ぎぶみーばれんたいん後輩
いやぁ、二月十四日ですね! ハッハッハ、この日のために温めていたバレンタインネタですよ! さぁ、とくと……
え? 違う?
へ、へっへーんだ! エイプリルフールでしたー! 四月一日だもんねー! やーいやーい騙され……
え? 違う?
大変失礼致しました。元々は四月一日に投稿して「バレンタインですね!」と言い張るつもりだったバレンタインネタ、遅ればせながら投稿させて頂きます。変態抑え目となっておりますので、前二作を読んだ方はマイルドにお楽しみください。読んでいない方はとても意味が分からないと思いますので一作目から読むか、または理解を放棄して流し読むか、「適当に開いたら続き物かよ! もういいよ!」と迸る感情をぶつけてお帰りください。
それでは、始めさせて頂きます。
バレンタイン……それは熱き男の戦い、主に近くでいちゃらぶしてる奴らを笑顔でスルーする戦い!
バレンタイン……それは恋人の日々、いちゃらぶしてんじゃねーよ蹴っ飛ばすぞ。
と、そんな事を去年は思っていたが今年は違う。
今年、俺にはあてが二つある。一人は変態ドM、葉山。もう一人は変態ドS、八雲京。これによって貰えるのが「まるで本命であるかのように金と手間がかかった妹の義理チョコ」一つだけという涙を誘う展開だけは免れたが、問題は奴らがまともにチョコを渡してくるかという事だ。
レッツシミュレート! 葉山がチョコをくれると仮定して、それは果たしてどのような状況によるものなのか!
1、普通に渡す……だが中には痺れ薬とかが入っており、淫らへGO! な展開に!
2、チョコを渡そうとしたら落としちゃったぁ☆ みたいな振りして足へ溶けたチョコを! 舐められる展開に!
3、全身にチョコ塗りたくって「私を食・べ・て」というベッタベタな変態展開!
ふ、ふふふ……完璧だ。俺のシミュレートは完璧だ。とりあえずあいつの性格からして1はまずないとして、2か3だな。2はまぁとりあえず対応のしようがある、いつものあいつとそう変わらない。なので問題があるとしたら3だ……さぁ来い! 「私を食べて」などには屈さんぞ!
~当日~
「たらふくチョコを食べてきましたので、今の私は頭のてっぺんから足の先まで全身これチョコの塊! さぁ、物理的に私を食・べ・て?」
「それは流石に予想外だわ」
閑話休題。
ただいま2月14日。俺の家の二階には今日も今日とて不法侵入してきた葉山が居る。今日は休日で、奈緒と一緒にゆっくり過ごす予定だったのに。強化ガラスがいとも簡単に突破されてしまった。
それというのも……
「ふふふ、『窓ガラスをチョコレートにする魔法』、バレンタイン限定で成功」
感情を写さない瞳で口端をつり上げている八雲京のせいだ。怖ぇよ、お前は。
そんなこんなで、寝起きな俺の目の前には私服姿の二人が居る。葉山の私服は見慣れているけど(ちなみに劇的に意外な事に服は普通だった。センスがいいというほどではないけど)、八雲京のを見るのは初めてだ。まぁ、ワンピースというやつなんですけれども。草原とかに居れば似合うかもしれないねうん。
「そんなこんなで、お前等こんな朝っぱらからどうしたんだよ?」
「それは愚問というもの、先輩」
と、言葉を返したのは葉山と同じクラスに転入してきて、俺の事を先輩と呼ぶようになった八雲京。俺から魔王を引っぺがしに来た刺客だったが、俺に惚れてそれはやめる事にしたらしい。しかもノリで転校してきたらしい。阿呆らしいが、葉山とはそれなりに上手くやれてるようで何よりだ。上手くやりすぎて現在こんな状況だけど。
さてはて、愚問と言われたがどうしたものか。やっぱチョコなのかチョコ渡しなのか。
「さぁ先輩、葉山と以下同文」
「え……もちろん受け入れるつもりはなかったけど、八雲京ちゃんも葉山ちゃんと同じって珍しい……なんで痛みを受け入れる側に?」
「三倍返しという行事があると聞いた」
なるほど、それはつまり俺に死ねという事か。
「というわけで、愛と血肉を受け取ってください」
「以下同文」
これはヤバイ、新しすぎて誰もついてこれない展開だ。なんとかまともな思考に戻してあげないと、この二人にそもそもまともな思考があるのかどうかは置いといて。
「二人とも! そんな事しても俺に愛は伝わらないぜ!?」
「え、私は先輩に痛めつけてもらえれば大体満足ですけど」
「先輩に嫌がらせできれば半分以上満足」
ガッデム! こいつらの愛は自分本位過ぎるのを忘れてた! く、くそぅ……一体どうすれば流血沙汰を免れるのだ!
「じー」
ちょっとだけ提案を受け入れて妥協させる……といういつもやってるやり方は今回使えねぇ。人肉なんて食えるか。
「じー」
どうしよう、どうしよう! ここで受け入れなければ今日一日ずっとこの調子だぞコイツラ!
「じー」
「……ところで、さっきからチョコ化した窓ガラスの隙間からわざとらしい声を出してる君は誰なのかな?」
「はっ!? 見つかった! おのれ、恐るべき慧眼!」
わからいでか。
とか思っていたが、葉山と八雲京は「いつの間に!?」みたいな動作で窓ガラスへと目を向けた。頼りにならねぇなぁ忍者と魔法使い!
「ふふふ、ふーっふっふっふっふっふ! バレてしまっては仕方ない! 私こそはってあれぇネチャネチャするドロドロするダレカタスケテ!」
なんか窓ガラスから上がりこもうとしたらしいが、チョコ化ガラスに引っ掛かって大分ドログチャになっていた。体中茶色くて、部屋に上がりこんだ今でもどんな奴かわからねぇ。体のラインからして女だとは思うけど。
「……ホワイトチョコの方が良かった、先輩?」
「君は俺を何だと思ってるのかな、八雲京ちゃん」
「そうですよ! 先輩はそんな擬似的なもので興奮するほどレベルの低い方じゃありません!」
どうすれば葉山を苦しめることが出来るのか、そろそろ解明しないと。こいつにはたまにオシオキが必要だ。
そんなこんなで、不審者三号(この二人も十分不審者だからね!)はチョコを舐め取ったりなんやかんやして悪戦苦闘しながら立ち上がった。
「わ、私こそは恋する乙女の味方! 日本の製菓業界の罠であるバレンタインの日に告白しちゃう女の子を応援する為に具現した二月十四日の化身! バレンタインさんだー!」
えー。
*
「なるほどなるほど、バレちゃんは精霊なんですね」
そんなわけで我が家のシャワーを使ったバレンタインの化身もといバレちゃんは普通に俺の部屋に座っていた。四人も居ると手狭だ。こいつら遠慮という言葉を早く覚えればいいのに。
「おうよ、精霊さー。恋する乙女の味方だぜー、じゃんじゃん告白成功させるぜー」
そんなバレは、見た目はただの女の子だった。ていうか、無個性な女の子だった。目を離すとすぐにどんな姿か忘れてしまいそうなほど無個性だった。服装は包装でも象っているのかやたらとリボンな感じだったから、それで見分けられるのだが。
で、精霊だってよハハハ。魔王が居るんだからもうそんくらい居てもいいよね。
「……恋する乙女というのは、私たち?」
「ハッ! まさか、まさかまさか今日こそ先輩に私の気持ちが届くのですかー!?」
で、バレに詰め寄る二人。もう発言内容とかは気にしないことにした。今の俺は客観的に物事を見る男だ。
「んー、いやー、私のレーダーにビンビン着てるのはお二人さんじゃなーい。ていうか二人とも想いは告げてるみたいだしな。私が応援するのは告白できずにいじいじもじもじしてるきゃわいい女の子だけだぜー」
「想いを告げられずに……」
「いじいじしてる……?」
二人がこっちに視線向けてきた。とりあえず首を横に振って「俺じゃない」の意思表示。ていうか女の子でもなければチョコも渡さねーよ。
でも、女の子? 今、この家に二人以外の女の子って……ハッ! まさか……くっ、迂闊だった! 俺が知らない間にそんな事態になっているなんて! 畜生オオオォォォ!
「あぁっ、先輩が座った状態から高速で立ち上がって駆け出した!」
「秒速20m……」
ドアを蹴り開け、辿り着いたのはダイニングキッチンな居間。そしてエプロンを着けた我が妹!
「誰だあああぁぁぁ! お前にはまだ早い! お兄ちゃんは許しません!!!」
「ひぃ、お兄ちゃん……!」
普段、あんまり怯えない奈緒が若干引いたような気はするが、きっと気のせいだ。それよりも、この家に居るもう一人の女の子――奈緒が誰かにチョコを上げて告白しようとしているだと!? くっ、最近の子供は早いとは聞いていたが、まさかしばらく葉山にかまけてる間にこのような事態に! まだだ、まだお前には早いんだ奈緒!
「せ、先輩……実はわりとシスコン……?」
「うるせえええぇぇぇ! 唯一の家族なんだよ! なんかもう、超大事なのは仕方ないだろ!」
父母が居ない今、奈緒が居なくなったら俺はどうすればいい! あと数年で「妊娠しましたー、出来ちゃった婚です♪」とかいってこの家から居なくなったらおれはどうすればいい! あぁ、畜生!
「まぁ、そんな先輩も素敵だと思いますが……ていうか、奈緒ちゃんとは限らないのでは?」
「そ、そうか! 近くってだけで隣の家とかそういう可能性だって十分に「感じるぜー、この家の一階部分からビンビン感じるぜー」駄目だああああぁぁぁぁ!」
ぐおおおぉぉぉう! こ、こうなれば……奴を、告白を成功させる精霊とやらを排除する!
「バレンタインをぶっ飛ばせ、葉山ちゃん、八雲京ちゃん! 俺が許可するっていうかお願いする!」
「えー、先輩、私たちは貴女の奴隷と言うわけではありませんよ?」
「以下同文」
「お前達はつくづく俺にとって都合の悪い存在だな!?」
葉山は「まぁ、首輪と焼印のオプション付きで『雌豚』呼ばわりしてくれるなら奴隷になっても構いませんけど」などと言ってたが、さすがにそれは無理だ。
そうこうしている内に、ラッピングフルなゴスロリバレンタインが一階へ降り立った。
「お兄ちゃん……あの女は誰? お兄ちゃんに付く悪い虫? 害虫なの?」
「あぁ、アイツは害虫だ……この家を崩壊させる、悪い悪い奴だ……あんな奴は追い出さないといけないよ……」
ふっふっふ……奈緒も理解してくれたようだ。奴は我が幸せな家庭を崩壊させる悪! 劣悪! 邪悪! 滅びるべし!
「に、似たもの兄妹……」
葉山の呟きは褒め言葉と受け取っておこう。
「行くぞ奈緒! 俺達の平和な日常の為に!」
「お兄ちゃんと生きる未来の為に!」
奈緒が何故だか常にポケットに入れて持ち歩いているカッターナイフの刃を限界まで伸ばし、バレンタインに襲い掛かった! ふ、常日頃からうっかり刺殺撲殺毒殺必殺を極めかけている奈緒に敵うと思うなよこの泥棒猫の先駆け!
「む……ビビビーッ! 感じるぜ感じるぜビンッビン来てんぜー。お前が恋する乙女だなぁ」
呑気よのぅ、おうバレンタインよ!? 一瞬後にはその身がズタズタになっている事も知らずになぁ? ふはははは、はっははははは!
「よっすー。お前の恋を応援に来たバレンタインの化身だぜー」
「お兄ちゃんこの人殺せない」
「嘘ぉ!?」
奈緒がどんな動きか、今にも刺さりそうだったカッターナイフをしまって俺の方に向き直った。高速で。
うぐぅ、何故だ! どうして皆、俺のいう事を聞いてくれない!
「奈緒! どうしてだ! そんなに好きな人と結ばれたいのか……お前には、俺が居るじゃないか! せめて、後もう少し待ってくれよ!」
「駄目……私は、お兄ちゃんが大好きだから! だから、誰にも盗られない内に……!」
「俺の事をそれだけ兄と認めてくれるなら、相手ぐらい教えてくれてもいいだろ!」
「お兄ちゃんが……おにいちゃんを愛してるのぉ!」
「だからそれは分かったから! 俺が聞いてるのは家族愛じゃないんだよ!」
奈緒も分からない奴だ……このままでは話が平行線だぞ。
「先輩……あそこまでいくと才能ですね」
「同感」
後輩ズがぶつぶつ言っているが、内容を気にしている場合では無い!
と、向き直った時――奈緒はバレンタインに後ろから抱きこまれる形となっていた。
「……まどっろっこしーいぞ、お前らー。恋する乙女最終プランを発令するぜー?」
いきなり最終プランだと!? 意味が分からない!
「な、何ィ! 恋する乙女最終プランですとぅ!?」
「知っているのか葉山ちゃん!」
「うむ! ……ではなく、はい! あれは女の子の恋する力、乙女力を引き出してなんかバーッとなって世界を滅ぼす要素となりえます!」
ほとんど何も分からない! 何も分からないけど世界が滅びるかもしれないそうだ、魔王とか目じゃないぐらいに意味わかんない。
「しかし、世界が崩壊するとなれば我々守護者協会の出番!」
「世界を破壊する要因を封じる事が使命……私はバイトだけど」
あ、そんな組織だったんだ守護者協会。
「と、とりあえずそういう事なら何か知らんけど頼んだ二人とも!」
僕の言葉が届くよりも早く、二人は飛び出した。先ほどの奈緒のように、殺意を持った攻撃がバレンタインを襲う。だがしかしこれも奈緒と同じように、二人の攻撃はバレンタインに届く事はなかった。
二人の拳が、バレンタインの顔面ギリギリで止められている。
「く……っ! 私には、私には出来ません! あんなに仲の良かったバレちゃんを倒すなんて……!」
え、出会って一時間も経ってませんけど。
「バレちゃん……春になったら、一緒にピクニックに行くって約束を……」
してたんですか、いつの間にしてたんですかお前等!
「ごめんなー、二人とも。これが私の使命なんだぜー」
対するバレンタインの顔も悲しげな微笑み、お前等いつの間に仲良くなってるんだよ。
しかしこれはマズイ、一体どうすればいいんだろう。このままだと世界滅ぶぞ、もうどうせなら俺が滅ぼしてやろうか出でよ魔王ナポリターン、あっはっは。
「バレンタインさん……」
そんな混乱の中――というか混乱してるのは俺一人なのかそうなのか――口を開いたのは奈緒だった。自分を抱き締めているバレンタインを見上げ、怖いぐらい一心に見つめ続けて。
「私、一人でも思いを告げてみせます」
その一言が効いたのか。バレンタインは急に意気消沈して、奈緒を抱き締めていた腕を解く。こうして、世界の危機は三分ぐらいで去った。
「そっか、そうなのかー。私、要らない? いらない子?」
「いいえ……あなたは、私の後押しをしてくれました」
それだけ呟いて、二人は離れる。何が何だか分からないが、二人の間でだけ通じる何かがあったらしい。
「お兄ちゃん……あと何年か、絶対に彼女作らないでね」
「へ? あぁ、うん……あ、それがお前が誰かに告白しない条件なんだな?」
「うん……お兄ちゃん、「家族」を裏切らないよね?」
その時、何故か奈緒の瞳が三日月型に歪み小首を傾げたその顔の陰影が濃くなったような気がするが気のせいだろう。意味もなく端の方でお互いを抱き締めながら震えている後輩ズを無視し、頷きを返す。
「あと一年でお兄ちゃんを「分からせてあげれば」いいだけだよね……」
「ん、何か言ったか奈緒ー?」
「なんにもー」
むう、俺には言えない女の子の事情と言うものがあるのだろうか。
「ふっふっふふふふふ! めでたしめでたし万々歳の大団円だなー!」
と、その時、ぶっちゃけ存在を忘れていたバレンタインが大きく声を上げた。見ると、その身体は透き通って幽霊みたいになっている。ハッハッハ、今さらその程度では驚かない。
「バレちゃん……もう、行ってしまうんですね」
「おう、どうやら私を構成している乙女力が尽きたようだなー」
え、そんな動力源だったんだお前。
「バレちゃん……」
「八雲京、そんな顔するなよー。チョコレートはバレンタインが過ぎたら溶けるのがサダメだぜー」
上手い事言ったつもりか。
「奈緒も頑張れよー。私に言ったからには絶対、いつか実現させるんだぜー?」
「うん……ありがとう、バレンタインさん……」
そしてバレンタインの姿はさらに薄くなっていく。これから消えるんだと、その事を表すように。
「ありがとう……!」
奈緒の言葉を最後まで聞き届けたのかどうか――かくしてバレンタインは、光の粒子になって消えた。
***
「わぁ……出すの、久しぶり」
「だな。去年は出さなかったからホコリが酷ぇや」
あの日からしばらく経ち、俺と奈緒は倉庫からあるモノを引っ張り出していた。ちなみに葉山ちゃんは「最近、私の影が薄い……?」とかメールしてきたけど来ませんでした。なんだったんだアレ。
で、出しているのは雛人形である。今日は三月三日なのだ。奈緒もまだまだこういう祝い事が必要な年頃だろうし、こうして俺が準備をしている。叔父さんはまだまだ帰ってこれそうにないし。
「よし、とりあえず適当に掃除してから並べるか」
「うん……」
しかし数年彼女は作るな、か……うん、葉山に対しての免罪符が出来て万々歳だ。
「じー」
いやまぁ、葉山の事も嫌いじゃないしむしろ好きとか思いださないでもない今日この頃だが、家族の絆を断ってまでくっつきたいかというと全然そうではない。
「じー」
むしろ、現状維持が出来れば……というのは、やっぱり甘い考えなんだろうなぁ。いつか、葉山と縁を切らなければいけない日がやってくるのかもしれない。少なくとも、魔王っていうのがある分には大丈夫そうだけど。
「じー」
「ところでさっきからわざとらしく覗いているのは誰だよ!」
「むっ、見つかったか!」
そうして扉の向こうから転がり出てきたのは、特徴のない女だった。目鼻立ちも姿形も無個性な、ただ服装だけが派手な少女だった。十二単――あぁ、十二単だ。とても、オチが読めた。
「ふっふっふっふっふ! バレてしまっては仕方ない! 私こそは小さな女の子の味方! 飾るのがめんどくせーなーとか思いつつも引っ張り出してくれた人々の為に祝いまくる三月三日の化身! 雛祭りさんだー!」
えー。
結局連載に纏めずに三作目、まぁいいかと突っ走ります。