勝負
起源は【花占い】だった。
意中の相手を想い、一輪の花を摘み『好き』『嫌い』と交互に唱えながら花びらを千切る。もしも、最後の1枚を『好き』で終えたなら、その恋は実るだろう。だがもし最後の1枚を『嫌い』で終えたならその恋は険しいものになる。
だがもし、同じ相手を想う複数の人物が【花占い】に挑むとどうなるだろう。『嫌い』で終えた者は素直に諦めるべきだろうか。そんな素直な人間はそもそも花占いなどしない。他の相手を呪うに決まっている。自分の方が遥かに相応しいと、そんな相手クソだと。圧倒的な愚直なまでの殺意を以て、花びら1枚1枚は呪詛を帯び、使用者の魂は時に獅子となり虎となり、鬼となり龍となり、相手を襲う。同時に、相手もまた自らを護る為、同じようにするだろう。呪いには呪いを以て、また敵を翻す。
いずれ、花びら1枚1枚は札となり、それらを用いる者達は【占い師】となった。それら札は更に【タロットカード】となって世界に出回り、占い師達は運命の交差点で啀み合う者達に手を差し伸べ星の導きを与える。
彼らは占う。
それが、TCGである。
空、高丸。二人の持つカードが対峙する。だがしかし空は目を大きく見開く。高丸の持つカード。それはカードと呼べる物ではない。ただの、古紙だった。
「……それは?」
「俺のカードは昔、金丸に取られた。だから、自分で作った」
「自分で……。だから当たらないんじゃないの?」
「当たってたんだよ……。ちゃんとな……」
勝利条件は相手の手札全ての【消滅】
【魂】と呼ばれるあらゆるカードの中から選出した5枚の魂を手札とする。ゲームの始め、その内の1枚を【領域】の中央に【召喚】する。
「召喚。【弓使いの勇者】」
【弓使いの勇者】 属性【赤】
「召喚しよう。【妖怪 猫娘】」
高丸が一枚のカードを領域の中央に配置した時。一瞬、自作したというカードを馬鹿にした自分を恥じた。それは確かな呪詛を帯び、黒い瘴気が溢れた。
カードゲームをやっていれば、使用しているカードが実体的に視える事などままある事だ。本物たる占い師のそれは、人の運命の根を刈り取り、新たな道を切り開く希望足らしめるに十分な力だ。
【遊郭に囚われた一人の少女。手足が不自由故に四肢全ての関節を使わなければ歩行が出来ず、視界に映る僅かな光と、音と臭いを頼りに移動する。それは宛ら、猫の仕草に見え人々はその存在を弄んで楽しんだ。年月を経て、彼女は自らの境遇を憎む。自らを弄ぶ者達に殺意を抱く。その時少女の心は死に、同じ憎しみを抱く魔が巣食う。全身が毛に覆われ、より遠くの音を聴く耳。人の感情すら読み取れる鼻。そして発達した筋肉が彼女を二本の足で立つ力を与えた。彼女は憎しみと殺意を抱き、人間を脅かす妖怪となる。その名は】
ぴょんとはね飛ぶ艶やかな着物を纏う女が現れた。黒い体毛に包まれて、黒曜石のような大きな瞳が邪悪な笑顔を浮かべる。
空の卓越した臭覚は、そこに居る女から漂う野良猫のような獣臭を感じ取り、卓越した聴力でも耳に届く女の鳴き声は赤子の産声のようでもありながら、人を誘い込む弱々しくも愛らしい猫のような声と認識する。
到底、領域の中央に配置されている幼児が描いた親の顔より下手くそな猫娘の絵とは全く異なる。そこに立つ妖怪の姿は鮮明で、美しく、実際にそこに居るかのような魂の姿だった。
【悪路王 高丸】 それは紛れもない本物の占い師。
【占星術師】だった。
【妖怪 猫娘】 属性【黒】




