3話目
「アレス様! 起きてますか!」
「そんなに急いでどうしたんだ? 今日は何もなかったはずだが?」
俺が転生してから、5年がたった。赤子という体であったため、一日という日がほとんど睡眠に使われてしまい、あっというまだった。
だが、その睡眠欲も、最近ではなりをひそめており、これでやっと魔法に集中できると、興奮している。
とはいえ、この五年間何もしていなかったというわけではなく、魔力回路を重点的に練習していたんだ。
そのおかげで、最近ではキャサリンよりも、強い青にできるようになったんだ! もちろんそれだけではないのだが……まあ、その話はあとにしよう。なぜか、キャサリンが焦った様子で、来たのだから。
俺は手に持っていた、『サルでもわかる魔法』という本を閉じて、声の方を向く。
時刻はすでに、12時を過ぎており、昼飯にでもしようか考えていたところだ。
「忘れているんですか?! 今日は魔導師様がきていらっしゃるんですよ!」
「父さんが呼んでくれたやつか。今日より10日後のはずだが?」
「変更になったといったでしょう!」
「そうだったのか」
いわれた記憶はないが……まあ、キャサリンのドジが発動しているだけだろう。たまにこういうことがあるから、最近では慣れてしまっている。
戦闘に関しては、プロフェッショナルなんだが、メイドとしてはまだまだだな。
「なら、準備しなくてはな。よいっしょっと」
「早くしてください! 魔導師様を待たせているんですよ!」
「待たせておけ。10分も待たせないから」
「もう!」
俺はゆっくり着替え始めようとするが、しびれを切らしたキャサリンが、無理やり着せてこようとする。別にそんなに急がなくていいんだが……まあ、いいか。
「服は乱暴に扱うなよ?」
「そんなこと言っている場合じゃないでしょ! 待たせてしまっているんですよ!」
「そんなことよりも、服のほうが大切だ。魔導師程度待たせておけ」
下手に急いでしまうと、父さんに迷惑がかかってしまうからな。こういうのはゆっくりと準備する位がいいんだ。
「はい! 準備できました! 行きますよ!」
「ああ。いや、ちょとまて、本を棚に戻すのを忘れていた」
ゆっくりと机の上に置かれていた本をもち、棚のほうへ歩いていく。父さんと母さんは、各地から本を際限なく集めてくるため、俺にも収集癖がうつってしまった。
とはいえ、まだ、壁一面でおさまっているから、ましだろう。
父さんなんて、そこらの本屋なんて目じゃないほどの量を集めているんだから。人が5人は寝れるような広さの部屋を5部屋も使わないと入りきらないほど本を持っているんだから。
まあ、そのおかげで、最近はこの国のこともわかってきたのだがな。
「早くしてください!!」
すると、俺の横から突風のような風が吹いた。何だと思うが、それがキャサリンのせいだとわかったのは、手に持っていたはずの本が棚の中に入っていたことですぐに認識できた。
「埃が舞うから、部屋の中では走らないでくれ」
「埃なんてありませんよ!」
「そうか」
「そんなことよりも、早くいく行きますよ!」
開けられた扉から、廊下に出て、魔導師が待っている玄関へ出向く。この屋敷は結構大きいから、この体では、あるきまわるだけで疲れてしまうんだよな。
ただ、疲れたとて、使用人に抱っこなどをしてもらうのは、精神年齢が高すぎて拒否感が出てしまう。
そのせいで、最近は庭から俺の部屋までの行き来しかしていない。
玄関まで行くのは何か月振りなんだろうか? と疑問に思うほどだ。
「父さんお待たせしました」
「来たか。寝ていたのか?」
「いえ、少々読書に励んでおりました」
「それはいいことだ。なら、呼ばないほうがよかったか」
「いえ、魔導師にも興味がありましたから」
父さんは俺が来たことを確認すると、手に持っている紙の束を渡してきた。子供の体では持つのも苦労するが、俺は難なく持ち、内容を確認する。
中身は、なんてことない経理の資料だ
「1週間後の夜に渡しにこい」
「わかりました」
後で会うための口実に、渡してきたのだろう。侯爵ともなると、子とすきに合う時間を作るのは苦労するらしいから、業務として会う口実を作りたいみたいだ。
最近はこういうことが多くなっているから、慣れてしまった。
「では私は業務に戻る。何かあったら、執事に言え」
「ありがとうございます……待たせました魔導師。話をする席は用意しているから向かおうか」
父さんが行ったのをみて、魔導師へ声をかける。
着替えていた時間と、話していた時間を合わせると、待たせすぎたか? と思ったが、魔導師は何やら分厚い本を開いているので気にしなくても大丈夫そうだ。
だが、さすがにイラついてはいるようで、パタンと音を立てて、本を閉じ何も言わずについてくる。まあ、俺も建前的な会話は好きではないので、咎めるようなことはしなくていいだろう。
「さあ、すきに座ってくれ。魔導師に無礼だとはいわないからな」
「そうか。なら座らせてもらうぞ」
魔導師はそういうと、ドスンとソファーを痛めるような衝撃を与えながら、足を組んだ。俺は、そのことに何か思うことはなく、キャサリンを見る。
「キャサリン。お茶を淹れてくれ。グレードは一番下のやつでいいさ。あと、魔力薬を3本ほど持ってきてくれ」
「かしこまりました」
訂正だ。少しイラついているみたい。
本来であれば、最高級品を出すはずが、一番安いやつと言ってしまった。
まあ、一番下といっても平民では飲むことができないようなものが出てくるはず……いやちょっと待て、この前、飲み比べてみたいといって買い漁った覚えがあるな。
……もしかしたら、飲めないような粗茶がでてくるかもしれない。そう思ったとき、目の前からバン! と大きな音が聞こえた。
魔導師が机をたたいたのだろう。
「おい坊主。なめてんのか?」
「何を言っているんですか? 招待して茶まで出しているでしょう?」
「しらばっくれるつもりか」
てか、改めて魔導師を見てみると、筋肉でムキムキだな。ローブで隠れていて見えなかった。
「まあ、過ぎたことなのでいいでしょう? 早く本題に入りましょう」
「……まあいいさ。俺を呼んだからにはマシなことを言え」
「今回あなたを呼んだのは、魔法について教えてほしいと思ったからです」
「坊主にか? だったら、魔力回路を作れるようになってから出直してこい」
「魔力回路なら作れていますよ……あなたよりも上手くね」
そもそも、魔力回路を作ることが、魔導師を呼ぶ条件だったんだ。5年前から練習していたし、できないわけがない。
「ははは!! 俺よりも上手くできるって? なに戯言をいってやがる」
俺の言葉を戯言を蹴り返してくる。まあ、確かに年齢が二桁にすら届いていない子供に「俺のほうが上だ」と言われたら笑うことすらできないだろう。
ただ、その笑いは侯爵家として許すことはできないな。
「そうか……キャサリン、空の魔石はあるよな? 同じ大きさを2つほどほしい」
「かしこまりました」
キャサリンは席を立つと、5秒もしないうちに魔石を二つ手にもって戻ってきた。大きさは……俺が片手では握るのに苦労するくらいの大きさだ。
「どうぞ」
俺は二つともキャサリンから受け取り、そのうちの一つを魔導師に投げて渡す。難なく受け取った、魔導師は渡した意味がわかったのだろう。
「おいおい、俺をなめてんのか? こんなことやっても意味ないぞ?」
「本来なら意味がない。こんなことはプライド勝負でしかないからな」
「なら、やらねぇぞ」
「プライド勝負といっただろう? そんなこともわからないのに、魔導師になれたのか?」
空の魔石を渡すというのは、魔法業界において、一種の力比べだ。
なので、別にやらなくてもいいのだが……相手が俺なら状況は違う。魔導師が、子供の挑戦を受けもしないというのは、世間が許してくれないんだ。
……このままやらなければ魔導師とはいえ、仕事がなくなるかもしれないんだ。
「っち! やってやる。だが、負けても何も言うなよ!」
「魔導師も泣かないように……キャサリン合図をお願いしていいか?」
「はい。3、2、1でスタートいたします。よろしいでしょうか?」
「いいよ」
「ああ、いつでもいいいぞ」
「では、3、2」
俺は全身の魔力回路を起動する。5年間毎日欠かさずやってきたおかげで、今では、なんの滞りなく、スムーズにできる。
それに、全身に見える青い線が、目の前にいる魔導師よりも濃い。
「1」
魔導師は手に持っている魔石に集中し始める。
しかし俺は、魔石に集中することはせず、今も魔力回路に意識が向いていた。
「0、スタートです」
その瞬間、俺は起動した魔力回路を使用し、魔力を生成する。それはまるで加減するような力の入れようだ。だが、それでも一瞬で莫大な魔力が生成された。魔力回路の暴力だ。
それは、この部屋を揺らすほどであり、俺以外の人は魔力の圧だけで息を吸うのが苦しくなる。そんな魔力を一気に魔石へと放出する。
1秒にも満たない間の話だ。
だがそんな短い間に、俺の魔石は砕け散っていた。
「勝者はアレス様です」
はあ、久しぶりに魔力回路を使ったから疲れた。魔力回路は魔力を生成する器官で、俺の場合は魔力回路の本数が多いから、少し使うだけで一気に魔力が生成されてしまうんだ。
少しの加減でこの屋敷が崩れてしまうかもしれない。だから、ぎりぎりまで魔力回路に意識を向けていた。
「な、なんだよそれ……」
魔導師が持っている魔石は、まだヒビすらできていない。これは、魔導師がダメだという話ではなく、これが普通なのだ。
神様のところで『魔力回路+1』を取りすぎたからこうなってしまっただけでなんだ。
「俺の勝ちだから、話くらいは聞いてもらうよ?」
「くそが!!!」
すると、魔導師は席をたちどこかへ行こうとしてしまう。ここまでやったのに、帰られるのは嫌だな。
「立たないでください」
「てめぇに教えることなんてねぇよ。本でも読んで練習しとけ」
「ありがとうございます。では、座ってください」
「じゃあな」
これは本当に帰っちゃうな……どうしようか。このままだと、また父さんいお願いしなきゃいけなくなっちゃうぞ。
そんな時、ちょうどよくキャサリンがお茶を持ってきた。
「どうぞ。最低グレードのお茶でございます」
「ありがとうキャサリン。ただ、魔導師はもう帰られてしまうみたいなんだよな……」
せっかく淹れてくれたんだけど、もう遅いんだよな……って、このお茶最低グレードじゃないか。こんなんじゃまた、煽るだけになっちゃうな。
……いや、ちょうどいいか? せっかくだし、最後まで煽り散らかそうじゃないか。
「せっかくだし一口飲んでくれないか? うちのメイドが淹れてくれたんだ」
「っち!」
すると魔導師は座り直し一口飲んでくれる。根は悪い人じゃないんだよな。まあ、ただ、座ってくれたらこっちのもんだ。
魔導師はお茶を口に含む。すると、まるで顔の色が変わったように、口をふさぎ無理やり喉を鳴らす。
「うぇ!! なんだこれ! くそまずい!! なんてもん飲ませるんだよ!」
「すまないね。うちの最低グレードのお茶はそれなんだよ」
「こんなもん飲んでいれるかよ!」
「まあまあ……キャサリンお願い」
すると、キャサリンは打合せしたかのようにティーポットから、最低グレードのお茶を淹れタプタプな状態に戻す。
それを見て、魔導師は顔を青ざめた。
お茶を足しただけなのに? と思うかもしれないがそうはいかないんだ。この国のマナーで、ティーカップ9割以上淹れられたお茶は飲まないといけない。
そうしないとご厚意をないがしろにする……と思われてしまうらしい。
それが、わかったからこそ、魔導師は青ざめているのだ。
「おい! 俺はもうこんなの飲みたくないぞ!」
「何を子供のようなことを言っているんですか? まあ、さっそく今回の本題に入りましょうか」
「帰るからな! こんなのすぐに飲んじゃえば……」
俺は魔導師をむしして、話始める。
そんなことをむしして、お茶を飲み始めるがゴミ以下の味がするお茶は、一口で飲み切ることはできず、カップを口からはなしてしまう。
その間に、キャサリンが手に持ったティーポットからがばがばとお茶を淹れていく。
「おい! 入れるのやめろよ!」
「いえ、おもてなしすることを、命令されていますので」
「クソ! ……ふー、一回で飲み切ってしまえばいいんだ。そうさ、飲み切ってしまえば……おぇぇぇ」
「まずこちらの同意書に名前を書いてください。その次に……」
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