表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/84

第18話 清州同盟

永禄四年――春のことにて候。


熊野詣と称して都より尾張へ戻りし織田上総介信長、南蛮筒四百挺を得て、その勢ひ、ますます加はりぬ。


その頃、三河国・岡崎にありては、松平元康、国の内を静めしのち、ひとつの決断に至りけり。


「――尾張へ、赴かん」


家臣ら、皆驚愕せり。


背を押したるは、他ならぬ竹之内宗玄――霊狐リクなり。


「殿、火というもの、遠きより眺むるよりも、近くに寄りて風の流れを知るが肝要にて候。尾張の焔、果たしてただ燃ゆるのみか、光となりて照らすや否や――見極め給ふ器は、殿にありと存じ奉る」


されど、その時来るには、なお月日を要せり。


桶狭間にて義元討死の後、織田と松平の間、敵か味方か、見えざる幕のごとき距離ありて、元康、家中を説くに時を費やせり。


されど、大いなる決断とは、常に火のそばに立ちてこそ、真の形を得るものなり。


かくて元康、わずかばかりの供を伴ひ、尾張・清洲の城へと向かいぬ。


城門にては、信長の家臣・木下藤吉郎、笑みをもて迎へたり。



---


清洲城・大広間。


障子越しに差し込む春の光、やわらかにして、二人の武士の影を照らせり。


ひとりは、炎のごとき武将――織田信長、齢二十八。 ひとりは、静けさに鋭さを秘めた剣――松平元康、齢十九。


家臣らは皆、遠巻きに控へ、広間の気配はまことに張り詰めたるものなり。


先に口を開きしは、信長なり。


「よくぞ参られた、元康。三河よりここまでの道、さぞや“覚悟”を要したであろう」


元康、かすかに笑みを浮かべて応ふ。


「殿ほどのことにてはござらぬ。桶狭間にて貴殿が義元公を討たれし時より、拙者もまた、世を測る覚悟を定め申した」


信長、その眼を細め、鋭く光らせて問ふ。


「今川の影、すでに消えし今、三河は自ら立つほかなし。して、これよりいづこを目指す」


元康、ひるむことなく答ふ。


「東は、この元康にお任せ下され。殿には、西を望まれ、この乱世を終わらせて下され」


信長、ふと口角を上げ、にこりと笑みて立ち上がりぬ。


そして、堂々と右の手を差し出して曰く、


「三河の松平、尾張の織田。今この時、“乱世を終わらせる”盟を結ばん」


元康、立ち上がりて、その手を迷ふことなく握りしめぬ。


かくて結ばれしは、後に「清洲同盟」と称せらるるものなり。


この握手こそは、後の本能寺の変、関ヶ原の戦、さらには江戸開府に至る道を切り拓く、“天下統一の骨格”となりしこと、誰しもその時は知る由なかりき。


さればこの時――


甲斐の武田信玄、齢四十一。

越後の上杉謙信、齢三十二。

相模の北条氏康、齢四十三。


まさに風雲、いまだ定まらぬ世にて、火と風と剣との交わり、いよいよ烈しき時代の幕を開けたり。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ