希望
【悪路王】 それはかつて日本を裏から支えた最高峰の占い師の名をそう呼んだ。それは迫りくる災害を秒単位でピタリと当て、恋を占えば険しい恋をも成就させ、更には未来永劫の絆を約束したという。仕事を占えば零細企業が瞬く間に急成長し、仕事に迷う人物が彼を頼れば地を這い蹲る人生からの逆転を果たす。
人類には彼が必要だ。
だが、彼は【魔王誕生】を予言し、人々を安息の地へと導くと、突如消息を絶ったという。三人の愛人と共に心中したという噂があるが、そうではない。彼は日本を捨てる事が出来なかったのだという説は未だ根強い。そしてその末裔が未だ、旧日本。【魔王の領域】に現存している可能性が高いとされている。
黒の羽織を纏う戦士が船を漕いだ。一つ結びにした長髪が風に靡き、苛立ちを抱く表情を誤魔化す為に思い切り櫂を振るって水を掻く。猛烈な速度で目指す場所は【魔王の領域】 旧日本 福岡県に当たる場所を目指して海原を進む。
まだ午前五時。太陽が昇り始め、海が青く色付いてきた頃。遠くに大陸が見える。目の前に現れる大陸の全ては魔王の所有物。しかし、幾度か冒険者が挑戦し、帰ってきた事がある。
侵食度0にまで至る魔物のボスを打ち倒し、少しずつ人間が入り込めるエリアを広げ、何百年もの時間を使い着実に魔王が居るとされる場所に近付きつつある。だが、向こう100年。進歩が無い。
何故ならば、このエリアの限界は元より【魔王の領域】では無かった可能性があるからだ。それが【悪路王】の存在が噂される最大の要因である。
帰還した冒険者が話した。
『山の上に人が居た』と。それが魔物か人間かは定かではないが、それは確かに彼やその仲間達を安置へ導き魔物の危険から救ったという。
戦争の最前線。魔王の領域に住む謎の人間。そんな事が出来るとすれば、過去、全ての人間の希望とされた【悪路王】以外あり得ない。それは、全ての占い師の共通認識である。
幼い戦士は信じている。信じざるを得ない。それ以外に希望は無い。
船を漕ぎ、太陽が真上に差し掛かる頃、綺麗な砂浜に降りた。
「情報によればここら辺は【テリトリー】では無いはずだけど……」
森を目の前にする。人間の居ない森には動物達が海から現れた人間を見つめて監視しているようだ。フクロウが首を傾げ、鹿が現れジッと見つめ一歩踏み込んだだけで驚いて跳ね返って逃げてゆく。魔物蔓延るこの地では、休息の時間もなく皆が怯えて生きているようだ。
遠くに見える山に雲が掛かっている。噂となる山の頂きが、妙に騒がしく、そして、禍々しく視えた。




