12話目
俺はあの後、父さんにこっぴどく怒られてしまった。しかし、やってしまったことは後戻りできないといいながら、正装を準備してくれる。さすが父さんだ。
とはいえ、さすがに魔法王にはあいたくないみたいで、家で待機することにしたらしい。
いや、間違っていないだろう。
俺も行きたくないもん。しかし、王に言われたからには行かなければ、不敬罪で本当に殺されてしまうかもしれない。
いや不敬罪はもう万役どころかって話なんだけどね。
「じゃあ行ってきます」
「死体は残っていることを願うぞ。葬式は上げたいからな」
「腕一本は死守するよ」
俺は父さんに気合を入れてもらい、王城へ向かうこととなる。しかし、うちから王城までは結構遠く、馬車でいくと絶対間に合わないので、俺の足でいくしかないんだけどな。
なんで、今日の12時なんかにしたんだよ。
とはいえ、間に合わせなければいけない。
俺は魔力を生み出す。今回は一直線で走っていけばいいから3秒分だ。制御はできないが、王都までは野原が続くから、制御できずとも大丈夫。
よし行くか!
それから、数時間後。俺は1時間の余裕を持って何事もなく、王城に付くことができた民のみんなは平和の象徴なんていうが、今の俺にとっては悪魔の城と言われたほうがしっくりくる。
「門番さんすみません!」
「どうかしましたか?」
「侯爵家の長男アレスといいます。魔法王に招待されたので見参しました」
「王印があるものは持っていますか?」
「どうぞ」
俺は、門番さんに入れてもらうために、昨日もらった手紙を見せる。すると、明らかに額に汗をたらし、手紙を持っている手を震わせた。
「おまえ、何やったんだ……」
「いやーちょっと、やっちゃって」
「王がここまで怒っているのは見たことないぞ……もし朝付き人がバタバタしていたのも、王が怒っていたからなのか?」
「え……本当ですか」
「いつにも見ないくらいバタバタしていたぞ。いつも冷静な執事が走っていたくらいだ」
本当に、やばいんじゃない?!?!
「……入っていいぞ。てか入れ」
「嫌です」
「お前に拒否権はない」
「侯爵家だぞ!!」
「相手は王だ」
「そうですよね」
いや、わかっていたよ。王の命令は何よりも優先されるって。でも、俺を殺すのに、城の中をバタバタさせるって、何をやらせるんだ……もしかして腹切りだけではおさまらない感じ?
苦しみながら殺して、魂までなくそうとしている??
魔法王ならできそうだな。
俺はそのまま、待機室まで通される。
「そのまま、呼ばれるまで待っていてください」
「何ですかこの時間。生き地獄でしかありませんよ」
「魔法の練習でもしていればいいでしょう」
「魔法王の魔法に対抗するため?」
「疲れて抵抗なくなってほしいから」
いや、使用人たちも、本当に俺が殺されるって信じてんじゃん!
嫌だよ! こんなところで、死ぬのは!
そう思っていると、時間の流れは速いようで、ぼーっとしていたら時間は来てしまった。
「付いてきなさい」
「はい」
「疲れているんですか?」
「入れからの処遇を考えると精神的に疲れないはずがないじゃないですか」
「ですが、本当に殺されるとき、疲れていたら、何もできませんよ?」
「そっか。そうですよね!」
俺は気合を入れ直す。父さんに言ったんだ、腕一本は残すと。
こんなところで意気消沈していたら、どうにもならないぞ!
そう思いながら歩いていると、俺の身長の5倍はありそうな扉の前に来た。いやこの大きさは門といったほうがいいだろう。
「王の間です。失礼がないように」
「はい……」
俺は思いっきり深呼吸し、今までにないほどのビートを刻む、心臓を休ませる。これ以上緊張すると何もできなくなる。
その時、大きな声で俺の入る合図が出された。
「バストロン侯爵家 アレス・バストロン。入れ!」
その言葉とともに扉が開いていく。するとそこに見えるのは、壁際にきれいに立っている騎士たちと、豪華な椅子に座っている魔法王だ。
魔法王は師匠のようにがたいがよく、一見魔法を使っている人のようには見えない。魔導師のほとんどは、研究に夢中になって、運動なんてしないからな。それに、魔法を使うのに身体能力が必要な場合なんてそうそうない。
それこそ、俺のように身体強化しか使えないなら、まだしも火や水を出せるならそちらの方が実用性が高いのだ。
だから俺は驚いていた。
魔法以外にも、王としての業務もあるのにあれほどの肉体を維持しているとことに。そのうえ、魔法王はすでに60代のはずだ。
30歳を超えると衰えていくだけとはよくきくからこそ、敵に回してはいけないというのがよくわかる。
「アレス・バストロンです。今回は招待いただきありがとうございます」
ひざまずき、王に敬意を払う。
今敬意を払ったとしても、遅いかもしれないが、やらなければ壁際にいる騎士に切り捨てられるだけ。今は最大限、媚を売らなければいけないのだ。
「頭を上げよ」
「ありがたき幸せ」
王が口を開いた。魔法王の言葉を効くなんて、覚えている限りでは、王族のパーティーいらいだろう。その時は「楽しめ!!」の一言で終わったが、今回は一言で終わらないのは確実だ。
しかし、次の言葉はすくには来なかった。
魔法王は、何か考えるように首を傾けている。
「まずは礼を言おう。アレス・バストロンは都市魔道犯罪者を捕まえた。禁法を有しており、野放しにしていては被害が拡大していただろう。よって褒美を授ける。持ってまいれ」
すると、そばにいた人が俺に近づき、豪華な装飾がされた短剣を手渡した。重さはなく、実戦に耐える構造にはなっていないだろう。しかし刃を見てみると鋭くなっており、切ることはできる。
これで腹を切れっていうことか?
「アレス・バストロンに第六称号を授ける」
「ありがたき幸せ」
これって、第六称号だったのか。そんなものをもらえるとは思わなかった。
称号とは、国王が授ける、褒美の一種で、国に貢献した人にさずけることができるんだ。その中で第六称号は、一番下の称号ではあるが、それでももらえた人は少ない。
これを持っているだけで、位が低い貴族に対してであれば威張れるほどだ。
「それと、少々昔のことにはなるが……国家反逆を企てていたアース大商店、ラララ専門商店、トドン小売店、聖王国裁判所の悪事を暴いてくれたことをここに賞す」
王の言葉に、当たりがざわつく。
それもそうだろう。俺が内密に進めていた上に、数年前のことなんだ。
その商店が亡くなったことすら、忘れられていると思っていたんだが……王にはばれていたか。どこに耳があったんだろうな。
「持ってまいれ」
そう言い渡されたのは先に渡された短剣よりも豪華な装飾がされており、刀身が倍以上長くなっている剣だ。
それも、しっかり砥がれており、実戦には耐えないが一人切る程度ならできるだろう。
「アレス・バストロンに第三称号を授ける」
「ありがたき幸せ」
マジか!!
今は大きな声を出せないが、下を向いた俺の顔は変な顔になっていただろう。だって、第三称号だよ! ここ70年は与えられていなかった称号をもらったら、そりゃあにやけてしまう。ただ、称号自体にはなんの効力もないんだけどね。
でもなんでこんなに、称号をくれるのだろうか?
もしかして、殺されるって思っていたのは俺の妄想だったのか?
「これで禁法を見れる状態に近づいたな」
「あ、そのために」
魔法王がぼそっと言った言葉が俺の耳に入る。
もしかして、わがままを言った俺のために、わざわざ過去のことも掘り返して称号を授けてくれているのだろうか。
……すっごい優しいじゃん魔法王!!
なんかすごいおおらかな人に見えてきたよ!
「だが、これだとまだ許可はできぬ」
まあそりゃあそうだよな。禁法は見るのにものすごい権限が必要だ。それこそ、侯爵家の長男で、魔導師で、第六称号と、第三称号を持っていたとしても、拒否されるくらいだ。
ただ、あと一つ何かもらえれば見れるところまではいった。
もしかして、それを何とかして取れっていうことなのかな?
「だから、今ここでこの場にいる騎士全員と対決してもらうこととなった」
「はぁ?!」
ごめんやっぱり前言撤回だ。あれは邪悪な魔法王だ。おおらかでも優しくもない。俺の罵倒に怒り、仕返しをするのを楽しんでやがる。
だって、今の魔法王の顔、ものすごいにこやかだぜ!
禁法という餌を目の前に出してわんわん喜んでいるところを、叩き潰して絶望に落とそうとしてやがる!
「100対1か。魔導師で第三称号を持っているなら妥当だ。われが合図出すから用意しろよ」
妥当じゃねぇよ1 と大きな声で言いたいが、今はこの瞬間を乗り切らなければ。だって、騎士の人たち苦笑いしてるぜ。
こんな子供を騎士100人と戦わせるなんておかしいよな! それも、国王を守るエリート中のエリートと!
だが、ぐちぐち言えない。
俺はすぐに、魔力を生み出し身体強化を行う。今回は最初っから前回の2秒だ! 速攻で終わらせてやる!
「スタート」
俺は思いっきり地面を蹴り、一番近くにいた騎士の顔面を蹴とばそうとする。
まずは一人!
と、そう思った瞬間、俺の目の前に剣が出された。このまま突っ込むと、切られるかもしれないが、関係ない!!
剣を靴でけり上げ、騎士の頭はこぶしで殴り飛ばす。
できるだけ、後ろに飛ぶようにだ。このまま、後ろにいる騎士までダウンしてくれればうれしいな。だがそんなことを考えている余裕はなく、殴り飛ばした瞬間、後ろから切られる!
「まあ、これは無視していいか」
俺はその件をそのまま受けた。だが、服以外切れることはなく、体がびくともしていなかった。
身体強化をしているうえに、俺の体は『頑丈』なんでね! 剣程度ではりられないよ! それがわかったのか、今度は、騎士たちの中の数人が魔力を生み出し始める。
魔法で攻撃するつもりなのだろう。
早速対策し始められてしまった。
と、その時俺の目には強い魔力を感じた。
騎士たちの後ろのほうからだ。誰かが強い魔法を使おうとしている。それを止めなくてはいけないと、本能的に体が動いた。地面を蹴り飛ばし高く飛び、騎士たちの頭の上を抜けた。
「まずはお前だな!」
魔法を使える騎士は初めのほうに潰さなければ!
そう思い、思いっきり殴る。魔法を使おうとしていただけあって逃げることはできない!
「よしつぎ!! ……って」
すぐに、別の騎士を倒そうと思い、構えるもすでに俺の体には騎士たちがのっかっていた。動かさないつもりだろう。
頑丈な体のせいで、攻撃は通らないんだからな。でも、俺の体は『頑丈』な以外にも『柔軟』なものでね! この程度の拘束は簡単に抜けれる! と、思ったその時、俺の体に魔法がかかった。
「え、ちょっと待って動けないんだけど」
「いまだ! 魔法を使え!」
「ちょ、本当に、本当に死ぬ!」
「今しかないぞ!」
結果、最初は善戦したと思ったけど、簡単に倒されてしまった。
いや、騎士100人は無理だって。
そもそも騎士1人でも勝てるかどうかなのに、100人集まったら勝ち筋なんてないからな。なんでこんなことやらせたんだよ!
結果なんてやらずともわかることだろ!
そこでやっと魔法王が口を開けた。
「やめ! 騎士団の勝利だ!」
すると、その言葉を皮切りに、俺を拘束していた騎士たちは離れて行って、さっきのように壁際に戻った。
しかし、もみくちゃにされた俺はまだ立ち上がることができず、ごろごろしている。
すぐに起き上がれるわけがないよね。でも、起き上がらなきゃ話が次に進まないよな……そう思っていたが、魔法王は寝転がっている俺を前にして口を開いた。
「勇気を持って懸命に戦い、一人で100人の騎士と善戦したアレス・バストロンに褒美を与える。持ってまいれ」
ん?
褒美……て、そういうことかよ!
てっきり嫌がらせかと思っていたけど、戦ったことを、褒美に変えるなんて思ってもいなかった。いや、褒美を与えるだけならほかにも方法はあるだろ!
「アレス・バストロンに特殊第六称号を授ける」
「ありがたき幸せ」
渡されたのは、一番最初に渡された第六称号の剣より少し装飾が減った短剣だった。それは大きなことは成し遂げていないが、特別に称号を与える時に使われる称号だった。
なので、第六称号よりも低くするため『特殊』なんて言葉が付いている。
とはいえこれで、禁法を見ることができるようになっただろう。
「これによりアレス・バストロンは禁法閲覧権限の一部取得を行う。魔導師バッチをこちらに持ってまいれ」
「一部取得?」
もしかして、全部を見ることはできないのか? まあでも、魔力に関することだけでも見ることができたらいいかな。それ以外は、俺が扱いきれる範囲を超えている。
俺は胸につけていたバッチを取り外し、側近へ渡す。
すると、側近が魔法王に渡してくれた。安全のためなのだろうが、目の前で騎士100人と戦ったことのほうが危険なんだからやめさせてくれ。
「禁法閲覧権限の一部取得を行うにあたり、魔導師バッチをの形状を変えさせてもらう。また、二つ名を恐怖なるもの『スケアリー』から、未知なるもの『アンノウン』へと変更する」
「ありがたき幸せ……え、二つ名まで変わるの?!」
別に変な二つ名ではないと思うから別にいいけど……
そう思っていると、側近の人がバッチを渡してきた。見るとそこには見たことがないバッチがあった。本来であれば、杖にローブがかぶさるような見た目だったのに、渡されたのは夜空みたいな……いや、このバッチなんか動いてるぞ!
よく見てみると、バッチの中の星が動いているのだ。
ってあれ?
その星をよく見ていると、文字になっていく。えっと『応接室に来なさい』って話そうってことなのかな?
その文字は、ここに来る時にもらった手紙のように怒りがこもっているわけではなかった。
「では、アレス・バストロン。下がれ」
その言葉とともに俺は部屋から出ることとなった。
えっと、この後応接室に行かなきゃいけないんだよな? そう思っていると声をかけられた。
「アレス様ですね、応接室へ案内いたします」
「ありがとう」
【魔力だけはあるみたいですよ?~魔法は使えないようです~】を読んでいただきありがとうございます!!
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