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第76話 清州会議

しかるに――

明智光秀、山崎の戦いにて討たれし後、天下は空白となり、織田の家中、ついに運命の分岐に立ちたり。


その年、天正十年の六月下旬、尾張の清州城に、織田の重臣ども集まりぬ。

いずれも信長の威光を受け、今やその残照の中に己が道を定めんとす。


ここに名を連ねしは、まず

 ―柴田修理亮勝家、

 ―丹羽五郎左衛門長秀、

 ―羽柴筑前守秀吉、

 ―池田恒興ら、

信長の代より槍を預かりし宿将どもなり。


加えて、御家の継ぎ目を見定めんと、信長の次男三七郎信雄、三男於次丸信孝、ならびに亡き嫡男・信忠の遺児にして、わずか三歳の**三法師さんほうし**もまた擁せられたり。


さてこの場において、問われしは――

「信長の後を継ぐは誰ぞや」

という一事なり。


柴田は申す、

「織田家の正統を保たんには、今こそ信孝公こそふさわし」


されど、秀吉はこれを遮りて曰く、

「信長公は、信忠様を嫡子とされ候。されば、その御嫡孫たる三法師様こそ、正統なる後継に候」

と、膝をつき、幼き君を堂の間へと連れ来たり。


三歳の童子、袴の裾に膝を引きずりながら、凛と顔を上げたり。

その幼き姿に、兵どもただちに頭を垂れぬ。

「信長公の面影ありや」

「三法師様こそ、家の柱よ」

と、声は自然と一つに合わさりたり。


かくて、清州の評定は決し、三法師を織田宗家の継嗣とし、丹羽・池田らを後見役に置き、その政務を秀吉が執るかたちにて、織田の政権は新たな形をなしたり。


されどこれを、快しとせぬ者二人あり。ひとりは織田信長三男・信孝卿、ひとりはその舅にして北陸の雄、柴田修理亮勝家なり。


信孝は、信忠亡き後、織田の嫡流たるを自任し、

「三法師の幼き御身に天下は任せがたし」

と、秀吉の擁立に強く抗ひたり。

しかも、その背後には、兵馬の備え厚き勝家の後ろ盾あり。


勝家、かねてより秀吉を下賤の出と侮り、

「主を討ちし逆臣・光秀を討てしとはいえ、羽柴が手に織田の命運を任すは耐え難し」

と、腹の内に鬱憤を募らせてゐたり。


また、信孝にとっても、長兄信忠亡き後、

「いよいよ我が世か」と思ひきや、秀吉が先手を打って三法師を奉じ、天下を窺ふに至りて、いかにも悔しさ骨に沁みし事とぞ。



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