第11回『人を動かす[完全版]』②(D・カーネギー著、東条健一訳:新潮社)
第10回に続き、『人生を幸せに生きる極意』をご紹介いたします。
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『相手の欲しいものを考える』
あなたがセールスマンだとします。自社の製品やサービスをどうやって客に売り込みますか?
製品やサービスの優秀さを訴えますか?
他社との違いを訴えますか?
最新の機能を訴えますか?
それとも、リーズナブルだと訴えますか?
値引きしますと訴えますか?
それで客は関心を示すでしょうか?
買いたいというでしょうか?
財布からお金を出すでしょうか?
多分買わないと思います。何故なら、セールストークには関心がないからです。売りつけられるのが嫌だからです。
では、どうしたらいいでしょうか?
答えは『客の問題を解決する』です。客が抱えている問題(課題)を探り出して、それを解決してあげればいいのです。この製品やサービスを買えば、困っていることが解決することを示せばいいのです。
でも、ほとんどのセールスマンは売る意識が強すぎて、一方的なセールストークに終始します。製品やサービスの良さを訴え続けるだけなのです。テレビのコマーシャルを見ると、そのことがよくわかると思います。こんな宣伝で買う人がいるのだろうかと思ってしまいますよね。
カーネギーは言います。
『ほとんどのセールスマンは客の立場から物事を見ようとしません』
だからこそ、客の立場になって考え、提案するセールスマンが大きな成功を収めるのです。
GE〈ジェネラル・エレクトリック〉の会長だったオーウェン・ヤングはこう言っています。
「他人の立場に自分の身を置くことができる人や、彼らの気持ちを理解できる人は、どんな将来が待ち構えていようと(どんなに厳しい時代になろうと)決して心配する必要はない」
ここで、3歳の子供に対して父親が行ったセールストークをご紹介しましょう。
その子はやせています。きちんと食べてくれないからです。両親は心配してなんとか食べさそうとしますが、うまくいきません。叱っても、小言を言っても、効き目はありません。
それで、父親は考えました。どうすればいいかと。
考えた結果、今までとは反対のことをしようと思い立ちました。親の立場ではなく、子供の立場になってみることを思いついたのです。
子供は三輪車に乗って自宅の前を行ったり来たりするのが好きでした。ところが、数軒先に体の大きな悪党のような男の子が住んでいて、いつも自転車を取り上げられてしまいます。当然子供は泣きながら帰ってきて、母親に助けを求めます。それが毎日続いていました。
父親はそのことに思いが至ったのです。
その途端、ピンときました。子供は悪童に仕返しがしたいのではないかと。
そこで、「お母さんが作ってくれるものを食べれば、そのうちあいつに勝てるようになるよ」と仕向けました。体が大きくなれば悪童に勝てるようになると仄めかしたのです。
すると、どうでしょう。その日から何でも食べるようになりました。ほうれん草も、ザワークラウトも、塩サバも食べるようになったのです。
相手の欲しいものを探り当てて、それを提供する。
シンプルですけど、強力な威力を発揮する極意ではないでしょうか。
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『人は自分を称賛してくれる人を好む』
カーネギーは言います。
「強く関心を持てば、非常に忙しい人からでも、協力が得られます」
実際、彼は小説の創作講座を企画した時に、このことを経験します。有名で多忙な作家たちに講演を依頼したのですが、彼らは皆、快く引き受けてくれたのです。殺し文句は、『彼らの作品を称賛し、彼らの言葉に関心があり、成功の秘訣を教えて欲しい』という文言でした。
もちろん、この極意が効を奏するのは作家だけではありません。肉屋でもパン屋でも王様でも同じです。どんな人でも自分を称賛してくれる人を好きになるのです。
ローマ時代の喜劇作家、プブリリウス・シルスは言います。
「人間が他人に関心を持つのは、相手から興味を持たれた時だ」
これは紀元前100年に発せられた言葉です。つまり、この原則は遥か昔から変わっていないということです。
ここで、大手チェーン店に燃料を売り込んでいたナウル氏の話をご紹介します。
彼は10年もの間、売り込みを続けていましたが、ことごとく失敗していました。まったく相手にされないのです。そのうち腹が立ってきました。大手チェーン店を恨むようになったのです。
そのことを知ったカーネギーは、売り込みはやめて、相手の立場に立つことをアドバイスします。更に、それを実践させるために、討論会で大手チェーン店を擁護する役割を与えます。
恨みを募らせていたナウル氏でしたが、役割を果たすためには大手チェーン店の協力が必要なので、思い切って訪ねていきました。そして、対応してくれた重役に向かって、「討論会で勝つためにはあなたの協力が必要なので、ご援助をお願いします」と頭を下げました。
すると、どうでしょう。1分間だけのアポイントだったものが、1時間47分もの間、話し続けてくれたのです。その上、チェーン店協会についての本を執筆している別の重役を紹介してくれました。更に、会社を辞する時には「春にもう一度会いましょう。あなたに燃料を発注します」と告げられました。一度も売り込みをしなかったのに、売れたのです。称賛に勝るセールストークはないということですね。
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『人を動かす笑顔の力』
カーネギーは言います。
「行動は言葉より多くのことを伝えます。笑顔は『あなたが好きです。あなたのおかげで幸せです。会えて嬉しいです』ということを物語っています。犬が好かれるのも当然でしょう。私たちを見ると喜んで、自分の皮から抜け出すかと思うほど飛び跳ねてくれます。自然と、犬に会うのが楽しくなります」
株式仲買人ウィリアム・スタインハートは打ち明けます。
「結婚してから18年間、妻に笑顔を見せたことは滅多にないし、目が覚めてから仕事に出かけるまで声をかけたこともほとんどない。私ほど不機嫌な男はニューヨークにはいない。でも、カーネギー先生から1週間笑顔を見せ続けたらどうなるか試してみようと言われて、やってみることにした。妻に『おはよう』と笑顔で挨拶し、マンションのエレベーター係に『おはようございます』と笑顔で挨拶し、地下鉄の窓口でも笑顔を見せ、証券取引所でも笑顔で接した。不満や苦情を言いに来る人たちにも明るく接した。すると、皆が笑顔を返してくれた。それだけでなく、トラブルも解決しやすくなった。それで、相手を非難することをやめ、尊重と感謝を示すことにした。自分が欲しいものについて話すことをやめて、相手の視点に立とうと心掛けるようにした。その結果、人生に革命が起こった。別人になった私はより幸せになり、より豊かになり、友人にも恵まれた。こんなに素晴らしいことはない」
シェークスピアは述べています。
「物事には良いも悪いもない。考え方による」
そうです。明るく前向きに笑顔で接するか、それとも、しかめっ面で不愛想に接するか、で人生は変わるのです。
古代中国人はこう言ったそうです。
「笑顔になれないのなら、商売をするな」
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『相手の名前に関心を持つ』
鉄鋼王のアンドリュー・カーネギーの話です。彼は、ペンシルベニア鉄道に鋼鉄のレールを売り込もうとしていました。その時に取った行動が大きな成果を生むことになります。彼は巨大な製鉄所をピッツバーグに建設していたのですが、完成すると、『エドガー・トンプソン製鉄所』と名付けました。
どうしてこのような名前を付けたのでしょう?
なぜ自分の名前ではなく他人の名前を付けたのでしょう?
それは、ペンシルベニア鉄道の社長、エドガー・トンプソンに敬意を表する為でした。ここまでされたら、心が動かないわけはないですよね。当然のことながら、大きな受注を獲得したことは言うまでもありません。
まあ、これほどではなくても、自分の名前をちゃんと覚えてくれて、「本当に素晴らしい名前だ」と心から賞賛されれば、こんなに嬉しいことはないですよね。
それは、政治の世界でも重要なことであるようです。例えば、フランクリン・ルーズベルトは、人の名前を覚えることと相手に有用感を与えることが好意を得るためのもっとも単純かつ明確で重要な方法だということを知っていただけでなく、実行していたと言われています。「有権者の名前を覚えるのは、政治的手腕である。忘れれば忘れられる」という教訓もあるようですので、たとえ初対面であっても、しっかり頭に焼き付けることが肝要なようです。
人の名前をしっかり覚える。
それこそが成功への第一歩だと言えそうです。
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以上で第2回のご紹介を終わらせていただきますが、近日中に第3回を公開する予定です。楽しみにお待ちいただければ幸いです。
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