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溶解  作者: 歩く魚


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18/30

某月刊誌 2022年5月号掲載「透明人間」


 毎日の仕事帰り、私はコンビニに立ち寄ってお気に入りのスイーツを買うのが小さな日課となっています。どんなに疲れていても、その甘いひとときが私にとってはほっと一息つく瞬間であり、心を温める癒しとなっていました。

 しかし、その日の夜は、いつもと何かが違っていたのです。

 会社を出たあたりから、ふと背中に伝わるような冷たい空気があり、それが心の奥底まで染み込んでいるようでした。私は「風邪のサインかもな」と思い、その日はコンビニに寄らずに帰ることを決めました。

 最寄駅に着いて歩道を歩いていると、ふと後ろから誰かがついてくるような気配を感じました。

 はじめは、遠くの足音か、風に揺れる木のざわめきだと思い込もうと努力しましたが、足音は私の一歩一歩に合わせるように確実に聞こえ、背後に何かいるのだと確信します。

 どうするべきか悩みました。大声で助けを呼ぶのがいいのか、素知らぬふりで誰かに電話をかけるのか。ですが、その時の私は軽いパニック状態に陥っていて、カバンを振れるように構えて勢いよく振り返ってしまったんです。

 でも、そこにはなにもいませんでした。ゾワゾワと私を震わせた悪寒も――そう思った瞬間、冷気が後頭部に吹きかけられました。

 振り返ると、視界の隅に一瞬だけ、人影のようなものが映り込みました。はっきりとした顔や体形はなく、ただぼんやりとした影のような存在が、私を取り押さえようとしてきたのです。

 私は恐怖のままに抵抗しようとしましたが、相手の力があまりに強くてなにもできませんでした。こういう時、人間って冷静に客観視できるようです。あぁ、私はこのまま殺されるんだな、そう考えていました。

 その時、突然の衝撃が私たちを襲いました。人間がタックルしたようで、吹き飛ばされた私は立ち上がり、そのまま一目散に逃げ出します。一度だけ振り返りましたが、そこにはなにもおらず、かといって立ち止まるのも恐ろしかったため、警察へと逃げ込みました。

 当然というか何というか、警察は私の言うことをあまり信じてはくれませんでしたが、その日は家まで送ってくださり、しばらくの間、周囲の警戒を強めてくれました。

 私はというと、あの日以来、正体不明の影には襲われていませんし、寒気もありません。何もなかったとはいえ、どうして私が狙われたのかも分かりません。調べようとも思いましたが、たぶん進展はないだろうと、断念しました。

 それよりも、一番気になっているのは私を助けてくれた存在です。あの影よりも、さらに何もなかったように思います。

 もしかしたら、この世界にはいわゆる透明人間がいて、人知れず私たちを守ってくれているのかもしれませんね。

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