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メビウス  作者: ののせき
勇者
10/12

大成

 【国】と言いながら、その全面を統治する事をせず、かつて国々の文化、アイデンティティを重視しながら各々のルールで生きる事を決め寄せ集まった合衆国がある。三大国が一【フォレイモリス】である。

 領土の8割は森と沼地に覆われ、不慣れな者は案内が無ければ決して人と巡り会う事も無く遭難し人知れずに命を落とすだろう。魔物の存在も確認され、中には、この国が既に魔王の手に落ちている可能性すらも噂される魔の土地。その中に暮らす者達もまた、他の国々の者達とは一線を画す。

 人間達は進化した。魔王、魔物との戦争の中で絶望の危機に瀕した人間達のタガの外れた底力が人類という枠組みから外れ、新たなステージに突入したのである。


 それは聴力という観点において極限まで進化を遂げた。尖った耳は遥か遠くまでの音を聞き分け、空から迫る暗雲が溜め込む雷を感知する事が出来る。透明な肌に包まれた赤い瞳の種族は視力は低いが、その聴力は犬や猫を凌駕する。これを【エルフ族】と呼んだ。


 それは腕力。森を縦横無尽に駆け巡る為、腕が長く発達し、手のひらは通常の人間の頭部を覆い隠せるほどに大きく、木の枝を軽く掴み何時間もぶら下がる事が可能。足は短く、身体もまた小さい。【キーモン族】


 姿変われど彼らは1000年経ってもかつての文化を忘れない。そして奪われた憎しみを忘れない。その決意を以て、彼らはフォレイモリスにて新たな世界を築き、魔王討伐の日を待ち続けている。そして此処に【日本】という文化を忘れる事無く、遺された僅かな文献を元に生きる種族が居る。フォレイモリスの中、魔王という存在に最たる憎しみを抱く種族。


 【忍者】である。


 他の種族からすれば、彼らの進化こそ、奇異である。


 見た目は他の人間と全く相違もない。ところが、彼らは犬を凌駕する臭覚を持ち、靭やかな肉体はキーモン族以上の速度で森を駆け巡り、その耳はまるで蝙蝠の如く、彼らの手で作り上げる特殊な笛は彼らの耳でのみ聞こ取れる超音波を発し離れた位置から連絡を取り連携する。


 人並み、いや、新人類からすら一線を画するまさに人類の終着点とも言える。


 この日、フォレイモリスにおいて最大で、偉大な大会が幕を降ろす。


 三年に一度開催される【術技大会】 それは、種族が誇る固有の武芸を持ち寄り、他の種族が挑戦するというものだった。

 優勝者は最年少。僅か12歳で数多の種族を打倒し優勝した武術の天才だった。漆黒の羽織を纏う戦士は誇らしげに鼻息を鳴らし、トロフィーを持ち帰る。


 そこは【心得の谷】


 雲まで聳える霊峰から降り注ぐ水簾を崇める忍者一族が住む地域をそう呼んだ。身の丈の倍はある黒鉄の槍を振るい、滝を割る。現れた洞窟の中に家族が住んでいる。

「爺ちゃん!!!」


「……………………」

 身体は老い、大木の如き足はもはやモヤシのように細く枯れ果て、手入れもままならない白いヒゲが全身を覆う寝たきりの男が、出迎えた。


 祖父 【心得(こころえ) 志三郎(しざぶろう)


 親は絶対だ。それは命尽きるまで変わる事は無く、例え全盛期の10割の力を失おうとも、親の言葉、決定が絶対。


「故に約束も絶対」


 祖父の前に、トロフィーを見せつけた。


「これで、俺が【勇者候補】 そうだよね?」


「……………………」

(よもや優勝してしまうとは……。今年は……つ……粒揃いじゃ……だったぞ……。全盛期の俺でも勝てるかどうか……)


 若い頃は、『だ』が『じゃ』になってしまう老人の気持ちが全く分からなかった。だがある日を境に粘り気の強い唾液が呂律を邪魔し、いつしか『じゃ』を発するようになってしまう事に、この時もまだ抗っている。心はまだ全盛期なのである。おまけに人間は、頭の中で流す言葉であっても無意識に口の中では舌を動かし喋っているものだ。それに気付いたのは、脳裏に流れる自分の思考もまた、それに倣って『じゃ』と発してしまう事だった。


 これが、世代交代、己の限界を意識させてならない。


「だが駄目だ……」


 あくまでも、可愛い孫を諦めさせる為の策であり、偽りの約束である。そして、世代交代の為、次の世代は創世の時。魔王を倒し、日本を取り戻す為の世代とする。その、約束よりも重い、誓いの為だ。


 それに相応しい存在は決めている。同じ志を持つ者。


「この村からは、ゆうひゃ……勇者、候補として、【虎吉】を、出す。ほう、そう、決めている」


 それは過去に一度宣言した事ではある。だがしかし、納得は出来なかった。トロフィーを投げる。壁に衝突するトロフィーは簡単に壊れた。

 気持ちそのものは理解している。危険な旅になる。それを遂行するのに12歳では若すぎる。理解は出来ている。だがしかし、諦める事が出来ない。


「なら出ていく」


「待て!! お前は何も分かっちぉらん!! 第一、お前は!!!」


「うるさい!!!!」


「何処へ行く!!!」


「探してくる」


「何を……」


「俺を、ちゃんと、【勇者】だと信じてくれて、導いてくれる奴を。そして、ぶっ倒してやるからな」


 もうこうなっては、テコでも動く事は無い事はもはや誰もが承知の事である。祖父は首を何度も振って俯いて、諦めた。


「お前は……。好きにせっ!!!」


 一人村を出て、森を駆けた。自分を【勇者】と信じる者を求めて。ある伝承がある。かつて日本に存在し、誰よりも早く【魔王誕生】を予言した最高峰の占い師の存在だ。伝承によれば、彼は日本から離れる事をせず、愛人と共に心中したとされている。


 だが、それは信じていない者が発する噂に過ぎない。彼は生き、今この時も、その末裔は生き残っている。真の力を有する占い師は皆そう信じている。


 その名は【悪路王(あくろおう)


「行こう」


 【悪路王】と呼ばれる占い師。それを求め、忍者の里に生まれた一人の戦士は旅立った。この小さな身体がいずれ、【勇者】たる器に成る為に。


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