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メビウス  作者: ののせき
運命
16/48

孤独

「飯は食ったか?」

 男の前で首を傾げながら汚い髪に覆われた顔を覗き込んでみる。彼はムッと顔を逸らした。

「食べてない。ネズミがやって来て、食べてしまった」

「自己紹介としては分かりにくいな。それとも腹の中で飼ってるのか。どうりで痩せてる訳だ」

 平気でぶっ刺してくる人物だったが、不思議と嫌な感じがしないのは相手の言い方なのか、それとも相性か、定かではない。むしろ心地が良いくらいだと男は鼻で笑った。

「……何かあったか?」

「お前の方が詳しいはずだ」

「鍵が掛かってたろ。俺は何も知らないし、話せる事は何も無い」

 これには苛立ちを覚えたようだった。一歩、男に歩み寄った戦士は、男の胸を人差し指で突く。

「良いか? 俺は此処に悪路王を探しに来た。今どれだけ世界が混乱してるか分かるか」

「興味無いな」「死ぬ気なら勝手にして良い。ただ、これからの平和の為、人間の為、お前が此処で、悪路王と共に居て、悪路王の魂をほんの少しでも抱いているなら、協力してくれ」

 その手を払い除けようと手の甲を押し付けたが、戦士の岩のような手は華奢な手では全く動きもしない。

「俺には関係の無い話だ。この世界が死のうが生きようが星は回っている。秩序が変わるだけだ」

「だから死ねと?」

「そうは言わない。人にはな。だが俺はこの地に没む。それだけの話しで、それは君にもまた関係が無い。だからさっさと帰ってくれ。俺は世界に関係無い。静かに死なせてくれ」

「悪いが出来ない。どうでもいいなら尚の事」「だから、俺は何も知らないと、そう言っているんだ」「なら俺の問いに関し無くて良い。お前の、そうだな。此処での暮らしを教えてくれ」

「知って何になる」

「何かになる」

「………………」

 困惑しているようだった。だが彼は背中を見せ、ただ歩いた。その後に続いて歩き、外。暖簾を顔で払い除けると同時に髪の毛が分かれた。顔を覗き込んでみると、やはり想像よりも若いというのが感想だった。

「お前幾つ?」

「…………16」

「あ……あー……」


 微妙なところだった。


 声はまあまあ太いし、やや高慢そうだが落ち着いていて、顔だけ見れば12、3歳という予想が付く童顔だ。

「年齢で言葉遣いを変える教育、受けてないんだ」

「別になんでも良い。敬語使われるような人生じゃない」

「…………階級とかあったのか?」

「まぁあったな。農民の地位は高く重宝されていた。後は町の保存に関わる者達もな」

「じゃあやっぱりあれは1000年前の……」

「そうらしい。まぁ俺は詳しくないし、ちゃんと見た事も無い」

「此処に住んでるのに?」

「俺の家は下の方だったし、あまり外には出ない」

「地位は?」

「………………」

「下の方だったんだな」

「まぁな」

「お前の家何処?」

「………………」

「飯代だと思えよ」

「食ったのは俺の腹の中で飼ってるネズミだ」

「名前は?」

「ストマック」

「じゃあソイツに代金請求してよ」

「……足りないと言ってるな」

 背後から肩を握って振り向かせる。多分そんな感じの事を言うだろうと準備していた懐からもう一つ、餅が出てくる。粒が僅かに残された半殺しの桜餅だった。

「とっておきだ」

 懐かしい、というのが最初の感想だった。ほんわりとした花の香りが肺に入ってきて、全身が逃がすまいと緊張する。飲み込んでしまうのが勿体ないくらいなのに、唾液と混ざり合えば簡単に流れていってしまう。

「………………はぁ」という吐く息までもが美味で宛ら春の深呼吸と形容出来る。それが身体の中にあれば、全身が蕩けてしまいそうだった。どうやらこの身体は心底我慢し続けていたらしい。瞳が潤み、身体が熱を取り戻す。するともう、代金を支払わざるを得ない。

「家どこ?」

「…………」

 また彼は無言に背を向けた。栄えた民家の間から逸れ、路地を進む。確かにと頷ける明らかに見窄らしい土のかまくらが点在している。

「【くの(むら)】と呼ばれている」

「くの群?」

「大昔、あくぅ……この村を作った男は三人の愛人を引き連れて此処に立て籠もった。そして三人は序列を決めたが、それは長くは続かなかった。【く】はその女の頭文字。他に【かの群】 【みの群】がある。その女達の子孫が、群れて暮らしていたんだ」

「くが、当初は最も位が高かったってことか」

「ああ。だがくの女は高慢で、世代が変わる上で差別されるようになった。その後、【か】が強くなった」

「…………ん?」

「?」


「じゃあ、ちょっと待て? その三人の女全員が、悪路王の子を産んだ? そして? その中で繁栄し続けていた……?」


「…………」


「そしてお前は【くの群】で、差別を受けていた」


「…………」


「お前……置いていかれたのか……?」

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