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メビウス  作者: ののせき
序章
1/12

崩壊


 地球という星に、人間という生物が棲んでいる。その住処となる大地は灰色の硬い地面に覆われ、その上を金属の箱が簡単な操作によって高速で走り、人、物を運んでいたという。

 人間は動物のような毛皮を持たず、寒さを凌ぐ為に動物から毛、皮を剥ぎ身体に纏い、自己を主張するかのように個性を求めた美しい衣を創造した。

 肉、魚、植物、動く物は何でも食べる性質を持ち、同時にそれらを美しく切り分け、飾り付け、食を楽しむ生き物だ。

 物作りに長け、知能に長け、調和などと言いながら、破壊を緩やかにしているだけの環境意識でこの星を支配し続けていた。人間は増え続け、増えるだけに飽き足らず、その星の、生物の頂点にあり続ける事に誇りを抱き、他の生物はおろか同種の他人すら蹴落とし更なる上を目指している。


 そんな時代が、終わろうとしていた。


 ある者が言った。


『世界の破滅が訪れるでしょう。星の支配者が代わり、我々人類はかつてない脅威に晒される事になる』


 予言は瞬く間に世界に広まった。そして時は訪れた。


 終焉の序章となったのは、日本と呼ばれる国の中心部 東京。そこを襲った大地震は凡そ東京の7割を再起不能とする測定不能の災害。建物の下敷きになった人間を助ける手立ても無い人間たちは、我先に街を捨て、他の街に逃げた。逃げ果せる事が出来るのは、運の良い者。そして、予言を信じた者だけだった。だがそんな人間たちこそが、世界の終焉を目の当たりにし、地獄の幕開けを飾る歴史の語り部となる。


 噴火だった。


 東京から南にある数多の火山が突如、雲を穿つほどの溶岩を空に吹き放ったのである。日本に落下する噴石は、日本全土を飲み込み火の海と変えた。しかしそれは、日本だけの話ではない。世界各地、数多の地域で起こり、世界を支配する人間たちはマグマに呑まれた。


 生き残ったのは人類の凡そ、3000分の1。


 あの言葉を信じ、彼らの声に従った者達だ。


 大地は大きく様相を変えた。森は消え、空は暗雲に包まれ、それからまた多くの命が失われた。それでも人間はしぶとく生きた。残された文明を守り、残された者達で手を取り合う。そこにはもはや人種、その歴史などという問題は些事に過ぎず、全てが人間という一つの生き物として結託した。


 2年ほどの時間が過ぎた。


 残された学者達はヘリを飛ばす。向かった先は、最初の噴火地点。


 小笠原諸島 伊豆大島


 そこは未だ、マグマが海に流れ大地を広げ続けている。だが問題はそれではない。学者達は気付く。火口の中心。そこに黒い球体が浮かんでいた。黒く固まった大地を踏み、球体を取り囲んだ。


 球体は血管のような管が走り脈打っている。これが生物であると確信すると、それが何であるかは明らかだ。


『たまご……?』


 学者の一人がそう呟くと、まるで応えたかのように激しく揺れた。そして、大地が割れるような音が鳴り、卵はひび割れ、中から紫色の汁が滲み出てくる。ヌメリのある液体の中、罅の内側から指が差し込ま、中から飛び出してくる。


 恐怖から足が震える。言葉を失い、立っている事も出来ない者も居た。


 形状はヤギのようだが、魚の鱗のようなものに覆われた紫色の光沢を放つ角。生まれたばかりでありながら、成人男性を遥かに凌駕する頑強な身体。そして、人に似た身なり。

 ひたすら沈黙したまま立ち尽くし、しかし黄金の目玉はぎょろぎょろと動き周囲に居る生物を静観している。これは尾に10本はある長いピンク色の触手を持っているようだ。それは地面に垂れるでもなく蠢いている。

 学者達は悩む。捕獲、接触、退避、対話、様々な行動が頭に過るが、退避以外の行動はどう考えても、好奇心から来る奇行だ。即座に一歩退いた者が居た。だがそれこそが最たる悪手。一本の触手が、学者の男を貫き、空に持ち上げた。

 その時、ヘリコプターは空に飛び立つ。運転手は学者でも無く、ましてや軍人などの訓練を積んだ者では無く、その恐ろしい異形を前に、学者らを捨てて逃げる事を選んだのだ。


 その去り際に見た。


 触手は、貫いた学者の身体に何かを植え付けた。脈打つ赤い光を放つ物体。それを植え付けると学者は降ろされ、また次の者を貫いた。


 操縦士 【馬場(ばば) 英二(えいじ)】が語った内容である。


 英二に対し、その生物は何だと問う。


 彼はこう言った。


魔王(まおう)


 彼のその言葉によって、その生物をそう呼ぶ事となった。


 西暦 2010年 8月 【魔王誕生の日】である。

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