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溶解  作者: 歩く魚


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心霊系YouTuberH 2月26日 配信

※コメント欄については、ユーザーの個人情報保護のために名前を伏せ、配信者が反応したと思わしきもののみ記載


H:今日はね、いわゆる人怖系のメールが届いてます

 

コメント:期待

コメント:もうそろそろ春だし、ヤバいやつ増えてきそう


H:いやマジでね。俺ん家の近くでも最近、不審者情報ヤバいもん。なんか、ポストに変な手紙入れる人とか、帰り道で誰かに触られて振り返っても誰もいないとか、ガチでヤバい


 彼のチャンネルはいわゆる「心霊ホラー」に特化したものである。登録者も多く、過去にはホラージャンルの商業作品とコラボしたこともあった。

 だが、H自身が巷で噂されているトンネルなり廃墟なりに足を運んでいたのは二年ほど前までのことで、最近はもっぱら視聴者から送られたメールや映像を確認し、それに対して意見を述べるだけだった。


H:とりあえず読んでくわ


 Hさんこんにちは。

 私は普段、家から二十分ほど歩いた場所にあるカフェで仕事をしています。フリーランスでライターの仕事をしていて、家では集中できないので近場のカフェで仕事をして、家に帰る毎日です。

 カフェに何時間も居座るのは申し訳ないのですが、学生や社会人、お年寄りまで様々な方がゆっくりと時を過ごしている空間が心地よく、仕事の手が進むんですよね。週に何度も顔を合わせるお客さんがいたりして、たぶんお互いに「この人はなにをしてる人なんだろう…?」と思っていることでしょう。


 本題に入ります。これは先週の出来事なんですが、私はいつものようにカフェでPCを広げていました。カフェの壁際に席があるのは予想がつくと思いますが、中央部にも楕円形の大きなソファが置かれていて、背を向ける形で八席ほどが置かれています。

 私は壁際の、半ば定位置のように感じてきた席に座っていたのですが、キーボードを叩くかたわら、集中が乱されつつあるのを感じました。体調によるものではなく、外的要因です。

 そして、なにが気になるのか考えていると、ふとぼやけた視界の端でなにか動いているんです。見ると、前方の円形席を利用している老婆が、こちらをじっと見ているんです。

 彼女は前のめりで私のことをじっと見ていました。目線は虚ろで、私のことを見ているとは言い切れなかったのに、確かに意識を感じたんです。

 老婆の隣には、よくカフェで顔を合わせる男性が座っていたのですが、彼がすごく迷惑そうな表情で老婆を見ました。その時、彼女が小さい声でブツブツと喋っているのに気付きました。

 なにを言っているかはほとんど聞き取れません。空気にさらされたストローを吸った時のような、蚊の鳴くような声でした。

 私は気味が悪くなって席を移動しようと思いました。でも、だんだんと腹も立ってきて、このまま居座ってやろうかという気持ちもあり、迷っていました。

 そうこうしているうちに、老婆は勢いよく立ち上がり、店から出て行きました。

 彼女がいなくなった後、どうしても気になって、隣に座っていた男性に声をかけました。


「あの、すみません。ちょっとよろしいですか?」

「はい、どうしました?」

「先ほど隣に座っていた女性なんですけど、ずっとこちらを向いて何か言っていて……その、なんて言っていたか、聞こえたりしましたか?」


 そう聞くと、男性は困ったように「ええと……」と言った後、ゆっくりとこう言ったんです。


「ずっと、憎しって言ってました」


 流石に不気味なので、これからは違うカフェに通うようにしようか迷いました。でも、立地的にあれ以上の場所はなかなか少ないし、そもそも女性と面識はないので、憎まれる理由はないはずなんです。

 そう思って、その後も同じカフェに行ってるんですけど、同じ出来事は二度とありませんでした。

 Hさん的にはどう思いますか?


H:ってことで、確かに人怖系だよね。かなりリアルっていうか、こういうボケちゃってそうな老人って意外にカフェ来たりするのよ


コメント:それな

コメント:めっちゃ迷惑。小学生だけで来たりするのもやめてほしい


 Hはしばらくの間、コメントを読みながら頷いていたが、やがてメールに話題を戻す。


H:なんていうか、お婆さんの言葉だけ引っかかるんだよね、俺は。だって、憎しって安直すぎない? いや、これはエンターテイメントとしての人怖の話だけど、憎まれるにはそれなりのバックグラウンドが必要だと思うのよ


コメント:あー、実は相談者の祖先がやらかしちゃったとか?


H:そうそう。でも、これって現実世界ではまぁ起こらないじゃん。この人が憎いなら目線も合わせるはずだし。ってことは、このイカれ老婆はさ、もっと無差別的な悪意をばら撒いてる可能性が高いと思うのよ


コメント:じゃあ憎しでも良くね


H:うーん……普通に言葉としてのパンチ弱くない? 実はぜんぜん関係ない呪いの言葉を呟いてて、隣の人は聞き間違えてたっていう方が怖いし、可能性高い気がするんだよなぁ


コメント:もっと関係ない言葉の方が、怖かったりしない? 我々はチキンタツタ、とか何回も繰り返されたらかなり怖いと思う


H:我々はチキンタツタ、我々はチキンタツタ、我々はチキンタツタ……怖くないわ!


 この後、配信はチキンタツタからハンバーガーチェーン店の話になり、何事もなく終了した。

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