら生きてるさ。その為に修行して、その為に強くなって、その為に金払って大国に住んで、色んな方法で安心を得ようと必死だよ。俺だってそうだ。どんなに強くなったつもりでも、魔物一匹とだってやり合えない。もうこんな生活嫌なんだよ。だから魔王を倒したい。俺の手で倒したいんだ。俺がこの手で倒し、魔王が居なくなったと俺自身が思いたい。絶対の安心が欲しいんだ」
「…………」
「お前だって……」
「俺は別に怖くない」
「いいや。お前だって怖いはずだ」
「何が」
「彼女に『嫌い』って言われるのが」
「あ゛?」
「ッそんなドブネズミみたいなかっこして、不潔でフケだらけの髪の毛垂れ流したアホみたいな男、誰が好きになんだよ。あん? 占いで? 許嫁を決める? ッそんなもんに縛られて、お前なんぞと結婚? それッどんな罰ゲームだよ! 王子様の方が良いに決まってんだろぉ? 当たらなくなったとかなんだの言ってても、お前だって占い師なら戦うのが道理だ!! そっから逃げたヘタレが。 トーナメントだぞ。占い師のくせにトーナメントから逃げんのか。あ!? 彼女は出ねぇのかよ。怖いんだろ。カッコいい勇者候補に肩抱かれて、『私が導く最高の勇者様です。はあと』とか言われてイチャついてる姿見せつけられるのが!! あん!! どうなんだよ悪路王様!!! ほら次だほら。【槌使いの勇者】だオラ掛かってこいヘタレ王!! 俺が必ずお前を此処から連れ出してやる」
【槌使いの勇者】 属性【青】




