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第24話 足利義昭と朝倉義景

永禄八年五月のことなりけり。

室町将軍、足利義輝、三好義継・松永久秀がために御所にて討たれ給ひぬ。


弟なる覚慶法親王、時に二十八、興福寺にて法衣をまとい、世を避けておはしませど、三好の魔手すでに迫り来たりけり。


そこに、ひとりの男あり。細川藤孝と申す。

先には義輝公の近臣として仕え、忠節篤き士なりけり。


「殿、いまはとても猶予あらず。京を落たまえ。さすれば、再び日の昇る時もござろうぞ」


覚慶、しばし沈思の後に、静かにうなずき給ふ。

されば、二人、夜陰にまぎれ、山路を踏みて洛を落ちぬ。


かの藤孝、興福寺の僧衣を借り、覚慶を偽僧とし、山伏の姿となして京の町を抜けさせたり。

雨はしとしとと降り、道はぬかるみ、谷川の流れは絶えず。

食は尽き、水もなく、道に倒れんとするたび、藤孝は己が身を挺して殿を支え給ふ。


「これしきの困難、将軍家の再興のためと思えば、我が命なぞ惜しからず」


その声、あくまで静かに、しかして揺るぎなし。

覚慶、心に熱きものを覚え給ひぬ。


やがて近江の山間にいたり、寺にて一夜を明かしぬ。

粥一椀すすりつつ、覚慶問いて曰く、

「藤孝、なぜそなたはかくまでも我を守るのか」


藤孝、うち笑みて申されける。

「将軍義輝様は、私のすべてに候。その御弟にして、正統の御血を継ぎし覚慶様を、いかで見捨て申すべきや」


そして越前へ。白山を望みて峠を越え、ついに一乗谷に至る。


朝倉義景の城は山川に囲まれ、町は京に倣いて整えられ、文化の香り高く、まさに北陸の小京都と呼ばれし地にて候。


藤孝、門前にて深々と頭を垂れ、声高らかに申されける。


「朝倉義景公、足利義昭殿、御庇護を求め参上仕り候!」


義昭、手のひらをぎゅと握りしめ、瞳を閉じて深く息を吸う。

(ここが、再び我が幕府を築く地となるのか)


門は静かに開かれ、義景の家臣たち、丁重に迎え入れ申したり。


かくて、覚慶法親王、義昭と名を改め、朝倉の庇護を受けて世に再び立たんとし給ふ。

その傍らには、細川藤孝、片時も離れず、命をもってお仕えしける。


これぞ、忠臣の道なりけり。


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