5話目
「無理だ」
「はあ? 何を言っているんだ?」
「だから、お前には無理だって言ってんだよ。魔力生成量、魔力保有量、魔力出力量すべて一級品。誰もがうらやむ才能だ。だがな! そんな一周品は人間に制御できるもんじゃねぇんだよ! 見てみろよ!」
よう指さされた方向を見ると、そこには、焼け野原と、クレーターのように穴ぼこになった地面。そこの中にある大量の水。
庭師が頭を抱えて青ざめているのが見える。
「初級の魔法! 生活魔法なんて言われている魔法でなんでこんなことになるんだよ!」
「仕方がないだろう? 制御できていないんだから」
「ふつうは制御できない魔法じゃないんだよ! 誰でも! 魔力回路を生成できるようになった時点で、かんたんにできるような魔法だ!」
そういわれると、残念な惨事だな。俺はこうなると知っていたが、見せてみろと言われたのだから仕方がない。
というか、今回打ったすべての魔法は、魔力回路で一瞬だけ生成した魔力量のはずなんだけどな。
「はぁ。こんなの無理だろ」
俺は手に持っていた、裂けたように壊れている杖を地面に置く。今回使った魔法でボロボロになってしまったのだ。
大量の魔力の負担を一度に押し付けてしまったせいで、壊れてしまったのだ。
結構高かったんだがな……残念だ。
「せめて、出力を抑えれれば……」
「無理。今回だって、魔力を魔法に変換するのが限界で、制御は手放していたので、暴発しているよなものでしたから」
「だよな……あ、そういえば、魔力を受け渡すことはできるのか?」
魔導師は手をこちらへ出してくる。
何をしてほしいのかなんとなくわかるので、ご希望に答えてあげようか。ただ、万が一のために、助言はしておこう。
「気合を入れなよ」
「どういうことだ?」
「3、2、1」
俺は一瞬だけ魔力を生み出し、その魔力を魔導師へ流す。
魔力渡しという技術だ。魔力の保有量が少ない人が、大規模な魔法を使うときに使われる技術なのだが、少し頑張れば習得できるレベルの技術だ。
だが、大量の魔力を一度に送ると事情が変わってくる。
「うお!! なんだこれ!!」
「まだ行けそうか。もういっちょ行こう!」
俺はもう一度魔力を生成し、それをすべて魔導師へ流す。その魔力を何とか制御しようと、魔導師は苦戦するが、あまりの量に、汗を流して耐えることしかできていない。
ただまあ、この程度なら、死にはしないから大丈夫だ。
「なんだよこれ! 多すぎんだろ!!」
「まだまだ。もう一回行くよ?」
「おい、さすがにやめろ! 制御しきれん! こんな魔力量を、いっきに放出したら何が起きるかわからんぞ!」
「大丈夫だよ。その程度の量なら、この屋敷にいるみんな慣れてるから」
「お前、何やってんだよ!!」
何って、毎日のように魔力を放出して、屋敷全体を揺らしているだけだけどな。最初のころは、なんだなんだと、騒ぎになったけど、最近ではいつものことかと、気にもしなくなってくれた。
その証拠に、この庭の惨事でも、誰も出てきていないんだから。
「って、無理だ! 返すぞ!」
すると、送ったはずの魔力が全部返ってくる。
一度にこんな量渡さないでほしいよね。まあ、この程度なら、大丈夫なんだけどね。
「弱」
「何言ってんだ! 無理だろこんな量! つか坊主はなんで大丈夫なんだよ!」
「何とかできているから。ただ、さすがにこの量の魔力だと動けないから、消費するか」
俺は魔力を消費しようと思い、地面に置いたボロボロの杖を持ち魔法を使う。
「変換、身体強化」
すると、魔法を使った瞬間杖は砕けてしまう。でも、魔法はしっかり使えているようで、いつもよりも、何倍も速く走れそうだ。
ただ、この状態で走ると、こけて顔面がすりおろされるから、うごけないんだけどね。それに、下手したら、歩いただけで、地面がえぐれて沈む。
とはいえ、穏便に魔力を消費するのはこれが一番なんだ。
「おい、その魔法全身にかけているのか?」
「そうだよ。一部分に使うとケガの元だから」
「……もしかして、魔力の移動はできるのか?」
「体内に限ってはできる。体の外となると、全くできないかな」
「なら、まずは体内の魔力を移動させることで、練度を上げていくしかないか」
確かに、魔力制御に関してなら、それしか手はないか。いや、その手が見つかった分、よかったのか。魔導師に相談してよかったな。
「もしくは、俺に魔力を送ることを繰り返すしかないな! 魔力渡しは魔力制御の練習になるだろうし、俺も魔力を使えてウィンウィンだ……そう考えると案外ありだな。いや、こっちにしよう! これからお前は魔力タンクになれ!」
「殺す」
俺は、全身にかけている身体強化を動ける程度まで少し解き、魔導師へ一気に近づく。これでも前世は、暗殺者だ。
格闘技に関しては結構自信がある。そんなパンチを食らったらどうなるか? 考えなくてもわかるだろう。
溝内に入った、俺のこぶしは魔導師をノックアウトさせた。
「魔力がほしいなら、いくらでもやる。死ぬまでな」
俺は魔導師の手を握り、生成した魔力を流す。今度は、加減なく生きられる限界まで攻めてやる。しかし、やられっぱなしは嫌なのか、魔導師は起き上がってきた。
「魔力制御で勝てると思っているのか!!」
何をしてももう遅い。そう思っていたが、違う、とすぐにわかる。送っていた魔力が返ってきたのだ。魔力で体がパンパンなのに、送り返せるほどの魔力制御を行えるなんて……さすが魔導師だ。
だが、一つ理解していないことがある。
「俺の魔力保有量は際限ないぞ。いつまで持つかな」
魔力出力が俺のほうが多い分、魔導師のほうが魔力が増えていく。そして、俺はいくらでも魔力を貯められる。
つまり、俺は負けることがなく、勝ち筋も見つかっているんだ。
「くそが!!!」
「負けるしかないんだよ」
「……負けだ。これ以上はむり」
「無様だ。魔力はこちらに送れ。すべて処理する」
魔導師は地に伏せ何をいうわけでもなく、静かに、魔力をすべて俺に送った。
この時点で決まったのだ。師と弟子の序列が。弟子のほうが上だということが。
後にキャサリンがいうには、この時の俺は邪悪な笑みをしていたらしい。
【魔力だけはあるみたいですよ?~魔法は使えないようです~】を読んでいただきありがとうございます!!
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