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メビウス  作者: ののせき
運命
12/12

標識

 砂浜と森の境を歩いて、中に入る事が出来そうな場所を探した。動物たちが激しく警戒し、威嚇する動物も現れる。人間は魔物を呼ぶ。そう分かっているのだろう。だが逆に言えば此処にはまだ魔物が居ないという意味でもある。此処は世界で唯一、安全に魔王の領域に入る事が出来る場所だ。その証拠に、人間の物資や、誰かが遭難でもしたのだろう。壊れたイカダが破棄されている。

 不自然に木々が裂けている。剣を用いて道を切り開いたらしい。シダがカーテンのように伸び、分けてみれば細く、そして木の根が露出してボコついているが、通れそうな道がある。

 臭い、音、何となくという勘。安全そうだった。

「酷い湿気だ……」

 中は少し歩けば頬に水滴が付くほど高い湿度となって、太陽の光も禄に届いていない。無数のキノコとカビ、ドロドロと腐った苔に覆われた木の根を踏み散らかしながら先に進む。

 不安が無い訳では無い。縋るものがそれしかない訳でも無い。ただ、タロットカードは導いている。


 運命の出会いは此処にある。


 もう世界の人々は動き出し、既に占星術師との邂逅に至った勇者候補は文献を探す旅を始めているだろう。一歩、二歩、取った遅れを取り戻す為、休む事無く進むと、もう夕暮れ時。山の麓に辿り着いた。

「順当……だったな……」

 怪しいくらいだ。噂に名高い悪路王が住むとされる名も無い山。登る道を探したが、獣道すら見つからない。麓に沿って歩く。夕日が刻々と沈みつつ在って、汗と水滴の違いも分からないほど身体がぐっしょりと濡れていた。

「……………あん?」


 道だ。


 滑車が通ったような轍が二本上に通っている。土砂崩れでもあったのだろう。火山の噴火によって形成された硬い地面ではなく、此処には山から崩れた砂が湿気で濡れて沼のようになっている。木々もまた、木の根が露出する事無く、土に覆われ柔らかい草花に彩られ綺麗なほどだ。

「…………」

 間違いなく人工物。車輪の凹凸を足掛かりに上に昇る。噂によれば、『人の姿を見た』とされる場所だ。そこからその当時、侵食度0の魔物との戦いの痕跡が未だ残された場所が見える。崖に沿って一本の道があり、更に上に登る事が出来るようになっている。心拍が上がる。近付いているのが肌に伝わってくる。それは期待しか無かった。なぜならまるで、迎え入れているかのようであったからだ。


 本来、魔物と一切の遭遇もなく此処まで辿り付く事が出来るはずが無い。


「…………これは」


 1000年前。人間達は砂利を粘土のような物で固めた物を地面に塗ったくり押し固めたところを車が走っていたという。煉瓦とは異なり滑らかだが、老朽してひび割れた、壁だ。それはどうやら奥の道を塞いでいるらしい。壁に赤い文字が書かれている。


 【いまなき村】


 壁の上部から滑り込むように中に入った。ひび割れたトンネル内には上から水が侵入して滴っている。だが、内部全体が同じ材質の粘土で固められ、歩くのにまるで不自由が無い。

「わ!!!!」


 わ……わ……わ……わ…………


 叫ぶと声が返って来る。


 楽しかった。


 陽気に先に進むと間もなく、横たわる長い物体が目に入った。金属のパイプが落ちている。此処で雨風を凌いでいたのか、まだ原型が残されサビ付いていても過去の形状が分かる。

 【心得絵巻】 代々1000年前の風景を絵で遺し守り続けてきた物だ。そこに描かれた車、コンクリート。建物、道路。形状から分かる。

「道路標識」

 この先に、1000年前が在るのかもしれない。そう考えざるを得なかった。その証拠に、樽がある。まだ新しく、その中にはこのトンネルの材料となった灰色の粘土が溜まっていた。塗る為の道具も落ちていて、どうやら長い年月を掛けてこの1000年前のトンネルを維持し続けているらしい。

「すげぇ……」

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