ある自己啓発本の要約
言葉には魔力がある。
私たちがそう気づくより遥かに昔から、言葉には力があると信じられていた。
言霊――言葉に宿る力。私たちは日々、無数の言葉を発している。「おはよう」「ありがとう」「ごめんね」「大丈夫?」といった、何気ない言葉の数々。
しかし、それらの一つひとつには、私たちが思っている以上に大きな力が宿っている。日本には「言霊」という概念があり、それは「言葉には霊的な力が宿り、現実を動かす力がある」という考え方に基づいている。
この言霊信仰は、古代から日本人の精神に深く根付いている。『古事記』や『日本書紀』といった歴史書の中にも、言葉の力が現実を変える例が数多く記されている。
例えば、日本の国生み神話に登場するイザナギとイザナミのやり取りには、「適切な言葉を発することで物事が正しい方向へ進む」という示唆が含まれている。また、天皇が言葉を発することによって国の安寧を願う「詔」の制度も、言霊の影響を受けたものだと考えられている。
言霊の考え方に従えば、ポジティブな言葉を発すれば良い結果が生まれ、ネガティブな言葉を発すれば悪い出来事を引き寄せるという。
たとえば、昔の人々は「死」「病」「不幸」などの言葉を忌み嫌い、できるだけ使わないようにした。これは単なる迷信ではなく、実際に言葉が人の心や行動に影響を与えることを知っていたからだろう。
現代においても、言葉が人の運命に影響を及ぼすことは、心理学的にも証明されている。
「プラシーボ効果」はその一例だ。ポジティブな言葉をかけられると、人は本当に良い結果を生み出すことができる。逆に、「お前には無理だ」「失敗するよ」などのネガティブな言葉をかけられると、自己肯定感が低下し、実際に失敗しやすくなる。これこそが、言霊の力が現代科学にも通じている証拠だろう。
スピリチュアルな世界では、「言葉は波動を持ち、現実を引き寄せる」とも言われている。
例えば、「私は幸せだ」と言い続けることで、脳がそれを現実と認識し、実際に幸せを感じやすくなる。逆に、「私は不幸だ」「どうせ無理だ」と繰り返すと、それが現実になってしまうのだ。
また、ビジネスやスポーツの世界では、ポジティブな自己暗示が成功につながることがよくある。トップアスリートたちは試合前に「自分は勝てる」と口に出して自己暗示をかけることが多い。これは、言葉が潜在意識に働きかけ、実際の行動を変えるからだ。言葉を変えれば、考え方が変わり、行動が変わり、結果的に人生そのものが変わる。
日本には、言葉を慎重に選ぶ文化がある。
例えば、結婚式では「別れる」「終わる」などの言葉を避けるのが一般的だ。また、お見舞いの際にも「重なる」「繰り返す」といった言葉を使わないようにする。これは言霊の考えに基づいており、無意識のうちに私たちは言葉の持つ力を信じているのだ。
歴史的に言えば、古来より日本人は「祝詞」や「和歌」などの形式を通じて、言霊を最大限に活かしてきた。神社で奏上される祝詞は、言葉の響きそのものに力が宿るとされ、適切な音の並びによって神々の力を引き出すと考えられていた。そして、和歌や俳句といった日本独自の詩の文化もまた、言葉の力を最大限に引き出す手段の一つである。
これらを踏まえると、言霊の力を意識し、日常生活に取り入れることで、人生をより良い方向へと導くことができるのではないか。以下のような習慣を取り入れてみるのはどうだろうか。
1.ポジティブな言葉を使う
「ありがとう」「楽しい」「うれしい」といった前向きな言葉を積極的に使うことで、周囲にも良い影響を与え、自分自身の気持ちも前向きになる。
2.言葉の持つエネルギーを意識する
何かを言う前に、「この言葉は自分や相手にとって良い影響を与えるか?」と考えてみる。特に、人を傷つける言葉や否定的な言葉はできるだけ避ける。
3.肯定的な自己暗示をかける
毎朝、「今日はいい日になる」「私は幸せだ」と自分に言い聞かせることで、ポジティブなエネルギーを引き寄せることができる。
4.言葉に感謝を込める
食事をする前に「いただきます」、何かをしてもらったら「ありがとう」と言う習慣は、言霊の力を最大限に活かす行為の一つだ。感謝の言葉には、大きなエネルギーが宿るとされている。
5.書くことで言霊の力を強化する
言葉は、声に出すだけでなく、書くことでさらに強い力を持つとされている。例えば、「目標を紙に書く」と、それが実現しやすくなるのは、言霊のエネルギーが文字にも宿るからだろう。
終わりに
私たちは、日々、何気なく言葉を発している。しかし、その一つひとつが、未来を形作る要素になっているとしたらどうだろうか。もし、何気ない一言が誰かを幸せにし、自分の人生をより良いものにできるのなら、言葉をもっと大切にしようと思えるはずだ。
言霊の力を信じ、日々の言葉に意識を向けることで、私たちの人生は少しずつ変わっていく。今日から、あなたも「言葉の力」を味方につけてみてはいかがだろうか。
【出典】
岡田正親『言霊――言葉に宿る力』人道社,2015




