第6回『美容師・理容師になるには』 (大岳美帆、木村由香里共著:ぺりかん社)
今回は、美容師さん、理容師さんについて書かれた本をご紹介します。
何故?
それは、美容業界、理容業界をテーマとした小説を考えていたからなのですが(完成しましたので、『天空の美容室~あなたに出会って人生が変わった~』というタイトルで公開中です)、それだけでなく、身近な存在でありながら、実はよく知らない、という人も多いのではないかと思い、今回取り上げることにしました。
*
表紙をめくると、序文が現れます。
「お客さんの好みやライフスタイル、おしゃれへのイメージを聞いて、髪型はもちろん、トータルにファッションへのアドバイスができる美容師・理容師。華やかに見える仕事ですが、幅広い技術とセンスが求められます。常に練習を続けて、講習会や海外研修に参加し、コンテストにも挑戦するなど、腕をみがき続けます。お客さんを喜ばせ、笑顔にする仕事を見てみましょう」
そしてページをめくると、「はじめに」のところで業界の状況説明があります。
少し古いデータですが、2013年度の実態が紹介されています。
美容室の数は23万4,000軒(10年前に比べて2万軒増)で、美容師は48万8,000人。
理容室の数は12万8,000軒(10年前に比べて1万軒減)で、理容師は23万4,000人。
合わせると、店の数が約36万軒で、働く人は約72万人ということになります。
また、最近の傾向として、理容師になる女性と美容師になる男性が増えているということも示されています。固定観念がなくなり、垣根が低くなっているのだと思います。
ところで、この本は美容師さんや理容師さんへのインタビューと解説で構成されていますので、順番にご紹介してまいります。先ずは美容師さんからです。
*
最初にご紹介するのは、東京都日野市にある美容院Bに勤務するKさんです。
彼女は現在アシスタントで、一日も早いスタイリストデビューを目指して毎日頑張っている明るい女性です。
Q:なぜ美容師を目指したのですか?
A:美容が大好きだったので、高校卒業後、迷わず専門学校に進みました。でも、自分の適性がわからないので、ヘア、エステ、メイク、ネイル、着付け、ブライダルと、色々な授業を受けて職業にしたい分野を絞っていきました。その中で、特に魅力を感じたのがカラーリングやカットなど髪に関する授業でした。ですので、美容師になりたいという気持ちが強くなっていきました。
Q:アシスタントとしての苦労はありますか?
A:試験に受からないと施術ができませんので、シャンプー、カラーリング、パーマ、ブローと順に受けていくのですが、それぞれに数項目の試験があるので大変でした。不合格になったこともあって悔しい思いもしましたが、でも、今はカット以外は任せてもらえるようになったので、頑張ってきてよかったと思います。
Q:どういうことを意識して仕事をしていますか?
A:スタイリストの意向をくみ取ったり、お客さんの希望を把握するなど、技術だけでなく、気配りをしながら仕事をしています。
Q:今後の目標は?
A:スタイリストとしてデビューすることです。現在カットの試験に臨むために練習に励んでいますが、試験には4種類のカットが課せられているので、閉店後、カットウィッグを相手に毎日11時半頃まで練習をしています。試験はもうすぐなので、それに合格したら、自分らしさを忘れずに、お客様の『なりたい』をすべて叶えられるような美容師になりたいと思います。
*
次にご紹介するのは、東京都渋谷のK美容室に勤務するKさんです。入社して13年目で、ヘアスタイリストとして8年の経験を持つ女性です。
Q:なぜ美容師になったのですか?
A:小さな頃から母親の髪を触るのが好きだったのですが、小学生の頃、美容師という職業があることを知りました。すると、「パーマ屋さんになったら、髪にいっぱい触れて、みんなをかわいくしてあげられる」と考えるようになりました。
Q:アシスタント時代の苦労はありましたか?
A:はい。「この仕事は好きじゃないと続かないな」と入社後まもなく実感しました。店のカリキュラムに沿って実技試験があるのですが、その試験に通るのが大変なのです。特にシャンプーについては厳しいトレーニングがあり、やっとお客さんの髪を洗うことができたのは、入社して4か月後でした。とても緊張したのを覚えています。
Q:今の仕事について教えてください。
A:150人のお客さんにご指名いただき、平均して月に70人ほどの方の施術をさせていただいています。多い時は1日に8人を担当することもあり、その日は休憩時間が取れないほどの忙しさになります。加えて、毎週1回、朝と夜の練習会でアシスタントにブローの指導をしています。もちろん、自分でもカットなどの練習は欠かしたことがありません。
Q:接客についてはいかがですか?
A:難しいなと思います。私どもとのおしゃべりを楽しみにしていただいている方もいれば、そうではない方もいらっしゃいます。お客様の雰囲気を読み取って、探りながら質問したり、会話をしながらより良い接客を目指しています。その中で大事にしていることが『共有』です。お客様の価値観や好み、趣味を共有するということです。逆に自分の技術力をお客様に共有していただくという意味もあります。それがうまくいった時にはじめて、リピーターになっていただけると思うのです。また、自分のモチベーションを高めて、笑顔で明るく仕事をすることを心がけています。嫌なことももちろんありますが、常に前向きでいたいと思っています。
Q:お休みの時は何をしていますか?
A:外出することが多いです。普段は限られた空間で仕事をしているので、休みの日は積極的に外に出ることにしています。
Q:最後に、どんな人が美容師に向いていると思われるか教えてください。
A:作ることが好きな人、体力がある人、人に何かをしてあげるのが好きな人、そして、努力家、でしょうか。美容師は一見華やかそうに見えますが、実際は大変なことも多いので、信念を持って働かないと長続きしないと思います。
*
次は、男性美容師のKさんです。系列店5店をマネジメントする経営者でもあります。
Q:なぜ美容師になったのですか?
A:実は絵を描くことが好きだったので、小学生の頃は画家、中学生の頃は漫画家、高校生の頃はグラフィックデザイナーになることを夢見ていたのですが、友人の家族が経営する美容室で髪を切っていた時に、偶然手に取った1冊の雑誌を見て、運命が変わりました。その雑誌は『アンアン』でした。男性スタッフだけの美容室が紹介されていて、読むうちに興味が湧いてきたのです。そこで、美容専門学校に進学し、卒業後は雑誌で紹介されていた美容室に就職しました。
Q:アシスタント時代の苦労はありましたか?
A:はい。技術の習得はもちろんですが、おしゃべりが苦手だったので、お客さんとの会話が悩みの種でした。それでも、お客さんからの投げかけに応えていくうちに少しずつ慣れていきました。
Q:勤めている間に技術の変化があったと聞いていますが?
A:はい。それまではカットといえば、カミソリで髪を削ぐレーザーカットでしたし、仕上げはカーラーを巻いて、通常「おかま」と呼ばれるスタンド式のドライヤーで髪を乾かしてスタイリングしていたのですが、イギリスのスタイリスト、ヴィダル・サスーンがハサミでカットする手法を考案し、ハンドドライヤーでブロー仕上げをするようになると、それが一気に主流になっていきました。それで私もその技術を習得したいという衝動にかられました。
Q:それで、どうされたのですか?
A:はい。その技術を学べる美容室に転職しました。でも、3カ月後には新たな出会いがあり、その人と共に行動を始めました。その人はカナダで長い間働いていた日本人美容師で、すぐに意気投合しました。それで、彼がオープンした美容室で働くことになりました。
Q:今、大事にしていることはなんですか?
A:次世代の育成です。それは店のスタッフだけでなく、講師となって講習会をしたり、ヘアショーというイベントのサポートもして、後進の育成に力を注いでいます。
Q:心に残っている出来事を教えてください。
A:長い間ごひいきにしていただいた男性のお客様がいらっしゃったのですが、その方が70歳くらいの時、突然、お亡くなりになりました。その時、奥様から電話があり、「もう棺に入っているが、最後なので髪を整えていただけないか」という依頼を受けました。喜んで引き受けさせていただきました。人生の終焉に髪をきれいにして送ってあげることができたのは、美容師として感慨深いものがありました。
*
ここで、インタビューのご紹介を一休みして、美容と理容の歴史などについてご紹介します。
女性は江戸時代前期までは「髪は自分で結う」ことがたしなみとされ、身分の高い女性以外は自分で髪を結っていました。
ところが、江戸時代中期になると複雑な髪型が流行し始め、女性のための女髪結という職業が生まれました。
一方、理容室は長く「床屋」という通称で親しまれていましたが、その歴史は古く、鎌倉中期時代までさかのぼることができます。
山口県下関の藤原采女亮が武士をお客さんにして、月代(頭頂部の剃り上げている部分)を剃り、髪結業を営んだのが始まりとされています。
何故頭頂部を剃ったのか?
それは、兜をかぶった時に籠る熱気を和らげるためでした。
ということで、床屋の仕事は「剃る」と「切って結う」ことがメインだったわけです。
因みに、床屋とは、藤原采女亮の店に床の間があったことから床場と呼ばれるようになり、それが床屋に変化したようです。
以上、見てきたように、この歴史の違いが美容師と理容師の仕事の違いになったそうです。つまり、美容師は髪を結うのが主な仕事で、理容師は刃物を使って剃ること、切って結うことが主な仕事となったわけです。
そのことから、顔剃りは理容師のみに認められる仕事となり、ヘアセットやメイクは美容師のみに認められるようになりました。
*
それでは、また、インタビューに戻ります。
今度は理容師さんです。川崎市でヘアサロンを経営している女性理容師、Mさんの登場です。
Q:なぜ理容師になったのですか?
A:祖父が理容室を創業し、母がその店を継ぐという環境で育ちました。それで理容師の仕事を身近で見てきたのですが、それより、セーラームーンの方が好きでした。でも、セーラームーンにはなれないことがわかった時、理容師になると決意しました。それで、専門学校に進学し、卒業後は有名な理容室に入店しました。夫婦ともに日本チャンピオンに輝いたという素晴らしい経歴を持つオーナー夫妻が経営する理容室でした。
Q:入ってみて、いかがでしたか?
A:厳しかったです。いかに自分が下手かを思い知らされて、ものすごくへこみました。自分が情けなくて毎日泣いていました。それでも、コンテストに出るために夢中で頑張りました。
Q:いつ実家の店を継いだのですか?
A:働き始めて6年が経とうという頃、母が体調を崩しました。それで実家で働き始めました。でも、母が入院したので、一人で店を背負っていかなければならなくなりました。その後、母は他界し、その上、同居している祖母の面倒も見なくてはならなくなりました。忙しい日々が続いています。
Q:お店は順調ですか?
A:はい。平日はスタッフと2人で10人くらいのお客様に対応し、土日は16~20人くらいに対応しています。男性客だけでなく、女性客も多く、考案したヘアアレンジをインスタグラムにアップしたり、レディ―スシェービングやブライダルシェービングに力を入れたり、着付けをメニューに取り入れたり、様々な工夫をしています。
Q:今後の目標について教えてください
A:理容師の夫と結婚したので、店舗を改装して、メンズエステにも取り組みたいと思っています。そして、赤ちゃんからお年寄りに至るまで、ずっと通ってきていただける、ライフステージに寄り添えるサロンを目指したいと思っています。
*
次は、銀座の高級店で腕をみがく女性理容師、Kさんです。
すべてが個室になっている7階のフロアではお客さんは豪華な革張りの椅子に座って施術を受けることができ、まるで高級エステのような佇まいです。
Q:どうして美容師ではなく理容師になったのですか?
A:手に職をつけて、一生働ける仕事を見つけたいと思ったのがきっかけでした。最初は美容師を目指していたのですが、仕事の内容を調べたり、実際に職場見学をしているうちに理容師の方へ心が傾いていきました。理容は美容ほどヘアスタイルの流行がないので、結婚や出産を経たのちでもブランクを感じずに復帰しやすいですし、カミソリが使えるのも大きな理由でした。女性向けのエステなどではシェーブニストとして需要が高まっているので、仕事の幅を広げることができるからです。それと、美容師に比べてスタイリストデビューが早いというのも魅力でした。
Q:入店してからの仕事内容を教えてください。
A:1年目は掃除や洗濯、先輩理容師の補助が主な仕事でした。また、営業時間の前後で訓練があり、シャンプーやカラーリング、パーマの技術を習得していきました。そして、2年目にはスタイリストとしてデビューすることができました。でも、まだまだ勉強しなければいけないことが多く、毎日の訓練に加えて、講習会や月に一度開催されている系列店の競技会にも参加して技術を磨いています。
Q:特に力を注いでいる技術はなんですか?
A:丸刈りやスポーツ刈りです。それも、バリカンだけではなく、ハサミでの仕上げを希望されるお客様に対応できるように訓練を積んでいます。それと、接客の重要性が理解できたので、自分らしい自然体で接することを心がけています。
*
以上でインタビューのご紹介を終わりますが、最後に、読んでいて感心したことなどをご紹介いたします。
・一流の美容師・理容師になると、お客さんが店に入ってきた瞬間に仕上がりのイメージまで見えるのだそうです。それは、練習の積み重ねによって身についた感覚だそうで、たゆまない努力がそのレベルに押し上げるのだと思います。
・美容師や理容師は一日中立ちっぱなしの仕事ですし、営業が終わったあとも夜遅くまで練習することが多いので、それに耐えうる健康な体が不可欠の条件だといいます。加えて、精神力や忍耐力も要求されます。高い技術を発揮するためには自己管理に努める姿勢が肝心なようです。
・美的センスを磨くことも重要な要素です。お客様をいかに美しくしてあげれるか、がリピートになっていただけるポイントだからです。そのため、感性を磨くために、休みの日には心に響く音楽を聴いたり、美術館へ行って絵画や彫刻を鑑賞してみることも必要なようです。
・新しい情報に敏感であることも重要です。薬品や器具などは目覚ましい勢いで開発・改良されていますし、それを使いこなす技術が常に求められます。積極的な情報収集と技術習得が欠かせないのです。一流となるためにも、更に、一流になったあとも、貪欲であり続けなければならないのです。
*
この本は美容師や理容師を目指す人に向けられた本ですが、それだけでなく、現役でバリバリ活躍している方にも参考になると思いますし、客として美容室や理容室を利用している私たちにも気付きを与えてくれる本だと思います。美容師さんや理容師さんのことをより深く知ることにより、次回からの会話が今まで以上に弾むのではないでしょうか。今回は骨子のご紹介しかできませんでしたが、ご興味のある方はぜひ手に取って読んでみてください。
✧ ✧ ✧ ✧ ✧ ✧ ✧ ✧ ✧ ✧ ✧ ✧ ✧ ✧ ✧ ✧ ✧ ✧
作者のご紹介をします。(本の最後の作者紹介ページなどから抜粋)
大岳美帆さん…フリーライター・編集者。編集プロダクション勤務を経て独立し、社史やホリスティック医療系の会報をメインに執筆されています。著書に『ペットの冠婚葬祭まるごと便利帳』などがあります。
木村由香里さん…フリーライター・編集者。出版社勤務を経て独立し、主に旅行誌や書籍、企業の広報誌をメインに編集や執筆をされています。共著書に『ライターになるには』があります。また、翻訳を数多く手がけています。
✧ ✧ ✧ ✧ ✧ ✧ ✧ ✧ ✧ ✧ ✧ ✧ ✧ ✧ ✧ ✧ ✧ ✧
心に沁みる物語、
救ってくれた言葉、
ヒントを与えてくれたビジネスワード、
心を豊かにしてくれる写真と絵と文章、
そんな綺羅星のようなエッセンスが詰まった、
有名ではないけれどグッとくる本がいっぱいあります。
そんな素敵な本をこれからもご紹介してまいります。
✧ 光り輝く未来 ✧
✧ ✧ ✧ ✧ ✧ ✧ ✧ ✧ ✧ ✧ ✧ ✧ ✧ ✧ ✧ ✧ ✧ ✧
【公開中の小説のご案内】
下記の小説を公開中ですので、併せてお楽しみいただければ幸いです。
『天空の美容室』~あなたと出会って人生が変わった~《連載中》
『真夜中のディスクジョッキー』~人生の選択肢~《連載中》
『ブレッド』~ニューヨークとフィレンツェとパンと恋とハッピーエンド~《以下、完結》
『人生ランランラン』~妻と奏でるラブソング~
『後姿のピアニスト』~辛くて、切なくて、でも、明日への希望に満ちていた~
『平和の子、ミール』~ウクライナに希望の夢を!~
『46億年の記憶』~命、それは奇跡の旅路~
『夢列車の旅人』~過去へ、未来へ、希望に向かって~
『世界一の物語‼』~人生を成功に導くサクセス・ファンタジー~
『ブーツに恋して』~女性用ブーツに魅せられた青年の変身ラブストーリー~
✧ ✧ ✧ ✧ ✧ ✧ ✧ ✧ ✧ ✧ ✧ ✧ ✧ ✧ ✧ ✧ ✧ ✧