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第58話 光秀の丹波攻略

一方、丹波の山中には、明智十兵衛光秀あり。


丹波の国氷上郡黒井の山に、波多野の一族ありけり。代々この地に根を下ろし、桓武の皇統を祖と伝え、武を磨きては地を治め、山川にその名をとどろかせたり。


されば、主は波多野秀治、弟に秀尚あり。彼らは黒井の城に居し、赤井悪右衛門直正らを味方に取り込み、丹波一円に勢力を張り、数多の国人衆を従えたり。


されば織田上総介信長、天下の大勢を握らんとして、丹波を平らげること、明智光秀に命じたり。


光秀、命を受くるや、まずは亀山に城を築き、福知山に陣を張り、冬の吹雪に耐え、夏の泥濘を踏み越えて、峻厳なる山路を分け入りしが――


丹波は「七つに城を構え、八つに道を断つ」と称される、難攻不落の地なり。嶮しき山々、霧深き谷間に、敵は城を構え、民は敵味方を定めず。


光秀、寒風に旗を揺らしつつも、兵糧を運び、道を拓き、兵の心を支えたり。然れども将の心、常に板ばさみにて苦しみたり。敵は強く、味方は少なし。


夜な夜な帳中にて、古地図を広げ、行く末を憂い、「我が道は果たして信長公の大望を成す一助たり得るか」と、灯火の下にひとり涙を落とすこともありき。


されど光秀、苦戦しながらも攻勢を緩めず、まずは八上城の波多野兄弟に書を送りて、降るを勧めたり。秀治・秀尚もこれに応じ、織田の旗下に加わりしこと、信長にとって大いなる喜びとなりぬ。


斯くして丹波に一筋の光差し、信長の東西支配の要たるこの地に、平定の第一歩を築きたり。

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