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メビウス  作者: ののせき
運命
17/47

災害

 【くの群】と呼ばれる小さな集落の端。とても小さな土のかまくらの玄関を手でなぞる。手のひらに付いた土を払って中に入ると、そこはもう、何も無い。寝床として藁を積んでいたのだろう。大人がそこ2、3人入れば息苦しくなるほどの小さなかまくらだ。

「何人で暮らしてたんだ?」

「……4人だ」

「……4人か。キツイな」

「まぁな。両親は大抵外にいた。あくまでも雨風を凌ぐ場所だ。集まる事もそう無い。外で芋を焼き、時々獲れた動物の肉を食べるよ」

 ため息混じりに話す彼の言葉は蝋燭の火よりも弱く儚く、話しているだけでも消えてしまいそうなくらい淋しげだった。

「悔しく無いのか?」

「別に。宿命だ」

「……悪路王は、大層良い暮らしをしていたみたいだが」

「…………王たる者ならば当然だ」

「置いていった奴らの事、憎く無いのか?」

「ああ。別に」

「…………。家族は、まだお前を探してるかもしれないんだぞ」

「どうだかな。これが国の決定で、その庇護で暮らしていた者はそれに従うべきだ。俺も此処で死ぬ」

「……生きたいと、全く思わないってのか」

「……死はそんなに暗いことか?」

 まるで、水鉄砲で岩を壊そうとしている。そんな気持ちになるくらい掛ける言葉が全く届いているような気がしなかった。それでも腹も立たないのは、彼があまりにも不憫であるからだ。

「暗いさ。皆、世界中何処だって、皆が魔物に怯えて暮らしている。俺もだ。俺もすごく怖い。毎日怖いんだ。だから鍛えるんだ。毎日毎日苦しい修行をして、もしも魔物が襲ってきたら立ち向かえるように。だけど、凄く怖い。魔物を目の前にすると足が竦むよ。家族が死ぬのも、友達が死ぬのも、全部ヤダ。此処の奴らだってそうだったはずだ。それでも生きる道を選んだんだろ!? 1000年だ。1000年護り続けたこの街を捨てて、いつか取り戻す志より、命を取ったんだろ? ならお前はそれに従うべきじゃないのか!!」

「うるさい。君の大声、ホントに、災いを呼ぶ声だぞ」

「それは……」


 あ?


 二人の声が同時に外に向いた。重く、柔らかい足が地面を踏み込んだ音が聞こえたのだ。そしてその後、グルルと喉を鳴らす。災いはもうそこまで迫って来ている。それを二人が想起した。

「動物……?」

「熊だ」

「一匹か?」

「多分な」

「お前耳良いんだな」

「君もな。まだ遠い。君、餌になるようなものはあとどれくらいある」

「いや、もう無い」

「チッ」

「お前のストマックはもう腹いっぱいのはずだ」

「君はさっさと逃げ」「俺は!!」

「!!!!」

 口を封じた。しかし顔を振って払い除ける。

「お前を、置いては、いかない」

 そう何度も、人差し指を胸に突き付けた。

「………………チッ」

「来い。逃げるぞ」

 手を引いて、出口から顔を出して周囲を見渡し耳を澄ます。

「元の家に行け。あそこが一番頑丈だ」

「……分かった」

 そっと、足音を立てないようそっと歩いたが、引かれる男は玄関の上部に頭をぶつけた。

「あで」

 ガラガラと音を立て、転んでしまう男の背中に土が降る。その音は確かに、熊の耳にまで届いた。

「バッカお前……あ……」

「……あ?」

 視線を感じた。それは目の前。焦げ茶色の毛並みに覆われた熊が一匹居る。その額にはハミダシが植え付けられている。


「魔物……」


 すくい上げるように身体を持ち上げて、高く跳んだと同時に熊が鳴いた。激痛を齎すハミダシに苦しみ悶える甲高い声が空に向かって激しく轟き、人間に対し攻撃行動を取る。猛烈な突進が民家を壊しながら屋根を渡る一人の戦士を追い回したが、金属の柵に阻まれ突進が止まる。


 二人がまた暖簾を潜り、家の中に飛び込み二階の奥の部屋に籠城する。


「ヤバいぞ……。あれ、侵食度10だ」

「なんだそれ」

「植え付けられたばかりの段階。一番凶暴な時期でもあるが、一番ヤバいのは、植え付けた奴が居る。つまり、此処はテリトリーの中だってこと」

「植え付けた奴? 魔王か?」

「違う。侵食度0。ハミダシが完全に身体に定着しきった魔物は、新たに魔物を生み出す能力を獲得する」

「…………まぁ、居なくなって長いからな。魔物も集まるか」

「そろそろ頼む。なぁ。悪路王は何処だ。何処に逃げたんだ。お前も連れて行く。家族に会わせる。家族だってまだ辛い想いをしているかもしれないだろ。俺が話を付ける。だから……」

「…………」

 男が、窓の前に立った。手を泳がせて簾を捲り、遠くの山を指さした。

「…………あの山か。削れてるな。あそこを通ったのか」

「どれくらい前かな。4年くらいか。多分。大雨が降って、あの山が削れた」

「……なに?」

「するとな。新しい風が入ってきたんだ。物凄く、身体に悪い空気だった……」

「おい……。お前……。なに言ってんだ……」

「さっき言ったな。此処は三人の愛人と、悪路王によって出来た村。そして1000年もの間。たった4人の人間の交配によって種を保ち続けていたんだ。……するとな。異常が出るんだ。異様に身体が小さかったり、腕が4本あったり、目が3つあったり、目が見えなかったり。免疫力が弱かったり」


「……病気?」


「皆、遠くへ逝ってしまったよ。俺を置いてな」

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