第4回『アルケミスト』 (パウロ・コエーリョ著、平尾香画、山川紘矢+山川亜希子訳:角川書店)
新聞広告に目が止まりました。
『世界1億部‼ 20世紀最大級の超ベストセラー』
そして、キーワードも。
「自分の運命は自分で決められる」
「すべての人にはその人を待つ宝物がある」
そこまで言われたら読んでみるしかないですよね。
早速、手に取ってみました。
*
『愛蔵版 アルケミスト』と表記されています。
表紙には神秘的な絵が描かれています。
遠くにピラミッドが見え、手前には太陽があり、ピラミッドに引き寄せられるように人が二人、風に乗って向かっているようです。
ページをめくると、少年でしょうか、長い髪を風になびかせた絵が現れます。
その目は何かを強く見つめているように見えます。
更にページをめくると、著者による「刊行に寄せて」という文章が出てきます。
そこには、羊飼いをしているサンチャゴという少年が主人公であり、運命というテーマに沿って旅をする物語だということが紹介されています。
では、主人公のサンチャゴにはどんな運命が待ち受けているのでしょうか?
その前に、アルケミストの意味をご紹介しておきます。
錬金術師という意味だそうです。鉛などから金を創り出す術を持つ人のことです。
これを頭に入れて、読み進めていきたいと思います。
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スペインのアンダルシア地方で羊飼いをしているサンチャゴは、薄暗くなる頃、見捨てられたような教会に辿り着きました。屋根はずっと昔に朽ち果てた様子で、かつて祭壇だった場所には1本の大きなイチジクの木が生えていました。
そこで一夜を過ごすことを決めたサンチャゴは夢を見ます。
それは1週間前に見た夢と同じ夢でした。
小さな子にエジプトのピラミッドへ連れていかれて、「あなたがここに来れば隠された宝物を発見できるよ」と告げられる夢です。
しかし、正確な場所を教えてくれようとした時、目が覚めてしまいます。
それは2回とも同じでした。
サンチャゴはその場所を知りたくて、〈夢を解釈してくれる老女〉を訪ねます。
しかし、明確な答えは返ってきませんでした。
「人生では簡単に見えるものが実は最も非凡なんだよ。賢い人間だけがそれを理解できるのさ」と、それがさも重要ように言われましたが、心にすっと入ってはきませんでした。
それでガッカリしたサンチャゴはもう二度と夢は信じないことにしようと決めました。
そして、本を読み始めます。
すると、見知らぬ老人が話しかけてきます。
本に没頭したいサンチャゴは邪険に扱いますが、その老人がセイラム(エルサレム)の王様であることを知り、更に、特別な力を持っていることを理解すると、態度を改め、彼の話を真剣に聞くようになります。
王様はサンチャゴに語り掛けます。
それは、『大いなる魂』についてでした。
そして、『前兆』の重要性についてでした。
サンチャゴはほとんど理解できませんでした。
それに、夢がなんらかの前兆だとしても、羊飼いを辞めて旅に出ることがいいのかどうかまったくわかりませんでした。
それでも宝物の夢を諦めきれず、迷いながらも旅に出ることを選択します。
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サンチャゴはさっそく羊を売り、そのお金で海を渡りました。
ピラミッドがあるアフリカへ旅立ったのです。
しかし、初めて会った人を信用したばかりに全財産を奪われてしまいます。
まったく理解できない現地語(アラビア語)ではなく、スペイン語で親切そうに話しかけてきた人に心を許してしまったのが原因でした。
サンチャゴは思い切り落ち込みますが、それでも、「お前が何かを望めば、宇宙のすべてが協力して、それを実現するように助けてくれるよ」という王様の言葉を思い出して、気持ちを切り替えます。
そして、「僕は宝物を探している冒険家なんだ」と自分に言い聞かせます。
次の日、歩いていると、クリスタル製品を扱う店の前を通りかかります。
すると、スペイン語が通じる店であることがわかり、店主に仕事をさせて欲しいとお願いをします。
無一文な上にお腹が減っていたので必死でした。
幸運にもその願いは叶えられ、その店で働けるようになったサンチャゴは、店が繁盛するように色々な工夫や提案をします。
先ずやったのは、製品を磨いてピカピカにすることでした。
その次は、陳列ケースを作って製品が目立つようにしました。
更に、クリスタルに入れたお茶を売り始めました。
モノを売るのではなく、それを使うシーンを売ったのです。
すると、クチコミが広がって客がどんどん増え、店は繁盛するようになります。
当然のことながら店主は大いに気を良くし、褒美としてサンチャゴに大金を渡します。
120頭の羊と、帰りの切符と、アフリカの物品を自国に輸入する免許を買うために十分なお金でした。
しかし、サンチャゴは故郷には帰りませんでした。
「夢見ることをやめてはいけないよ」「前兆に従っていきなさい」という王様の言葉に後押しされたからです。
サンチャゴはラクダを買い、キャラバンと共に砂漠を超える決心をしました。
*
キャラバンは昼も夜も旅を続け、やっとのことでオアシスに辿り着きました。
そこには、5万本のヤシの木と300の井戸がありました。
それだけでなく、運命の女性と巡り合うという幸運に恵まれました。
サンチャゴは彼女に思いを打ち明けます。
ずっと一緒に居たいと。
しかし、愛を受け入れてくれた彼女でしたが、サンチャゴがオアシスにとどまることは望みませんでした。
砂漠の女は男の帰りを待つのが宿命だと信じていたからです。
「私は砂漠の女です。そして私はそれを誇りに感じます。私は自分の夫には砂丘を作る風のように自由に歩き回って欲しいのです」
彼女の言うことを理解したいサンチャゴは、砂漠に出て、砂漠の声を聞こうとしました。
すると、二羽の鷹が空高く飛ぶのが目に入りました。
それは何かの知らせのように感じました。
その翌日、満月に照らされて歩いていると、突然、雷のような音がして、突風に吹き飛ばされ、地面に叩きつけられました。
動転していると、馬にまたがった黒ずくめの服を着た男がサンチャゴを見つめていました。
彼は錬金術師でした。
前兆があって、サンチャゴが助けを求めてくることを知っていたと言いました。
そして、驚くことを口にしたのです。
「人が本当に何かを望む時、全宇宙が協力して、夢が実現するのを助けるのだ」
それは王様が言ったこととまったく同じでした。
サンチャゴは理解しました。
自分の運命に向かうために、もう一人の人物が助けに現れたことを知ったのです。
サンチャゴはラクダを売り、馬を買いました。
*
翌々日、サンチャゴは錬金術師と共に旅に出ました。
ピラミッドを目指す旅が再び始まったのです。
オアシスを旅立ってから7日目、錬金術師は「お前の心に耳を傾けるのだ。心はすべてを知っている。それは大いなる魂から来て、いつか、そこへ戻ってゆくものだからだ」と説きました。
しかし、理解できませんでした。
それで、その意味を質問すると、「お前の心があるところが宝物を見つける場所だからだ」と再び説かれました。
サンチャゴは自らの心と対話を始めました。
*
太陽が沈もうとしていた時、突然、サンチャゴの心が危険を知らせました。
すると5分後、馬に乗った男が2人現れ、その数はすぐに100人になりました。
彼らの野営地に連れて行かれたサンチャゴと錬金術時はスパイの容疑をかけられて絶体絶命のピンチに追い詰められます。
しかし、錬金術師の機転により3日間の猶予が与えられることになります。
それでも、錬金術師が彼らに約束したことは不可能としか思えないものでした。
「サンチャゴが風になってこの野営地を破壊する」と言ったからです。
それを3日以内にやって見せると言ったのです。
サンチャゴは困惑しました。
どうすれば風になれるのかまったくわからなかったからです。
*
1日が過ぎました。
何も起こりませんでした。
2日目になりました。
サンチャゴは砂漠を見つめながら、自分の心に耳を傾け続けました。
すると、砂漠が何かを感じていることがわかるようになりました。
3日目、砂漠がサンチャゴに話しかけてきました。
「何が欲しいのか」と。
サンチャゴは答えました。
「自分を風に変える術を教えて欲しい」と。
砂漠は返事をしませんでした。
それでもしばらくして、「風の助けを求めなければならない」と言いました。
すると、そよ風が吹き始めました。
サンチャゴは「助けてください」と風にすがりました。
しかし、風は「お前は風にはなれない」と冷たく突き放しました。
それでもサンチャゴは諦めませんでした。
「ちょっとの間でもいいから風になる方法を教えてください」と頼み込んだのです。
「太陽に訊きなさい」
それが風の返事でした。
すぐさまサンチャゴは太陽に話しかけました。
風になる方法を教えて欲しいと。
しかし、太陽の返事は砂漠や風と同じでした。
知らないというのです。
それでもヒントを与えてくれました。
「すべてを書いた手と話してみなさい」と。
サンチャゴは『すべてを書いた手』の方に向き直りました。
すると、宇宙がしんと静まるのを感じました。
それでサンチャゴは何も語ってはならないことを悟りました。
沈黙を続けると、心から愛の流れがほとばしり出ました。
祈り始めると、より大きな意志がすべてを動かしていることを悟りました。
そして遂に大いなる魂に到達し、それが神の一部であることを知りました。
更に、神の魂はまたサンチャゴ自身の魂であることを知りました。
誰にも頼らずにサンチャゴ自身が奇跡を起こすことができると悟ったのです。
サンチャゴは、錬金術師が約束した通り野営地を破壊しました。
*
一連のことを見届けた錬金術師はサンチャゴに別れを告げました。
「ここから先は一人で行きなさい」と。
一人で砂漠を進んでいると、遂にピラミッドが現れました。
サンチャゴは涙を流して喜び、心が導いてくれた場所を掘り始めました。
しかし、一晩中掘り続けても、宝物は見つかりませんでした。
それでも掘り進めていると、見知らぬ男たちが近づいてきました。
彼らは強盗でした。
金目のものをすべて奪った上に、こっぴどく殴られて大けがをさせられたのです。
しかし、哀れに思ったのか、立ち去る前にリーダー格の男が近づいてきて、サンチャゴにつぶやきを残しました。
「俺もお前と同じ夢を見た。それはスペイン平原に行き、羊飼いと羊たちが眠る見捨てられた教会を探せという夢だった。その夢の中では、祭壇だった場所に一本のイチジクの木が生えていた。そのイチジクの根元を掘れば、そこに隠された宝物が見つかるだろうと俺は言われたのだ。しかし、同じ夢を何回も見たからといって、砂漠を横断するほど、俺は愚かではない」
そして、彼らは立ち去り、サンチャゴだけが残されました。
しかし、絶望も不安もありませんでした。
心には喜びが溢れていたからです。
宝物のありかを知ったサンチャゴは笑みを浮かべ、大いなる魂に感謝しました。
*
もうおわかりですね。
答えは最初に示されていたのです。
では、宝物とは何でしょうか?
文字通り宝石でしょうか?
それとも違うものでしょうか?
違うものだとすればなんでしょうか?
身近にある宝物……、
それは、もしかしたら家族かもしれません。
想いを寄せている人や友達かもしれません。
どうしても叶えたい夢かもしれませんし、夢中になっている音楽やスポーツかもしれません。
灯台下暗し、という言葉があります。
身近にあるものは気がつきにくいものです。
当たり前の存在であれば尚更です。
この物語は夢と勇気と冒険の物語ですが、同時に、気付きを与えてくれる物語でもあるような気がします。
故郷に戻って宝物を見つけたサンチャゴは、オアシスに残してきた愛しい人に向かって呟きます。
「僕はすぐに戻るよ、ファティマ」
*
物語を読みながら多くのことを学んだような気がします。
それは、なんとしても叶えたい明確な目標であり、自分を信じるという強い意志であり、すべてのものが語りかける前兆についてであり、勇気と行動力であり、愛する人の存在ではないかと思います。
・誰にも無限の可能性がある。(しかし、望まなければ可能性は消える)
・諦めなければ夢は叶う。(しかし、棚からぼた餅は落ちてこない)
・誰かが、何かが、必ず後押しをしてくれる。(必死になって努力を続けていれば)
・前兆〈幸運の女神の前髪〉を見逃すな。(通り過ぎたら前髪は掴めない)
自分を凡人と思うか、特別な人と思うかは各自の自由ですが、せっかく生まれてきたのだから、自分は特別な人なんだと思って夢を追い求めていければ、幸せな人生を送れるような気がします。いかがでしょうか。
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作者のパウロ・コエーリョさんのご紹介をします。(本の最後の作者紹介ページなどから抜粋)
1947年、ブラジルのリオデジャネイロで生まれています。世界中を旅したあとに音楽とジャーナリズムの世界に入りますが、その後、作家となり、初の著書『星の巡礼』を1987年に出版して注目を集めます。更に、1988年に出版した『アルケミスト』が世界中でベストセラーになり、その後も、世界を旅しながら精力的に執筆活動を続けています。また、「最も多くの言語に翻訳された存命の著者」としてギネス記録を持っており、2007年より国連の平和大使を務めています。
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心に沁みる物語、
救ってくれた言葉、
ヒントを与えてくれたビジネスワード、
心を豊かにしてくれる写真と絵と文章、
そんな綺羅星のようなエッセンスが詰まった、
有名ではないけれどグッとくる本がいっぱいあります。
そんな素敵な本をこれからもご紹介してまいります。
✧ 光り輝く未来 ✧
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