表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
82/84

第82話 大坂城築城

されば時は、天正十一年八月のことにて候。

羽柴筑前守秀吉(47歳)、己が野心を築かむとて、摂津の地・大坂に、前代未聞の大城を築き始められける。


これぞ、かつて本願寺のあたりにて、浪士や坊主ら騒ぎを起こせし地なれど、今はすべて焼かれて灰となり、ただただ一人の成り上がり者が、天下の夢を地に刻まんとする始原の地となりにけり。


「城を築くならば、誰の目にも驚かすべし」

「奉行ども、急ぎ働け。数年の工を、数月に成せ」


秀吉の命、雷のごとく下りて、人夫は山より石を運び、堀を掘り、橋を架け、天守を高く積み上げたり。


その勢ひ、まこと凄まじく、天正十二年の新春には、すでに第一の工、成り上がりて、秀吉みずからこの城に移り住まわれたり。


さればこの金城、白き壁面には舞ふ鶴の絵を描かせ、屋根瓦には金箔を置き、内は金銀財宝を積み上げ、四方より集めたる南蛮渡りの舶来珍品、床に敷き、棚に飾りて、見るものすべてを眩ませり。


秀吉、この新城にて、京より下向の公卿らを招き入れ、「これが我が夢の証なり」と自ら案内し、誇らしげに語りぬ。


異国の宣教師どももまた、かつて世界一と謳はれし安土城すら、「もはや比較の価値もなし」と本国へ書き送りぬ。


その一人、ルイス・フロイス、

「羽柴の黄金城、地に築かれし楽園なり」と讃へたり。


この頃の秀吉、ただの武辺の士にあらず。

刀を捨てて筆を執り、馬を離れて茶を点じ、礼を知り、道を嗜み、ことさらに京の朝廷に心を寄せける。


官位は従四位下・筑前守、されど己が出自は下賤の者と深く知り、「成り上がりにて終はるべからず」と、日々心を砕きける。


さる程に、京の内裏にも声高く、「秀吉を以て天下を治めしむべし」と、二条関白・近衛大臣らも口を揃へて申すに至れり。


秀吉、夜更けの書斎にて筆を置き、ただ独り、灯を見つめて曰く。


「戦にて世を得るは易し。

 されど、世に残るは徳の力なり。

 我、この城を以て、武の後に礼を加えん」


あはれ、夢見るは天下、築かるるは城にあらず――

ひとりの男が、時代を超えて残らんとする、威と智との城なりける。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ