10話目
「えっと、ここら辺だったような……」
俺は屋敷を飛び出し、魔道図書館へきているのだが、最近は来ていなかったので場所がわからなくなってしまった。こんなことなら、師匠についていけばよかったか。
まあでも、適当に歩いていればだろ。
ここら辺にあることは間違いないんだから。
そんな風に歩いていると、なぜかどんどん見覚えがない道に入っていく。明らかに、ここではないというのはわかるのだが……こっちな気がするんだよなー。
「やっぱ違ったか?」
「こんなところで何しているの?」
「ん?」
声の方向を向くと、俺と同じように胸にバッチをつけた男に出会った。なぜかローブをつけていないが、同じ魔導師なのだろうか? なら、魔道図書館の場所もわかるかもしれないな。
「魔道図書館に行こうと思っていたんだけど、道に迷っちゃってね。どっちにあるか教えてくれないか?」
「魔道図書館? それなら、左側の道を進んでいくと大通りに出るから、ひとまずそこまで行くといいんじゃないかな」
「ありがとう」
俺は言われた通り、左側の道を見る、するとそちら側には人がたくさん通っている。てか反対にこの道は俺と目の前の人しかいないな? 言われた通りそっちに行ってみるか。
っと、その前にお礼を言わないとな。
「魔導師だよな? 名前を教えてくれないか? 礼を言わせてくれ」
「いいよ別に。魔導師同士助け合いだよ。魔導師が魔道図書館の場所がわからなくなんてないと思うけど」
「いうなー! 仕方ないだろ? 修業ばっかりしてたし、魔導師には最近なったんだからな」
「へー。最近魔導師になったんだ……もしかして『スケアリー』?」
「知ってるのか」
「君のような子供で、魔導師になったのは少ないからね。それにしても『スケアリー』がこんなところにいるなんて思わなかったよ」
「そうか? 前までは普通に来てたぞ?」
前って言っても、1年以上前だけどな。あの時は、魔導師としての享受にかぶりついていた。今では落ち着いて、必要な時に必要な分だけ使うようにしているがな。
まあでも、珍しいことには変わりない。
久しぶりのせいで、道に迷ったんだからな。
「そっか、まあでもちょうどよかったのかもしれない」
「ちょうどよかった? どういうことだ?」
その瞬間、不穏な気配が漂う。
目の前の魔導師からだ。明らかにやばい雰囲気を醸し出しており、すぐに逃げなければいけないだろう。しかし、俺が足を踏み出す前に、目の前の魔導師は行動に移っていた。
後手に回った。
「おいおい、こんなところで戦いたくはないよ!」
「それは君の事情だよね。起動 閉鎖結界」
魔導師はいつの間にか、木網のバスケットを取り出していた。その中から、一枚のカードのようなものを取り、一言つぶやく。
すると、辺り一面に結界が貼られたのだ。
何事かと思ったが、『魔力眼』でよく見ると内部の圧力に強く作られている結界だということがわかる。結界は基本的に外部の攻撃を耐えるために使われるから、こんな使い方は初めて見た。
ただ、見たことがないだけで、対処は簡単だ。
無理やり破壊してしまえばいい!!
魔力回路を起動し魔力を生成する。今回は1秒でいいか。
「変換 身体強化」
「やらせないよ、起動 ペースダウン」
俺は杖をかえして身体強化を使おうとした瞬間、魔導師はもう一度バスケットの中からカードを取り出し魔法を使用する。
魔導師のほうが、魔法を使うのが遅かったはずだが、先に効力を発揮した。単純に、俺の練度不足だろう。
しかし、身体強化を起動できてしまえば、こっちのものだ。そう思い、体を動かそうとするが、なぜか体が重い。
「身体強化が使えない?!」
「終わらないよ。起動 魔力誤認」
「っち!」
相手の魔導師は、デバフを使うタイプのようだ。なら、下手に動くのはよくない。それに、今の魔力誤認といった魔法……怖すぎるだろ。
細かい調整で成り立っている俺の魔力に対してかけているのだとしたら……下手したら魔法が暴発する。
でも、何もやらないことには進まない。魔法が使えなくとも、普通に動くことはできるんだ!
「思いっきり殴ればいいか」
「物騒だね。でもこれで詰みだ。起動 魔力爆発。これは体の魔力が爆発するから、逃げようがないよ」
「な!!」
魔導師同士の殺し合いで、魔力を爆発するだと! そんなの対処のしようがないじゃないか! 魔法を使うのには魔力が必要だから、絶対に効力があるといってもいいのだから。
……なのに、爆発音はどこからもしない。
いや、爆発しようがないのだ。
「残念! 俺は魔力を生成していないんだよ!」
俺は勝ちを確信して何もしていなかった、魔導師の前にただの身体能力で近づき思いっきり殴り飛ばす!!
「グハ!! なんでだ!!」
「身体強化の魔力も、なぜか消費されていたしな。あれば消費されていなければやばかったかもな」
俺の魔力回路の性質上、動いているときに魔力を生み出すことはできないし、生み出した魔力は量が多すぎて、動こうとすれば爆発する。だから、魔法を使うときはちくいち魔力を生み出さないといけないんだ。
普通の魔導師はそんなことはせず、戦うときは常に魔力を生み出し、その生み出した魔力を何に使うか考えるのだ。余った魔力は貯めておけばいいしね。
だから、倒せることを確信していたようだけど、俺には効かなかったようだ。
「てか、急に何するんだよ。いや、あんがい運がいいのか? 魔力に干渉する魔法資料を奪えるんだから」
魔導師の犯罪者を捕まえれば、その魔導師の研究使用は捕まえた人のものになる。つまり、こいつを捕まえれば、魔力に干渉する研究を奪えるってことだ。
今ちょうどしらべようとしていたことだから、ちょうどよかった。
それなら、逃げないように拘束しなきゃな。
「お前なんかに僕の研究を奪わせるか! 起動 物理結界!!」
「逃がすかよ!! って、なんだそれ!」
目の前から結界が迫ってきて、捕まえようにも前に行けない! それどころか、迫ってきているせいで距離が離れているんだが?!
って、逃げてるじゃん!
俺が、結界から逃れようとしている間に、魔導師には逃げられてしまった。こんなことなら、もっと強く殴ってればよかったな。
筋肉はなさそうだったから、臓器一つくらいは潰せたのに。
そう思っていると、閉鎖結界というのも解かれたようだ……せっかく魔力に関して知る絶好のチャンスだったのに。
「失敗したなー」
俺は一人、道の真ん中で後悔するのであった。
いや、まだあきらめるのは早いか? 今ならまだ終える距離にいるはずだ。それにあの魔導師は貧弱な体をしていたから、逃げていたとしてもそう遠くない。
そう思うと、案外いけそうだな。
よし!
「変換 身体強化」
今度こそ、使えた身体強化で俺は逃げたであろう道を突っ走る。
いや、これだと、分かれ道の時に、わからなくなるな……屋根の上を走るか! 思いのまま、壁をけって屋根の上に上り走り出す。
案外いい案だったようで、見通しがよく、すぐに見つけることができそうだ。
そんな時、俺の視界にはだらだらと飛んでいる、手助けしてくれそうな人を見つけた。
「師匠!! 手伝ってください!!」
「あ゛?? 坊主じゃねぇか! なんでこんなところにいるんだ!」
「そんなことはどうでもいいでしょう! 今は魔導師の犯罪者を見つけてください! 魔力に関した研究資料を持っているはずなんです!」
「なに、卒業まじかの魔法生みたいなこと言ってんだよ」
「早くしてください! この近くにいるはずです!」
「はぁ。いいけど、その研究資料俺にも見せろよ 転換 物体探知」
師匠が手伝ってくれるなら、百人力だ!
「あーーー、わかんねぇが、多分青い屋根の近くにいるぞ」
青い屋!! 辺りを見渡してみると、すぐに見つかった。周りが、茶色い屋根ばっかりだから、目立つな。
でも、あとは俺が視認するだけ!!
「見つけた!! あの人で間違いないです!!」
「よし、ならすぐに捕まえるぞ」
俺は屋根を走り、師匠は宙に浮いて追いかけていく。その速度は、地を走ってまっすぐ逃げている魔導師に追いつくには十分な速度だ。
だが、ダメだと俺の目は言っていた。
「魔力?? いや、あれは透明になる魔法か! 師匠! 物体探知は切らさないでくださいね!」
「わかってる!」
魔導師は消えてしまったが、俺の目には見えている。
透明になっても、魔力の反応は消えないんでね!! 俺のことを撒こうとおもうなら、魔力を空っぽにしてから出直しな!
俺は、屋根から飛び降り、魔導師の背に飛び乗る。
「捕まえ……あれ?」
飛び乗った魔導師からは、なぜか綿が飛び出していた。どこかで人形と変わっていたみたいだ!
「師匠!」
「人遣いが荒いんだよ」
「師匠が間違えたのが悪いんです!」
「わかっているよ! 本体は……大通りにいる!」
「大通りですね!」
俺は再度屋根に飛び移り、大通りを見る。
「大通りのどこらへんですか!」
「……いや、あっちの塔からも反応があるな。でも、大通りにも……魔道図書館らへんにも反応があるぞ?」
「ど、どういうことです!」
「ダミーがたくさんいるんだ」
つまり2体もはずれがいるのか。いや、これからどんどん増えていく可能性があるか? なら、捕まえようがないぞ。でも、研究資料はほしいな。
「いや、全部の反応がなくなった……撒かれたか」
「マジですか」
「これ以上は俺はどうしようもないぞ」
「そっかー」
あーあ。走ることもできなさそうな、貧弱な魔導師だったのに逃げ切られちゃったか。せっかくの機会だったけどもうあきらめるしかないよね。
「いや、何とかなるか?」
その時、俺の脳は一つの可能性をみいだした。
「どういうことだ?」
「……師匠ついてきてください」
「はあ?」
俺は、師匠に一言入れて屋根を蹴とばす。まるで弾丸のようになっているが、これでも制御はできているんだ。
それに、この速度でいかないと間に合わない可能性がある。
なぜなら
「やっぱりいた」
俺は戦った道へ戻ってきた。するとそこには腹を抱えてうずくまっている魔導師がいたのだ。
「……なんでばれたのか教えてもらってもいいかな」
「お前が貧弱であることを願ったからかな。ローブもなしに、食らったパンチは痛かったよな」
「そういうことか。油断しすぎたな」
魔法を使うのは相当の技術が必要だ。それは熟練した魔導師でも、走りながら魔法を使うことができない人がいるほど。現に俺はできない。まあ、師匠は走るどころか浮きながらでもできるが……まあそれは関係ないか。
つまり何が言いたいかというと、攻撃を食らったうえで走りながら魔法を使える人はそうそういないということ。
なのに、この魔導師は目を離したうちに、一瞬でいなくなっていた。それも、ダミーを作りながら。
せめてローブでも来ていれば何とかなったのかもしれないな。
魔導師が着るローブは、特殊な加工をされていて、ある程度の攻撃は軽減してくれるんだ。だから、ローブをきられていたらどうなったかわからない。
「んじゃ、お縄にかかろうな」
「ふん。『スケアリー』なんかからはもう一度逃げ切ってやるさ」
「はぁ? 俺一人で捕まえようとは思ってもいないぞ? お前がだらだら腹を抱えている間に助っ人を呼んだんでね。お願いしますよ師匠」
「いつも人使いが荒いな」
師匠が空から降りてくる。タイミングばっちりだ。
「逃がさないでくださいね」
「そんなことするかよ。転換 幽閉結界」
すると師匠は魔導師の周りに結界を貼ってしまった。しかし次の瞬間には、その結界が縮小していき、手のひらサイズになってしまった。
「殺したんですか」
「殺すわけねぇだろ! こういう魔法なんだよ!」
「そうなんですか……てか、見せしめですか?」
「はあ何が?」
そりゃあ、その魔導師が閉鎖結界っていう、幽閉結界よりも強度が低い魔法を使っていたからなんだが、師匠は知らないことだから別に言わなくていいか。
「別に何でもないです。てか、それを持って詰所まで行きましょ」
「いや、何含みを持たせてんだよ! 教えろよ!」
「早くしてください。研究資料を早く見たいんですよ」
「あーもうわかったよ!」
【魔力だけはあるみたいですよ?~魔法は使えないようです~】を読んでいただきありがとうございます!!
ブックマークや評価をしてくださるとうれしいです!!




