第5回『チーズはどこへ消えた?』 (スペンサー・ジョンソン著、門田美鈴訳:扶桑社)
タイトルに惹かれました。
どういうこと? と思ってしまいました。
とても興味が湧いたのです。
加えて、表紙のイラストがユニークです。
黄色のチーズの穴ぼこの中にサラリーマンらしき男性が立っているのです。
そのイラストは裏表紙にまで続いており、2匹のネズミが顔を出しています。
そして裏表紙には、「この物語に登場するのは……、ネズミのスニッフとスカリー、小人のヘムとホー。2匹と2人は「迷路」の中に住み、チーズを探します。チーズとは、私たちが人生で求めるもの、つまり、仕事、家族、財産、健康、精神的な安定……等々の象徴。迷路とは、チーズを追い求める場所、つまり、会社、地域社会、家庭……等々の象徴です。この一見シンプルな物語には、状況の急激な変化にいかに対応すべきかを説く、深い内容が込められているのです」と書かれています。
ページをめくると、A・J・クローニンの言葉が紹介されています。
「人生は、自由になんの邪魔者もなく歩めるような、まっすぐで楽な廊下ではなく、通る者にとっては迷路で、自分で道を見つけなければならず、道に迷い、わけがわからなくなり、ときには袋小路に突き当たることもある。しかし、信念があれば、必ずや道は開ける。思っていたような道ではないかもしれないが、やがては、よかったとわかる道が」
まったくその通りですね。特に、日常と違うことに遭遇してしまうと、右往左往して、でも答えが見つからなくて、そのうち行動するのを諦めて、誰かが、何かが助けてくれるのをひたすら待ち続ける……そんな受け身になってしまっている自分に気づいて落ち込んで、暗闇の中で頭を抱えて、自分は最低だと思って……そんなことを繰り返している自分が益々嫌になって……、
でも、信念さえあれば、行動する勇気さえあれば、もがいた先に光が見えてくるような気がします。
「朝の来ない夜はない」
「春の来ない冬はない」
大切なのは、それを信じることができるかどうかではないでしょうか。
それでは、前置きはこのくらいにして、2匹のネズミと2人の小人が急激な変化にどう対応していくのか、読み進めたいと思います。
*
初めに、この本の構成についてご紹介します。
3部構成となっています。
1部:かつてクラスメートだった人たちが数名集まって昼食をとっている場面。
2部:2匹のネズミと2人の小人の物語。
3部:再びクラスメートたちが集まって話し合う場面
*
「人生って、高校の時、思っていたようにはいかないものね。まったく違うものになってしまって」という会話から始まります。
そして、「状況の変化についていけない」「変化に合わせて自分を変えるのが怖い」という話になり、「どうすればいいのかわからない」という発言に至りますが、その時、一人の男性が面白い物語のことを話し始めます。
「その物語のおかげで、変化に対する見方が変わったんだ。変化とは、何かを失うことだと思っていたのが、何かを得ることなんだ、とね。そのためにどうすればいいかということも教えられたよ。それで、たちまち物事がうまくいくようになったんだ。仕事でも、生活でも」
すると、全員が興味を示し、その物語を聞かせて欲しいとせがみます。
男性は「いいよ」と頷いて、話し始めます。
*
『チーズはどこへ消えた?』
昔、ある遠い所に、2匹のネズミと2人の小人が住んでいました。
彼らはいつも迷路でチーズを探し回っていました。
食料にするためと、幸せになるためです。
2匹のネズミは「スニッフ」と「スカリー」、2人の小人は「ヘム」と「ホー」という名前でした。
彼らがチーズを探している迷路は、いくつもの通路と部屋からなる迷宮で、どこかに美味しいチーズがあります。
でも、暗がりや袋小路があって、すぐに道に迷ってしまいます。
そんなある日、2匹と2人はチーズ・ステーションCの通路の端で好みのチーズを発見しました。しかも、たくさんあったので、これで安泰と安心しきりました。そして、その近くに引っ越して、新たな生活を楽しむようになりました。
ところが、ある朝、2匹がそこへ行ってみると、チーズがなくなっていました。それは薄々気づいていたことでしたが、ついに自分達が食べ尽くしてしまったことを悟ったのです。
その途端、彼らは行動を起こしました。新たなチーズを探しに出かけたのです。
一方、少し遅れて小人の2人もチーズ・ステーションCへやってきましたが、チーズがないことに直面して、呆然としました。昨日まであったチーズがいきなりゼロになったことが信じられなかったのです。思わず大きな声を出してしまいました。
「チーズはどこへ消えた?」
「こんなことがあっていいわけがない」
顔を紅潮させますが、ないものはないのです。部屋の隅々まで探しましたが、どこにもありません。意気消沈した2人はすきっ腹を抱えて家に帰るしかありませんでした。
それでも、翌日になると、もしかしたらチーズがあるのではないかと期待してチーズ・ステーションCへ向かいます。
でも、ありません。事態は好転していないのです。2人は途方にくれますが、「どうしてこんな目に合うんだ!」と誰かのせいにします。
それでも2匹のネズミがいないことに気づいたホーが、「彼らが何かを知っているのではないか」と突破口を見つけようとしますが、ヘムは嘲笑います。「あいつらはただのネズミじゃないか」と。それよりも原因の分析が大事だと主張して、あれこれ思いめぐらすばかりで、行動を起こそうとはしませんでした。
その頃、2匹のネズミは迷路の奥まで入り込んで、行ったり来たりしながら、新しいチーズを探そうと懸命に走り回っていました。
それでもすぐには見つかりませんでしたが、チーズ・ステーションNに辿り着いた時、信じられないくらいの大量のチーズを見つけて、歓声を上げました。もう食べ物の心配をしなくていいからです。
一方、2人の小人は相変わらずチーズ・ステーションCにとどまって分析を繰り返していました。でも、どんなに分析をしても解決の糸口は見つけられず、それどことか不安は増すばかりで、失望は大きくなり、腹を立て、遂には互いに相手を詰り始めました。
そんな状態が続きますが、このままではいけない、とホーは危機感を覚え、ステーションCを出ていく決断をします。そして、現状維持に拘って動こうとしないヘムを置いて、迷路に足を踏み出します。「変わらなければ破滅することになる」という危機感が彼を後押ししたのです。
それから何日も探し続けましたが、小さなチーズを見つけることはあっても、それ以上のものを見つけることはできませんでした。ヘムが言うようにじっとしていた方がよかったのではないかと後悔します。
でも、その考えはすぐに改めます。「何もしないより行動する方がいい」と思い直すのです。恐怖に縛られてじっとしていても何も解決しないからです。
更に、「人が恐れている事態は、実際は想像するほど悪くない。それより、自分の心の中につくり上げている恐怖の方が、現実よりずっと酷い」と思うようになります。
そうなのです。恐怖と心配は心の中で勝手に成長して、あり得ないほど大きくなってしまうのです。実際にはたいしたことは起こらないのですが、心の中で悲劇を作ってしまうのです。
ホーは自らに言い聞かせます。「考えが変われば行動が変わる」「過去を捨てることができれば変化に対応できる」と。
彼は心の中の恐怖に打ち勝ち、ものすごいスピードで迷路を進んでいきました。すると、ステーションNへ到達することができました。2匹のネズミがいる、チーズがたっぷりある場所です。彼は正しい判断をして、正しい結果を導き出したのです。
チーズをいっぱい食べてお腹が大きくなったホーは今までのことを振り返ります。
「最大の障害は自分自身の中にあった」
「自分が変わらなければものごとは好転しない」
「変化に早く適応しなければならない。遅れれば、適応できなくなるかもしれない」
「ものごとを単純に考え、柔軟な態度で、素早く動かなければならない」
「変化は災難に見えるかもしれない。でも、結局は天の恵みだった。より良いチーズを見つけるように仕向けてくれたのだから」
そして、学んだことを活かして、現状に甘えることを戒めました。新しいエリアを探索し始めたのです。ステーションNのチーズがなくなった時、慌てなくていいように、できることは何でもしておきたかったからです。
そんなある日、外の迷路で何かが動く音が聞こえました。その音は少しずつ大きくなってきて、誰かが近づいてきているように感じでした。
ヘムでしょうか?
ホーはそうであることを祈りながら待ち続けます。
*
以上で物語は終わりですが、クラスメートたちは再び集まって、この物語の感想と自らの経験を話し始めます。
「僕はヘムだった」
仕事を首になった男性が語り始めます。
「自分がそんな仕打ちを受けるはずはないと思っていた。だから動揺した。でも、新しいチーズを探しに行こうとはしなかった。予期せぬ変化に対応できなかったんだ」
すると、女性の声が続きました。百科事典を訪問販売している女性でした。ある日、変化の予兆に気づいた同僚がこう言ったそうです。
「百科事典のすべての情報を1枚のディスクに入れて、今よりも安く販売すべきだ」
しかし、誰も賛成しませんでした。安くすれば手数料の稼ぎが少なくなるからです。それに、今までうまくいっていたのだから、将来も大丈夫だと思っていたのです。
でも、違っていました。大きくてかさばる百科事典を売るビジネスは急速に萎んでいったのです。
「チーズには寿命があり、いつかは消えてしまうのです」
彼女は退職を考えていると言います。
現状維持を望んでいる人は、何かが変わることは自分にとって不利だと思ってしまいます。なので、いざ変化が起こった時にそれに対応できません。そればかりか、強固に抵抗してしまいます。
でも、結局は変化に取り残され、「昔は良かった」と嘆くことになります。新しい道を見つけられない彼らは失望の中で生きることになるのです。
自分はどちらでしょうか?
変化に抵抗する人でしょうか?
変化を受け入れる人でしょうか?
古いチーズを懐かしんでばかりいる人でしょうか?
新しいチーズを探しに行く人でしょうか?
よく考えてみる必要がありそうです。
それでは、最後に、まとめとして7つのキーワードをご紹介します。
①変化は起こる
②変化を予期せよ
③変化を探知せよ
④変化に素早く適応せよ
⑤変わろう
⑥変化を楽しもう!
⑦進んですばやく変わり、再びそれを楽しもう
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この本は2000年11月の発売で、四半世紀ほど前ということもあり、時代背景は今と違います。それでも、紙がデジタルに変わっていき、アップルのipodが翌年の1月に発売されてソニーのウォークマンを駆逐していくという技術革新が起こった激動の時代でもありました。
どんな時代であっても古いものは新しいものに淘汰され、姿を消していく運命にあります。
つまり、変化はいつの時代にも起こり、絶えず人々の生活に影響を与えていくのです。
ですので、私たちは変化というものにもっと敏感になる必要があります。
変化の波に乗っていくのか、それとも取り残されてしまうのか、
積極的に参加するのか、それとも傍観するのか、
常に選択肢を突き付けられていくのだと思います。
ダーウィンの有名な言葉があります。
「最も強い者が生き残るのではなく、最も賢い者が生き残るのでもなく、唯一、生き残る者は変化できる者である」
これからも変化は続きます。それも、そのスピードはどんどん速くなっていきます。日本が、世界が、目まぐるしく変わっていく今の時代に、『変化適応』はますます重要なキーワードになっていくと思います。今回ご紹介したことが少しでもお役に立てれば幸いです。
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作者のスペンサー・ジョンソンさんのご紹介をします。(本の最後の作者紹介ページなどから抜粋)
医学博士であり心理学者です。心臓のペースメーカー開発にも携わり、さまざまな大学や研究機関の顧問を務め、シンクタンクに参加しています。その一方、著作活動を続けていて、主な著書に『1分間マネジャー』があります。
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心に沁みる物語、
救ってくれた言葉、
ヒントを与えてくれたビジネスワード、
心を豊かにしてくれる写真と絵と文章、
そんな綺羅星のようなエッセンスが詰まった、
有名ではないけれどグッとくる本がいっぱいあります。
そんな素敵な本をこれからもご紹介してまいります。
✧ 光り輝く未来 ✧
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