7話目
「父さんおはよう」
「アレス!! やっと起きたか!!」
「やっと? そんなに寝てた?」
「何言ってる! もう3日もたっているんだぞ!」
目が覚めると、俺は、自分の部屋で寝ていた。あんな事件が起きた後だが、屋敷は、さっぱりそんな様子は見せていない。もしかしたら、夢だったのかと思ったが……そんなはずはなかったみたいだ。
しかし、3日も寝ていたのか。
起きた時、体が硬いなとは思ったけど、そんなにねていたとは思わなかった。
「アース大商店はどうなった?」
とはいえ、子供の体で案だけ動いたのであれば仕方ないのかもしれない。なので、いったん置いておこう。
今はそれよりも気になることがある。
「……告訴はしているが、ダメそうだ」
「やっぱりそっか」
鎧にアース大商店の紋章が書いてあり、侵入者たちも「アース大商店のやろう」と大きな声で言っていたから、何とかできると思っていたんだけどな。
大商店が、保険をかけないはずがないか。
「王国裁判にかけられているが……癒着がひどいとは聞くからな」
「っち」
「対抗しようとも、出せる金には限りがある」
癒着なんて言葉を聞くのは、日本以来だよ。
あの時は、癒着がひどくて毎日のように駆り出されてたな。できれば聖王国はあんな風にならないでほしいが……すでに、ダメな状態か。
「なら、うちの被害は? 屋敷は魔導師に直してもらったのかな?」
「庭師が亡くなった。それ以外の被害はない」
「そっか」
被害は最低限でおさまった。そういいたいが、どうしても……助けられるはずの命ではなかったのかと、自答してしまう。
しかし答えは出ないだろう。
出しようがないんだ。襲撃の予兆はいくらでもあったが、そのすべての対処を先送りにした。そのうえ、力なき庭師を一人になるような配置にしてしまったのだから。
もし、庭師をあと2人でも雇っていれば、逃げることができたのかもしれない。
もし、父さんの判断を破って護衛を配置しておけば、何とかなったのかもしれない。
もし、俺が庭を壊した時点で、自宅待機にしておけば、こんなことにはならなかったかもしれない。
悔いはたくさんある。あとから考えれば無駄な行動は無限に思い浮かぶ。だからこそ、悔いしか残らないんだ。
「もう一度聞きたいんだけど……アース大商店は咎めはないの?」
「ないだろう。今回のことを広めれば、縮小させられるかもしれないが、一時的なものだ。数年もしたら、元に戻ってる」
「そっか」
別に庭師とは仲がよかったわけではない。庭を使うとき、軽く挨拶する程度だ。だが、仲間意識がなかったわけではないんだ。
あれだけ頑張って、庭をきれいにしてくれたのだから、老後は楽しく生きてほしい。そのためなら、父さんにお願いするくらいならしようと思っていた。
だが……死んでしまったら、どうすることもできない。
漠然とわいてくる、怒りに体が震える。アース大商店に咎めがないのであれば、この怒りのあて先はどこにあるのか。
思考が暗くなっていくのがわかる。
「私もどうにかしたと思っているがな……」
「どうしようもないよ。相手の方が資金があるんだから」
「すまんな」
息を吐く。
俺はこの先どうすればいいのか?
息を吸う。
咎める人がいないのであれば……俺が代わりにやればいいのではないのかと、脳裏に浮かぶ。
「……そうか、これが俺の役目なんだな」
これからやることは前世のリブートだ。
もうやりたくないと、思っていたこと。でも、やらねばダメだと世界が言っている。これ以上腐ってはいけないと、言っているんだ。
ただ……暗殺者に戻るだけ。
手が震える。あんな日々をまた送るのかと、心がおびえているんだ。だが大丈夫だ。
「今回だけ。一回だけだ」
決意を決め、俺は足を進める。
父さんにも、母さんにも、キャサリンにも何も言わない。半日だけ家を出るだけなんだから。
久しぶりに玄関に向かい、扉を開ける。
思い出せ、俺は暗殺者だ。『不滅』と言われたあの時を。
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