勇姿
勝てる気が全くしない。ただただそれを直感した。どんなトンネルにだって出口はある。どんなに暗い夜もいずれ朝がやって来る。だが死を覚悟した人間の心はその限りではなく、彼は闇の深い場所に沈んでしまっている。
「…………」
「まさかその程度で俺を動かそうってのか。相手にもならない。それ、スターターデッキか?」
「……ああ。なけなしの小遣いで買ったんだよ」
「なけなしかどうか以前に、小遣いを貰っているおこちゃまが来るようなところじゃないんだよ」
「残念だけど、12歳はもう働ける年齢なんでね」
「働けるかどうかは大人かどうかに関係しない。筋の通らない理屈が屁理屈だと知っているかどうかだ」
「あ、知ってるわ」
「黙れクソガキ」
この時の、フッとした笑いの種がある事に気付かせた。高丸もまた空が何かに至った事を知った。心が明るく光を放ったのだ。
「なぁ、此処に文献は無いのか?」
「文献?」
「大昔、魔王との戦いを描いた文献だ。その中に、勇者を勇者足らしめる鍵が記されているらしい」
「俺等の里にはあったよ」
「?」
心得絵巻、その中にある文献の所在が記されていた。初代頭領が遺し、長い年月を掛けて原本から複製した品だという。そこに描かれた日本にあるとされる洞窟が描かれていた。
かつて神にも等しい力を与えられた姉弟が居た。姉は病的なほど弟を愛していたが、弟がある日、恋をしたと語る。嫉妬に狂い、怒りで我を忘れた姉は異世界に通じているという洞窟【天岩戸】の中に籠もったまま出てこなくなったという。八百万の神は引っ張り出す為に刺客を送ったが、帰ってきた者は居なかった。彼女は異世界に迷い込んでしまったのだろう。もう帰ってこないと誰もが嘆きながらも、弟の恋は進展する。そして結婚間近となって、村では大きな祝の宴が催された。すると、洞窟の奥、扉が開かれ現れた。彼女は語る。『魔王を殺してきた』と。その圧倒的な力を目の当たりにした弟の婚約者は、彼女を恐れ逃げ出してしまう。その時、邪悪な災いが婚約者の女を攫ってしまう。そこから始まる弟の恋の物語と、最強となった姉による弟溺愛の冒険譚である。
【その姉、最強につき 〜弟は絶対に渡しませんが、平和を乱す者も許しません〜】
「後に語られるよ。主人公は暗い闇の中で戦いに明け暮れていた。そこで聞こえた人々の祝の言葉が、現世に戻したのだと」
「……何が言いたい」
カードゲームとは須らく煽り合いだ。手の中に持つ4枚のカードを扇子のように仰ぎながら、顎を上げる。
「好きな人取られて悄気てる姿がなんとも、似てるなぁってね?」
計り知れない瘴気がもはや部屋中を覆い隠す。暗闇の中に佇む猫娘は、扇子を仰ぎ花びらを散らした。
「ガキが……」
「【二刀流の勇者】を召喚」
(俺がもっと楽しまないと……。コイツとは、長い旅になるんだから)
【二刀流の勇者】 属性【赤】
「ならねぇんだよ。タコ」




