第7回『賢人の視点』 (パウロ・コエーリョ著、飯島英治訳:サンマーク出版)
第4回でご紹介した『アルケミスト』の著者パウロ・コエーリョさんのエッセイです。原題は『流れる川のように生きよ』で、自らの想いを吐露し、友人・知人から聞いた、または、新聞記事で知った特別な話が紹介されています。
ページをめくると、タイトルの元となった詩が掲載されています。
流れる川のように生きよ
夜はただ静かに
暗闇を恐れることなく
夜空に星が瞬けば、それを映し
青空に漂う雲があれば
それもまた川と同じ水であることを忘れず
喜んで映し返そう
穏やかで、深い心で
これは、詩聖とも呼ばれているブラジルの詩人、マヌエル・バンデイラの作ですが、最後の「穏やかで、深い心で」という一節が胸の奥まで沁みてきます。
しかし、その一方で、こうも思います。
果たしてこのような心で過ごしたことがあるだろうか? と。
仕事に追われ、プライベートな時間もスマホやテレビやゲームに支配され、夜空の星を眺める余裕もなく、ただ時間だけが過ぎていく……、そんな毎日を過ごしていると虚しさが募ります。
ですので、ちょっと立ち止まって、しがらみから一時離れて、フ~っと大きく息を吐いてみる。そんな時間が必要ではないでしょうか。
大切なことを思い出すために。
大切なことを忘れてしまわないように。
大切な人を失わないように。
そして何より、自分を失わないように。
*
では、本題に戻って、素敵な逸話やエピソードをご紹介したいと思います。
『一粒ずつの種』
サンティアゴ(チリの首都)への巡礼の旅の途中で、マリア・エミリア・ヴォスという女性から聞いた話です。
紀元前250年頃、中国のある所に戴冠を控えた皇子がいました。しかし、即位するためにはまず妃を娶らなければなりません。法で定められているからです。でも、信頼に足る女性をどうやって見つければいいのかわかりません。
そこで、皇子は賢者に助言を求めました。すると、国に住むすべての若い娘を集めて、あることをさせるようにとアドバイスを受けました。
当日、国中の娘が最高の衣服と宝石を身にまとって集まってきました。その中には、裕福ではない一人の娘も混じっていました。
全員の前で皇子が言い渡します。
「集まってくれた皆さんに、一粒ずつ種を与えましょう。半年後、最も美しい花を咲かせた人こそが、この国の未来の后となるのです」
裕福ではない娘は、さっそく種を鉢に植えました。土を丁寧にふるいにかけ、手入れを怠らず、大きな花が咲く日を心待ちにして日々を過ごしました。
しかし、3か月が経っても芽吹く気配はありませんでした。農夫や庭師に助言を求めて、できる限りの世話をしましたが、それでもうまくいきませんでした。
娘の夢は萎んでしまいました。后になれる可能性はゼロになったのです。
それでも、皇子への想いは変わりませんでした。ですので、皇子の姿を目に焼き付けたいという一心で、土だけの鉢植えを手に持ち、宮廷へ向かいました。
中に入ると、より一層着飾った娘たちが色とりどりに咲く花を抱えて、所狭しと並んでいました。
時間になり、皇子が現れました。娘たち一人一人に慎重に目を配って、手に持つ花を確認しました。
そして、すべてを見終わると、「后になる女性は花を咲かせることができなかった女性だ」と宣言をしました。その上で、こう伝えました。
「みなさん、彼女だけがこの場でただ一人、妃となるに値する花を咲かせた女性です。それは、“正直”という名の花です。あなたたちに授けた種は、どれも育つはずのない種だったのです」
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『空港のバラの花』
全米書店協会が主催するブックフェアに向かうために、ニューヨークからシカゴへ行く飛行機に乗った時のエピソードです。
乗り合わせた青年がいきなり立ち上がって演説を始めました。
「どなたか、1本ずつこのバラの花を持って飛行機を降りていただきたいのですが、12名のボランティアをお願いできないでしょうか」
多くの人が手を上げた結果、著者は選ばれなかったのですが、興味のままに後をついていきました。
すると青年は、到着ロビーで待つ若い女性を指差しました。
その意を受けて、バラを持つ乗客たちは次々に花を渡していきました。
すべてのバラが渡されると、青年が女性の前に立ちました。
プロポーズをしたのです。
*
『死後、世界をめぐる』
フランスの新聞「ル・フィガロ」に掲載されていた記事についてです。
カリフォルニア州の北に位置するオレゴン州メドフォードで生涯を暮らしたアメリカ人女性の話です。
彼女は、定年になったら世界旅行に出ることを夢見て、ずっと貯金をしていました。しかし、実現する前に肺気腫を悪化させ、脳卒中まで患ってしまいました。そのため、酸素吸入器の設置された部屋に何年間も閉じこもらなければなりませんでした。
その後、息子が住むコロラド州に引っ越して余生を送ることになりますが、そこである決心をします。生きているうちは国内旅行も満足にできなかったが、死んだ後に世界を旅するのだと。
息子は彼女の遺言に従い、火葬にした後、遺灰を241個の小袋に分けました。そして、アメリカ全土の50州と世界各地の191の国の郵便局長に宛てて発送しました。遺灰を収めた封筒に現金書留を同封して、「母の葬儀に協力して欲しい」とメッセージを書いて送ったのです。
受け取った誰もが息子の依頼に真摯に応じました。母親が旅してみたいと願った各地で、互いに知らない人たち同士が共感で結ばれ、多彩な葬儀が執り行われたのです。
アイマラ族の古代の伝統にのっとってボリビアのチチカカ湖に遺灰が撒かれました。
ストックホルムの王宮の前を流れる川にも撒かれました。
タイではチャオプラヤ川のほとりに撒かれました。
日本では神道を奉る神社に収められました。
南極の氷河やサハラ砂漠とも一緒になりました。
南米の孤児院で奉仕活動を行う修道女たちは散骨を前に1週間の祈りを捧げたのち、その庭園の守護天使とすることを決めました。
そしてその後、人種も文化も異なる五大陸の各地から、息子の元へ続々と写真が送られてきました。そこには、母親の遺志を叶えてくれた人々の姿が写されていました。
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『愛に心を閉ざさない』
両親から暴行を受けた少女のことを報じた新聞記事についてです。
暴行のせいで彼女は全身不随となり、話すことさえできなくなりました。入院生活を強いられた彼女は、ある看護師に巡り会います。
その看護師は来る日も来る日も少女に「愛しているわ」を話しかけ、惜しみなく世話をしました。医師から「聴力が失われているのだから無駄だ」と言われても、「忘れないで。愛しているわ」と伝え続けました。
すると、3週間後、体が動くようになりました。
4週間後には言葉を発するようになり、笑顔を見せるまで回復しました。
看護師のひたむきな愛が奇跡を起こしたのです。
*
以上でご紹介を終わりますが、この本には全部で85もの素晴らしいエピソードが紹介されていますので、多くの気付きや感動を与えてもらえるのではないかと思います。是非、手に取ってみてください。
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作者のパウロ・コエーリョさんのご紹介をします。(本の最後の作者紹介ページなどから抜粋)
1947年、ブラジルのリオデジャネイロで生まれています。世界中を旅したあとに音楽とジャーナリズムの世界に入りますが、その後、作家となり、初の著書『星の巡礼』を1987年に出版して注目を集めます。更に、1988年に出版した『アルケミスト』が世界中でベストセラーになり、その後も、世界を旅しながら精力的に執筆活動を続けています。また、「最も多くの言語に翻訳された存命の著者」としてギネス記録を持っており、2007年より国連の平和大使を務めています。
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心に沁みる物語、
救ってくれた言葉、
ヒントを与えてくれたビジネスワード、
心を豊かにしてくれる写真と絵と文章、
そんな綺羅星のようなエッセンスが詰まった、
有名ではないけれどグッとくる本がいっぱいあります。
そんな素敵な本をこれからもご紹介してまいります。
✧ 光り輝く未来 ✧
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