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第83話 秀吉の気がかり

さても、日の本の大君、秀吉公、難波の地にて、金城こがねのしろを築かせ給ひしは、まこと碧空に輝き、天にも届かんばかりの威容なりけり。


されど、この黄金の大城、形を整え、日に日に高くそびえ立つほどに、秀吉公の胸中には、二つの焦りと、消えぬ気がかり、次第に募りける。


一つには、尾張の国主、織田信雄、秀吉公の立身出世を妬み、心中穏やかならずと聞こえしこと。まこと、信雄には、伊賀、伊勢、尾張の三ヶ国を賜りて、これに満足し、偏に秀吉公へ心服せんものと思い定めたれど、いかんせん、信雄が心、そうはならざりけり。


「思い上がりたるは秀吉こそ」と、信雄、ひそかに胸中に呟き、黄金の城の壮大なるを目の当たりにするに及びて、その不満、鬱々と心の底に澱みける。


さればこそ、去秋、安土の城を訪ねし折、秀吉公、「語らい申すことあり、上洛せよ」と伝えられしに、信雄、何の挨拶もせず、そそくさと長島へ帰り去りける。


「生意気なる信雄め、身の程知らぬわ」と、秀吉公、怒りを覚えられけれど、もう一つの懸念、これとはまた異なりき。


もう一つは、徳川家康のことなり。


この家康、北条の氏と盟約を結び、三河より遠江、駿河、さらには甲斐、信濃、関八州をも大同団結せしめ、日本の東方、盤石に固めんとする勢いなり。


秀吉公、天下を掌中に収めんと志しながら、この大障碍、見過ごすべきにあらず。


ましてや、家康の西隣に、智略浅く、しかも秀吉公に心服せざる信雄が居並びたるにおいては、家康これを籠絡し、堅く東方を結び固めんこと、火を見るよりも明らかなり。


かくして、尾張、伊勢、伊賀をも併せ、古の信孝と柴田の同盟など、児戯にも等しき大勢力、秀吉公に対する敵として現れんこと、疑いなかりけり。


――まこと、天下の行く末、いよいよ風雲急を告げる、かかる折なりけり。


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