第10回『人を動かす[完全版]』①(D・カーネギー著、東条健一訳:新潮社)
今回ご紹介するのは、『人生を幸せに生きる極意』というべきものを惜しげもなく披露してくれる必読の本です。
私は数十年前にこの本を読み、その後も何度か読み返しましたが、久々に目を通してみると、愕然としました。この本から学んだことが何もできていなかったからです。でも、『人生はいつからでも遅くない』と思い直し、しっかりと読み直してみました。そして、もう一度この本から学び、自分を叩き直してみようと思いました。
ところで、この本は超が付くほどのベストセラーです。
全世界で3,000万部を超え、日本でも500万部を超えているそうです。
それも、発売から90年近く経つ現在も売れ続けているのですから、その凄さは並大抵のものではありません。
そういう例を見ない売り上げを誇る本ですし、極意がぎっしり詰まった本ですので、エッセンスをご紹介するだけでも膨大な量になります。とても1回ではご紹介できませんので、数回に分けてご紹介することをご理解いただければ幸いです。
先ず、著者をご紹介します。
D・カーネギーです。
彼は、1888年の冬、猛吹雪の中、アメリカのミズーリ州で生まれました。貧しい農家の次男として、小さな頃から家畜の世話や農作業など農場の過酷な仕事をこなしていましたが、そこに将来を感じることはできませんでした。
月日は経ち、大学を卒業した彼は職を転々としますが、興味も熱意も持てず、どれも長続きしません。販売成績で全米ナンバーワンになったこともありましたが、モノを売るという仕事が天職だとは思えなかったのです。
自分が本当にやりたいことはなんだろうか?
その答えは簡単には見つかりませんでしたが、ある時、〈売る〉ことではなく〈人に教える〉ことが最もやりたいことではないかということに気づきます。そこから彼の本当の人生が始まりました。
ビジネスマンに対する話し方講座を始めた彼は、その後、人間関係を良くするための技術の重要性に気づき、新聞や雑誌の記事、家庭裁判所の記録、古代の哲学者の著作、最新の心理学の本など、あらゆる文献を読み込んでいきます。
更に、経験豊富な調査員を雇って、1年半をかけて人間関係に関する有用な情報を徹底的に調べさせます。
加えて、アメリカ大統領や実業家、映画俳優など、多くの成功者と面談し、人間関係の技術を聞き出していきました。
それらすべてを材料にして、『人を動かす』という短時間の講演を始めました。それを続けているうちに更に多くの情報が集まり、それを小冊子にしました。それは単発では終わらず、シリーズ化したものとなり、遂には本としてまとめることができたのです。
著者は断言します。
「この本に記されたルールの数々は単なる理論や推測ではありません。魔法のように効果があります。信じられないかもしれませんが、この本の原則を運用することで、数多くの人々が人生に革命を起こしてきました」
さあ、それでは、『人生を幸せに生きる極意』がどんなものか、順番に見ていきましょう。
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『他人を変えるより、自分を変える』
誰かを責めたくなった時、あなたはどうしますか?
一方的にその人が悪いと決めつけて、感情のままに叱責しますか?
相手に誤りを認めさせて、それを正そうとしますか?
それとも、怒りの感情をぐっと抑えて、冷静に対応しますか?
相手の立場になって考えて、手を差し伸べますか?
カーネギーはこう言っています。
「人の誤りを正したり、非難したりしても、相手はほぼ間違いなく自己正当化しますから、却って逆恨みされるか、言い訳をされてしまいます」
そうです。非難は反感しか生まず、時によっては、死ぬまで恨まれ続けたりするのです。
人間は理性の動物ではありません。感情の動物なのです。偏見に満ち、自分を過信する動物なのです。誰に対しても屈服はしたくないのです。自分の過ちを認めたくはないのです。
アメリカ建国の父、ベンジャミン・フランクリンは言っています。
「私は人の欠点を指摘しない。人の長所だけを話題にする」
つまり、人のアラを探すのではなくて、良い所を探すように心がけるということです。
カーネギーは言います。
「非難する代わりに理解しましょう。(その人が失敗に至った)行動の理由を考えるのです」
そして、こうも言っています。
「批判や非難、文句を言うことはバカでもできます。実際、バカな人ほどそういうことをします」
頭が痛いですね。
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『人を動かす最大の秘密』
カーネギーは言います。
「人を思い通りに動かすたった一つの方法は、相手が欲しいものを与えることなのです」
では、人は何を求めるのでしょうか?
カーネギーは8項目を挙げています。
①健康(生命の維持)
②食事
③睡眠
④お金(お金で買えるもの)
⑤来世の幸せ
⑥性的満足
⑦子供の幸せ
⑧自己有用感
その中でも特に重要なものは何でしょうか?
精神分析の権威、フロイトはこう指摘しています。
①性欲
②名誉欲
①は本能であり、②は人間のみが持つ欲求です。
あのリンカーンは「誰しも賛辞を好む」と書きました。
そうです、人は誰でも、素直な感謝を望んでいますし、偽りのない称賛を待ち焦がれているのです。
でも、これらは滅多に手に入りません。だからこそ、手に入れた時の喜びは大きいのです。
USスチールの創業者、チャールズ・シュワブはこう言っています。
「人から最大の力を引き出す方法は、感謝と激励だ。上司からの批判ほど、人の熱意を潰すものは無い。私は誰も批判しない。人には働く意欲を与えるのが正しい。だから私は、褒めることには積極的だが、あら探しには消極的だ。心から評価し、惜しみなく称賛する」
富豪で有名なロックフェラーが人を扱う場合の第一の秘訣を教えてくれます。
「心から相手を尊重しなさい」
彼は、部下が失敗しても責めませんでした。失敗の中にも褒める点を探し、それを称賛したのです。
なかなかできることではありません。でも、だからこそ、成功者となれたのです。
但し、相手への称賛は心からのものでないとうまくいきません。お世辞は通用しないのです。何故なら、お世辞は口先から出ますが、称賛は心の中から出てくるからです。この二つはまったくの別物なのです。
相手を尊重し、相手の長所をよく見て、惜しみなく褒めたたえる。
それこそが、人を動かすキーワードのようです。
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『相手の視点から物事を見る』
詩人のエマーソンが面白い話を披露しています。
彼は息子と二人で子牛を納屋に入れようとしていました。
エマーソンが子牛を押し、息子が前から引っ張ります。
ところが、子牛は脚を踏ん張り、頑固にその場を動こうとしません。納屋には入りたくないのです。
ところが、それを見ていた家政婦がエマーソンと代わると、子牛は素直に納屋に入りました。
何故でしょうか?
彼女は自分の指を子牛の口の中に入れて、指を吸わせながら優しく納屋の中に導いたのです。
そうです、子牛の視点から物事を見て、子牛がしたいことをしてあげたのです。無理矢理従わそうとしたエマーソン親子とは大きな違いです。
この場合は子牛でしたが、では、自分の子供だったらどうでしょう?
同じようなことをしていないでしょうか?
むりやり親の理屈に従わせていないでしょうか?
あれやれ、これやれ、これはダメ、あれもダメ、何度言ったらわかるの、いい加減にしなさい……、気付いたらいつも怖い顔をして、叱り飛ばしているのではないでしょうか?
ここで一つの事例をご紹介します。この本の最後の方に書かれているものですが、この場面でご紹介するのがいいのではないかと思い、ご紹介することにしました。
W・リビングストン・ラーンドが『ピープルズ・ホーム・ジャーナル』誌の論説として発表したものです。タイトルは『お父さんは忘れていました』
ベッドで眠っている息子にお父さんが話しかけます。
数分前の言動に対しての後悔を吐露しているのです。
お父さんは常に息子に干渉していました。
顔を洗ったらちゃんとタオルで拭きなさい、
靴をきれいにしなさい、
食事のときにこぼしてはいけない、
噛まずに飲み込んではいけない、
テーブルの上に肘をつくな、
パンにバターを塗りすぎるな、
穴の開いた靴下を履くな、
もっと持ち物を大事にしろ、
それだけではありません。出かけようとした時に「いってらっしゃい」と手を振ってくれたのに、「背筋を伸ばせ」としかめっ面で言ったりしたのです。
そして、数分前、です。
息子がおどおどしながら書斎に入ってきました。
新聞を読んでいるのを中断されたお父さんはイライラして、「なんの用だ」と機嫌の悪い声を出してしまいました。
それなのに、息子は走り寄ってきて、両腕で抱きついて、キスをしてくれたのです。
その小さな腕は、涸れることのない愛に満ちていました。
でも、お父さんは息子が出ていくまで何もできませんでした。
自分は何をしていたのだろう?
そう思うと、新聞を持っていられなくなり、めまいがするほど不安になりました。息子はまだ子供なのに、小さな子供なのに、あら探しをして、しかりつけるばかりをしていたことに気づいたからです。
それは、愛していないからではなく、求めすぎていたからですが、子供に無理なことばかり言っていたのです。まだほんの子供なのに、甘えたい盛りなのに、大人としての言動を求めていたのです。それも、余りにたくさんのことを求めすぎていたのです。
なんてことをしたのだろう、
お父さんはベッドの横でひざまずきます。
そして、悔い改めます。
明日からお父さんは良いお父さんになります。
君と仲良くします。
君が苦しむ時はお父さんも苦しみます。
君が笑うときはお父さんも笑います。
うるさいことを言いそうになったら我慢します。
「この子はまだ小さいんだ」と繰り返し自分に言い聞かせます。
読んでいて胸が痛くなり、後悔が募ってきました。
同じ間違いをしていたからです。大人の尺度で子供を見ていたからです。良かれと思ってやっていたことが、子供を傷つけることになっていたなんて思いもしませんでした。
多くの人がそう感じるのではないでしょうか。親が小さな子供をしかっている場面をよく見かけますから、多くの人が同じ失敗をしているのではないかと思います。
それでも、後悔に沈み込む必要はありません。
気付いたら、すぐに改めればいいのです。
子供の目線になって、子供の立場になって、つまり、自分が子供だった時に戻って、どうして欲しいか考えればいいのです。
ガミガミ怒るうるさい親を卒業しましょう。
イライラして子供に当たり散らす親を卒業しましょう。
子供を褒めましょう。
子供を抱きしめましょう。
生まれてきてありがとうと言い続けましょう。
世界で一番大好きと言い続けましょう。
但し、子供はすぐに大きくなります。
なので、手遅れにならないうちに今すぐ始めなければなりません。
明日から、ではなく、今この時、から始めるのです。
子供の最大の味方になることを。
子供の最大の理解者になることを。
子供ファーストの親になることを。
そうすれば、子供は笑顔で返してくれるでしょう。
世界で一番かわいい笑顔で。
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以上で第1回のご紹介を終わらせていただきますが、近いうちに第2回をご案内する予定です。楽しみにお待ちいただければ幸いです。
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